昇圧薬・降圧薬の希釈とγ計算 ― CEの早見

はじめに
手術室では、血圧を上げる薬(昇圧薬)と下げる薬(降圧薬)を、希釈してシリンジポンプや静注で使います。臨床工学技士(CE)は、ポンプの設定、薬剤の濃度、ラインの確認を通じて、この投与の安全にかかわります。
この記事では、γ(ガンマ)の意味とmL/hrへの換算、よく使う薬剤の希釈の目安、そして「血圧の何を動かしているのか」という考え方を整理します。数値はすべて目安で、実際の希釈基準・投与量は各施設のプロトコルと添付文書、指示医の判断が優先されます。
ポイント
- 1γ = 1 µg/kg/min。ポンプ流量は「γ × 体重 × 60 ÷ 濃度」で出せる
- 昇圧薬は「前負荷(輸液)→ 血管収縮薬 → 強心薬」の順で考える
- 希釈濃度を間違えると桁単位で過量・過少になる。ダブルチェックする
- 動脈圧波形がなまっていると数値がずれる。まずスクエアウェーブテスト
γ(ガンマ)とは
循環作動薬の投与量は「γ(ガンマ)」で表すことが多く、1γ = 1 µg/kg/min です。体重50 kgで1γなら、1分あたり 50 µg、1時間あたり 3 mg を投与していることになります。
ポンプに入力するのは mL/hr なので、次の式で換算します。
- 流量(mL/hr)= 投与量(γ)× 体重(kg)× 60 ÷ 薬剤濃度(µg/mL)
例:ノルアドレナリンを 60 µg/mL に希釈し、体重50 kgの患者に 0.1γ で投与したい場合 → 0.1 × 50 × 60 ÷ 60 = 5 mL/hr
濃度の単位を µg/mL にそろえること、体重を実測値で入れることがポイントです。
よく使う昇圧薬の希釈の目安
| 薬剤 | 希釈の例 | 1回量/持続の目安 |
|---|---|---|
| フェニレフリン | 1 mg/mL を生理食塩水で10倍 → 0.1 mg/mL | 静注 50〜100 µg |
| エフェドリン | 40 mg/mL を全量約10 mL → 4 mg/mL | 静注 4〜8 mg |
| ノルアドレナリン | 例:3 mg / 50 mL → 60 µg/mL | 0.05〜0.1 µg/kg/min から滴定 |
| アドレナリン | 例:3 mg / 50 mL → 60 µg/mL | 0.01〜0.1 µg/kg/min(病態で大きく変動) |
| ドパミン/ドブタミン | γ計算で管理(施設の標準希釈) | 3〜5 µg/kg/min から |
- フェニレフリンは主に血管収縮(後負荷を上げる)。反射性徐脈が出ることがある
- エフェドリンは血管収縮+心刺激。頻脈になりやすく、反復で効きが落ちる
- ノルアドレナリンは敗血症などでの第一選択の昇圧薬として持続で使われることが多い
よく使う降圧薬
- ニカルジピン:カルシウム拮抗薬。急速降圧が必要なときは体重1kgあたり10〜30µgを静注、持続では手術時の異常高血圧に2〜10µg/kg/min、高血圧性緊急症に0.5〜6µg/kg/min程度(0.1〜0.2mgはこの持続投与で使う希釈液の濃度[0.01〜0.02%]であり単回投与量ではない)。反射性頻脈に注意
- ニトログリセリン/ニトロプルシド:血管拡張薬。持続で使い、動脈圧ラインでの厳重な監視が前提
- β遮断薬(ランジオロールなど):頻脈性の高血圧に。心機能低下・喘息では慎重
血圧の「何を動かしているか」で考える
血圧(およそ 心拍出量 × 体血管抵抗)は、次の要素の組み合わせで決まります。
- 前負荷:戻ってくる血液量。まず輸液や下肢挙上で評価する(PPV/SVVが目安)
- 後負荷(血管の締まり):フェニレフリン、ノルアドレナリンなどの血管収縮薬
- 心収縮力:ドブタミン、アドレナリンなどの強心薬
「昇圧薬を上げる前に、輸液が足りているか」を確認する順序が基本です。逆に降圧では、痛み・浅麻酔・膀胱充満・高二酸化炭素血症など、薬の前に見直す原因があります。

図: 血圧を動かす3つの要素
CEが確認すること
- 希釈濃度と投与量のダブルチェック(桁の間違いが最も危険)
- ポンプの体重設定、γ/mL/hr 表示の切り替え、閉塞・気泡アラーム
- 昇圧薬は中心静脈ラインからの投与が望ましい(末梢漏れで組織障害)。単独ルート、他剤との配合変化
- 動脈圧波形の質(スクエアウェーブテスト)、ゼロ点とトランスデューサーの高さ
- ボーラスとシリンジ交換時の血圧変動(ライン内のデッドスペース分)
まとめ
- 1γ = 1 µg/kg/min。流量 mL/hr = γ × 体重 × 60 ÷ 濃度
- 希釈濃度は施設標準に統一し、投与量とあわせてダブルチェックする
- 昇圧は「前負荷 → 後負荷 → 心収縮」、降圧は「薬の前に原因」を確認
- 数値の信頼性は動脈圧波形の質に依存する。まずスクエアウェーブテスト
数値は目安です。希釈基準・投与量・上限は、各薬剤の添付文書と施設プロトコル、指示医の判断を優先してください。
参考
- 各薬剤(フェニレフリン、エフェドリン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドパミン、ドブタミン、ニカルジピン ほか)の添付文書(ニカルジピンの単回・持続投与量は2026-09-26に添付文書情報で確認)
- 麻酔・集中治療の成書における循環作動薬・輸液反応性の章





