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周術期の予防的抗菌薬投与 ― タイミングと再投与の考え方

周術期の予防的抗菌薬投与 ― アイキャッチ

はじめに

周術期の予防的抗菌薬投与では、手術開始時に十分な血中濃度・組織中濃度を確保し、長時間手術では再投与を考えることが基本です。目的は手術部位感染(SSI)の発症率を減らすこと。「投与したか」に加え、「いつ開始し、いつ終了したか」を押さえましょう。

CEは、執刀前やターニケット加圧前の投与状況の共有、再投与時刻の計算、体重に応じた投与量のダブルチェックに関われます。ここでは、ガイドラインの目安を現場で確認する順番通りに並べました。

この記事でわかること

  • 切開前の投与開始と、加圧前の投与終了の違い
  • 術中再投与の起点、腎機能低下・大量出血時の確認点
  • 体重別の投与量と、アレルギー・MRSA保菌時の考え方
  • CEが共有する時刻とダブルチェックの項目

予防抗菌薬の目的と基本の考え方

予防抗菌薬は、組織を無菌化するためのものではありません。術中汚染による細菌量を、宿主防御機構でコントロールできるレベルまで下げる補助的な使用です。原則として、遠隔部位感染は対象にしません。

本ガイドラインは、日本の実臨床に即した勧告を行う方針です。以下の時間・投与量はあくまで目安で、患者条件と施設プロトコルに照らし合わせてください。術式ごとの細かい選択や投与期間まで一律に決める表ではありません。

投与のタイミング:開始と終了を分けて確認する

場面・薬剤タイミングの目安確認する点
基本切開の1時間前以内に投与開始切開予定と開始時刻
バンコマイシン(VCM)・フルオロキノロン系薬切開の2時間前以内に投与開始通常の開始枠と区別する
ターニケット使用時少なくとも加圧の5〜10分前に投与終了加圧予定と終了時刻

切開前の基準は「投与開始」、ターニケット加圧前は「投与終了」。ここが混同されがちです。「もう投与した」という情報だけで済ませず、実際の終了時刻まで共有しましょう。

ターニケット加圧前に抗菌薬の投与を終了するタイミングの模式図
図:加圧の少なくとも5〜10分前までに投与終了(目安)。時間軸は模式表示です。

術中再投与と術後継続:時間の起点をそろえる

長時間手術では追加再投与が必要です。目安は半減期の2倍の間隔で、セファゾリン(CEZ)なら腎機能正常者で3〜4時間ごと。ここで間違えやすいのが起点です。初回再投与までの時間は、手術開始時刻ではなく術前抗菌薬の投与終了時から数えます。

腎機能低下症例では間隔を延長します。CEZなら、eGFR-IND 20〜50 mL/分で8時間、20未満で16時間が目安です。通常の間隔のまま予定を組まず、腎機能に合わせて見直してください。

短時間に1,500 mL以上の大量出血があれば、予定の間隔を待たずに追加投与を考えます。時刻の計算だけでなく、出血の状況そのものも共有しておきたいところです。

術前投与から術中再投与、術後継続時の投与間隔までの流れ
図:術前・術中・術後の確認点。術中再投与と術後継続時の間隔を区別します。数値は目安です。

術後投与を継続する場合、セフトリアキソン(CTRX)を除くセファロスポリン系薬は8時間間隔(1日3回)が基本の目安です。初回の術後投与は、術前投与または最終再投与から8時間後。腎機能低下患者ではここも間隔を延ばします。「投与間隔」と「何日続けるか(投与期間)」は別の話で、投与期間は術式ごとに異なるため、ここでは扱いません。

手術部位でどう選ぶか ― 対象菌と代表的な抗菌薬

表2では、術中汚染で対象となる常在菌を次の3つに分けています。薬剤は代表例です。

① 皮膚常在菌のみ

対象は黄色ブドウ球菌・連鎖球菌です。

領域・臓器主な予防抗菌薬
心血管外科:心臓・血管CEZ、SBT/ABPCなど
乳腺、ヘルニア(鼠径など)、一般外科
整形外科:骨・関節・筋
脳神経外科:脳・神経
眼科:眼・眼付属器(涙道を除く)

② 皮膚常在菌+臓器特有の常在菌

領域・臓器臓器特有の対象菌主な予防抗菌薬
消化器外科・泌尿器科(消化管利用):上部消化管(食道・胃・空腸)大腸菌、肺炎桿菌CEZなど
同:下部消化管(回腸・結腸・直腸・肛門)B. fragilisグループ、腸内細菌科細菌CMZ、FMOX、CEZ+MNZなど
耳鼻咽喉科(口腔を開放)・口腔外科:口腔・咽頭・喉頭口腔内嫌気性菌、連鎖球菌SBT/ABPC、CMZ、FMOXなど
耳鼻咽喉科(口腔を開放しない):耳・鼻黄色ブドウ球菌、連鎖球菌CEZなど
婦人科:腟・子宮B. fragilisグループ、腸内細菌科細菌CMZ、FMOX、CEZ+MNZなど
眼科:涙道黄色ブドウ球菌、連鎖球菌CEZなど

③ 隣接消化管の常在菌

臓器そのものには常在菌がなくても、隣接する消化管の常在菌が対象になる手術もあります。

領域・臓器隣接消化管の対象菌主な予防抗菌薬
泌尿器科:尿道・膀胱・尿管・腎・前立腺腸内細菌科細菌CEZ、CTM、SBT/ABPC、アミノグリコシド系薬など
消化器外科:肝・胆嚢・胆管・膵腸内細菌科細菌CEZ、CTMなど
胸部外科:肺・気管(気道が胸腔内で開放される場合)口腔内嫌気性菌、連鎖球菌SBT/ABPCなど

略語:CTM=セフォチアム、CMZ=セフメタゾール、FMOX=フロモキセフ、SBT/ABPC=スルバクタム・アンピシリン、MNZ=メトロニダゾール。

手術部位別の対象菌を3分類し、代表的な領域・臓器と予防抗菌薬を対応させた図
図:表2の代表例。対象菌と部位を合わせて確認します。

投与量とβラクタム薬アレルギー時の代替薬

予防目的でも治療量を用います。過体重・肥満の患者では増量が必要で、通常量だけでなく体重区分までチェックしたいところです。

CEZの体重区分1回投与量の目安
通常1 g
80 kg以上(120 kg以上は下段)2 g
120 kg以上3 g

βラクタム薬アレルギー時の代替薬は、表3の創クラス別3区分で確認します。CLDMはクリンダマイシン、AZTはアズトレオナムです。表中の「/」は選択肢を示します。

創クラスグラム陽性菌グラム陰性菌嫌気性菌
清潔創CLDM/VCM--
準清潔創(下段を除く)CLDM/VCMアミノグリコシド系薬/フルオロキノロン系薬/AZT-
準清潔創(下部消化管・婦人科・口腔咽頭)CLDM/VCMアミノグリコシド系薬/フルオロキノロン系薬下部消化管・婦人科:MNZ
口腔咽頭:CLDM

清潔創はCLDMまたはVCM、準清潔創は陰性菌への薬剤も併用します。下部消化管・婦人科・口腔咽頭では嫌気性菌も考慮し、アミノグリコシド系薬またはフルオロキノロン系薬に、MNZ(下部消化管・婦人科)またはCLDM(口腔咽頭)を併用します。VCM・アミノグリコシド系薬では腎機能障害を考慮します。

βラクタム薬アレルギー時に対象菌に応じて代替薬を分けるフロー
図:陽性菌・陰性菌への対応の概略。下部消化管・婦人科・口腔咽頭の選択と嫌気性菌への対応は上表を確認します。

MRSA保菌患者とグリコペプチド系薬の扱い

VCM・テイコプラニン(TEIC)の予防投与の適応には、術前MRSA保菌患者、手術操作の及ぶ部位からMRSAが検出されている場合、βラクタム薬アレルギー患者があります。心臓手術・胸部大血管手術・人工関節置換術・脊椎インストゥルメンテーション手術などで、施設内のMRSAによるSSI多発が認められる場合は、ICTまたは感染症専門家と検討します。

VCMは執刀前2時間以内に開始し、レッドネック症候群に注意して60分以上かけて投与します(目安)。TEICは60分以内に投与します(目安)。VCMの開始時刻と投与にかける時間を混同せず、薬剤ごとの計画を確認しましょう。

SSIリスク因子とCEが確認すること

SSIのリスク因子には、長時間手術、緊急手術、ステロイド・免疫抑制剤の使用、術野への術前放射線照射、高齢などがあります。高齢は症例ごとに評価します。数値で示される因子は次の目安で整理できます。

項目リスク因子の目安
ASA術前状態分類3以上
創クラス3(4は予防抗菌薬の適応外)
BMI25以上
術後血糖コントロール不良200 mg/dL超
術中低体温36℃未満

CEが関わる場面では、以下の順序をチェックリストとして使えます。

  1. 投与前は、薬剤と体重区分に応じた投与量、希釈をダブルチェックする。
  2. 執刀・加圧の前は、切開予定に対する投与開始、加圧予定に対する投与終了の情報を共有する。
  3. 術中は、術前投与の終了時刻を起点に再投与の予定を計算し、腎機能低下があれば間隔延長を確認する。
  4. 大量出血が起きたときは、予定時刻を待たずに追加投与を検討できるよう情報を共有する。

覚え方は「切開には開始、加圧には終了、再投与は終了から」。時刻を伝えるときに「何の時刻か」まで添えると、確認する基準がそろいます。

よくある質問

Q. 再投与は手術開始から数えますか?

初回再投与までの間隔は、術前抗菌薬の投与終了時から数えます。手術開始時刻と区別して記録・共有します。

Q. ターニケット加圧前に投与を開始していればよいですか?

確認するのは投与終了です。少なくとも加圧の5〜10分前までに終了することが目安です。

Q. 予防目的なら少ない量でよいですか?

予防抗菌薬でも治療量を用います。体重に応じた増量も含めて確認します。

Q. 腎機能が低下している患者では、再投与の間隔はどう変わりますか?

通常より間隔を延ばします。CEZの目安では、eGFR-IND 20〜50 mL/分で8時間ごと、20未満で16時間ごとです。術後投与を継続する場合も、腎機能に応じて間隔を延長します。通常の間隔のまま予定を組まないよう、腎機能の情報を確認しましょう。

まとめ

  • ✅ 目的はSSI発症率の減少であり、組織の無菌化ではない。
  • ✅ 切開前は開始時刻、ターニケット加圧前は終了時刻を確認する。
  • ✅ 初回術中再投与は術前投与終了時から数え、腎機能低下時は間隔を延長する。大量出血時も確認する。
  • ✅ 予防でも治療量を用い、体重・アレルギー・MRSA保菌の条件を照合する。
  • ✅ CEは投与時刻の共有、再投与の計算支援、投与量・希釈のダブルチェックに関わる。

参考