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ECMOの抗凝固管理 ― ACT・ヘパリンの考え方とCEが確認すること

ECMOの抗凝固管理 アイキャッチ

はじめに

ECMOの抗凝固管理は、結局のところ綱引きです。回路内で血を固めない。でも出血は増やさない。この両方を、ヘパリンの持続投与とACT(活性化凝固時間)などの指標で探っていくのが実際のところです。

数値には施設差があります。これは先に言っておきたいところで、「ACT180〜220秒が正解」という単一の答えはありません。本記事で挙げる数字も、資料に書かれた範囲をそのまま出しています。CEが本当に見るべきは数値そのものより、出血と血栓症、どちらかに針が傾いていないかだと思います。

この記事でわかること

  • ACT・APTT・抗Xa・TEG/ROTEMの使い分け
  • ヘパリンのボーラス・持続投与とACT目標域の考え方
  • 抗トロンビンIII(AT-III)とヘパリン抵抗性
  • 出血と血栓症のバランス、HITが疑われたときの対応
  • 出血リスクが特に高い場面での工夫(ナファモスタット・ヘパリンフリー管理)
  • CEが確認すること

抗凝固のモニタリング指標―ACT・APTT・抗Xa・TEG/ROTEMの使い分け

ECMOの抗凝固薬は、基本的に未分画ヘパリン一択です。ただ、その効果を何で見るかは施設によってバラバラ。指標は一つではありません。

ACTは全血を使うベッドサイド検査で、手軽さが一番の強みです。ただし貧血・低フィブリノゲン血症・血小板減少・他の凝固因子欠乏・低体温・血液希釈の影響をもろに受けます。測定機器が変われば値も変わる、という面倒さもあります。APTTは血漿を使う検査です。各施設が自分のところの治療域を決めて運用するのが前提で、実際、多くの成人ECLSプログラムはACTではなくAPTTを使っています。

抗Xa活性はヘパリンそのものの働きを反映する指標です。凝固異常や血小板減少、血液希釈に左右されにくいのが利点ですが、検査会社ごとにアッセイの標準化がバラついていて、単一の目標値をそのまま当てはめるのは危険です。TEG/ROTEM(粘弾性検査)はフィブリノゲン欠乏の評価や、初期のDICと一次線溶亢進の鑑別で出番があります。対応はまったく違っていて、前者はヘパリンの増量、後者はトラネキサム酸。ここを取り違えると逆効果になります。

そのトラネキサム酸は、プラスミノゲンがプラスミンに変換されるのを阻害する抗線溶薬です。通常の凝固検査では一次線溶亢進はほとんど見抜けず、TEG/ROTEMのような粘弾性検査でないと迅速には判断できない、という整理がされています。小児心臓手術の血液を使った実験では、t-PAで人工的に線溶を誘発した状態でも、トラネキサム酸があれば線溶亢進が完全に消えたという報告があります(対象はECMOではなく心臓手術の体外循環です)。実際どれくらいの量を使うかという標準的な投与プロトコルは、今回の調査では見つかりませんでした。羊水塞栓症の症例報告に術中1g・ICU入室後に追加1gという使用例はありますが、これは一例の実例であって、ECMOの標準投与量として読まないほうがいいと思います。

カニュレーションからヘパリンボーラス、ACT低下後の持続投与開始、ACT再測定に戻るモニタリングの流れ
図1 ACTを軸にしたモニタリングの流れ。実際に使う指標(ACT・APTT・抗Xaなど)は施設のプロトコルによります。
モニタリング指標の特徴(目安)
指標何を見るか強み・弱み
ACT全血の凝固時間簡便・ベッドサイドで測定可。貧血・血小板減少・低体温・希釈の影響を受けやすく、機器間差もある
APTT血漿の凝固時間施設ごとに治療域を設定。多くの成人ECLSプログラムが採用
抗Xa活性ヘパリンの作用そのもの凝固異常・希釈の影響を受けにくいが、アッセイの標準化は施設差がある
TEG/ROTEM粘弾性による凝固全体の評価フィブリノゲン欠乏の評価、DICと一次線溶亢進の鑑別に有用

APTTを主指標にする施設では、具体的に何秒を目標にしているのでしょうか。ELSOのガイドライン自体には秒数の記載がなく、「APTT試薬のヘパリンへの反応性は試薬ごとに違うので、各施設の検査室が自分で治療域を決めるべき」という書き方にとどまっています。実際に報告されている数字を見てみると、ベースラインの2〜2.5倍(秒数にしておよそ60〜75秒)を「通常ケア」としたうえで、もっと低いベースラインの1.5〜2.0倍(約45〜60秒)を試す臨床試験が進行中です。ある施設のプロトコル例では「APTT60〜80秒(ベースラインの1.5〜2.0倍)」、HITでビバリルジンを使う場合は「APTT55〜90秒」という目標も報告されています。要するに、施設や試験によって40秒台から80秒まで幅があり、ACTと同じく唯一の正解はありません。

APTT目標の例(施設・試験により幅あり)
目標位置づけ
ベースラインの2〜2.5倍(約60〜75秒)「通常ケア」として比較対照に使われた目標(RATE試験プロトコル、2022年)
ベースラインの1.5〜2.0倍(約45〜60秒)出血を減らす狙いで検証中の、より低い目標(同試験、結論はまだ出ていない)
60〜80秒(1.5〜2.0倍)ある施設のプロトコル例
40〜55秒EOLIA試験で使われたとされる目標(上記施設プロトコル論文内の引用)
55〜90秒HITでビバリルジンを使う場合の目標例

ヘパリンの投与とACT目標域―「古典的な目安」と「低め目標」

カニュレーション時は、体重あたり50〜100単位のヘパリンを初回ボーラスとして入れるのが基本です。出血の既往があるか、直前に人工心肺を使っていたかで量は調整します。ACTが300秒以下まで落ちたら持続投与へ切り替え、初期量は体重あたり7.5〜20単位/時が目安(成人は低め、小児・新生児は高めの範囲)。

「古典的な」治療域として、ACT180〜220秒という数字がよく引用されます。ヘパリン持続投与量20〜50単位/kg/時でだいたいこのあたりに落ち着く、というのが資料の書きぶりです。唯一の正解ではなく、昔からよく参照される目安、くらいに捉えておくのが実際的だと思います。新生児・小児の一部施設は、ACTを気にせず最低10〜20/最高40〜50単位/kg/時という固定域で回しているところもあります。

近年は、もっと低いACT目標(140〜160秒程度)で運用する報告も出てきました。後ろ向き研究止まりなので限定的な話ですが、深部静脈血栓症・肺塞栓・人工肺内血栓・心内血栓の発生率に有意差はなく、消化管出血や手術部位出血は有意に少なかったとあります。だからといって、低め目標が一律に優れているという話ではありません。特定の指針が推奨しているわけでもなく、あくまで一部の報告です。

ACT180〜220秒の古典的目安と140〜160秒程度の低め目標を、出血と血栓症のバランスとして比較した模式図
図2 ACT目標域の考え方。数値は資料による目安で、施設のプロトコルを優先します。
ACT目標域の目安(施設差あり)
目標域位置づけ報告されている傾向
180〜220秒古典的によく引用される目安ヘパリン20〜50単位/kg/時でおおむね達成
140〜160秒程度低め目標とする一部の運用血栓症の発生率に有意差はなく、出血が有意に少なかったとする後ろ向き研究がある

抗トロンビンIII(AT-III)とヘパリン抵抗性

ヘパリンはAT-IIIと結合して初めて効果を出す薬です。AT-IIIが足りないと、いくらヘパリンを増やしてもACT/APTTが思うように延びない。いわゆる「ヘパリン抵抗性」です。ECMO患者ではAT-III欠乏がみられるという報告もあります。

AT-IIIの補充目標は施設によってバラバラで、「全例50%超」「新生児80%超」「乳児・小児100%超」など言い方がいろいろあります。新鮮凍結血漿(FFP)でもAT-IIIは上げられますが、濃度が低くて非効率。AT-III濃縮製剤のほうが効率はいい、というのが資料の立場です。ただ、日常的にAT-IIIを補充したところで死亡率・出血・血栓症といった転帰が改善するという根拠は乏しく、「重症患者での転帰への影響は不明」とする資料もあります。補充すれば安心、とは言い切れない領域です。

出血と血栓症―回路内血栓のリスクと観察ポイント

抗凝固管理は結局、出血と血栓症という2つのリスクの綱引きです。大出血の定義は、24時間でヘモグロビンが2g/dL以上下がる、体重あたり20mLを超える出血がある、体重あたり10mL以上の赤血球輸血が24時間で1回以上必要、あるいは後腹膜・肺・中枢神経系の出血や外科的処置を要する出血のいずれか。軽度出血は、1日の出血量が体重あたり20mL未満で、輸血も1回以下にとどまる場合です。

血小板数は10万/mm³超を維持するのが基本方針で、新生児では特に厳しく見られます。年長児や状態が落ち着いている患者では、この閾値を緩める施設もあるようです。回路側に目を向けると、人工肺やブリッジチューブの周辺が血栓のできやすい場所。回路交換が必要になるほどの血栓は、実際それなりの頻度で報告されています。

出血リスクが特に高い場面の工夫―ナファモスタットとヘパリンフリー管理

外傷後の緊急手術や、頭蓋内出血のリスクがある患者など、出血をこれ以上増やしたくない場面では、ヘパリン以外の選択肢が検討されることがあります。ここから先は症例報告や小規模な研究が中心で、エビデンスとしては強くありません。「こういう工夫もある」という紹介にとどめます。

ナファモスタットメシル酸塩は、出血中または出血リスクが高いことを理由に導入される例があります。11件の報告をまとめたシステマティックレビューでは、投与量は平均0.46〜0.67mg/kg/時、モニタリングは施設によってACTだったりAPTTだったりとバラバラで、高カリウム血症も一定の頻度で報告されています。ただ、「ナファモスタットなら出血が少ない」と単純に言えるかというと、そう簡単な話ではありません。VA-ECMO320例を比較した後ろ向き研究では、むしろナファモスタット群のほうがヘパリン群より出血合併症が有意に多かったという結果が出ています。一方で、局所的な抗凝固として使い、患者側の凝固指標を回路側より低く保てたとする報告もあります。半減期が8〜10分と短いぶん、出血傾向がある患者で調整しやすい、という考察もありますが、これも症例報告レベルの話にとどまります。

抗凝固薬をまったく使わない「ヘパリンフリー」管理も、極めて例外的にですが報告されています。多発外傷で心停止と外傷性凝固障害を合併した患者に、心停止後ヘパリンフリーでVV-ECMOを導入し、神経学的後遺症なく救命した症例。出血性ショック後に重症ARDSを発症し、出血をコントロールしたあとに最小限か無投与の抗凝固でECMOを導入・継続した症例。びまん性肺胞出血の患者で、全身抗凝固なしで130日間ものあいだECMOを続けた、例外的に長い報告もあります。回路側では、ヘパリンコーティングやPMEAコーティングといった抗血栓性コーティングが、抗凝固薬の量を減らす・なくす助けになるという考察があります。ヘパリンコーティング回路なら抗凝固薬なしで中央値70時間ほど継続できたという報告の引用もありますが、「何時間までなら安全」という明文化された基準は見当たりませんでした。出血リスクが極めて高い患者に限った、例外的な選択肢として捉えておくのがいいと思います。

HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)が疑われたときの対応

HITのICUでの真の発生率は0.3〜0.6%程度。正直、そう頻繁に出会うものではありません。検査結果を待つ前の事前確率評価としては、「4Ts」スコアが一番研究されています。確定診断に使う免疫アッセイ(抗PF4/ヘパリン抗体ELISA)は感度は高いものの特異度がいまひとつ。機能的アッセイ(セロトニン遊離試験)は特異度は高いけれど技術的に難しく、実施できる施設は限られます。

HITを強く疑ったら、まずヘパリンを全部やめて、直接トロンビン阻害薬(DTI)へ切り替える。これがガイドラインの示す対応です。アルガトロバンなら0.5〜1mcg/kg/分で開始し、APTTがベースラインの1.5〜2.5倍になるよう調整する、という投与の考え方が紹介されています。小児のビバリルジンも同じくAPTTが指標です。ヘパリンにはプロタミンという中和薬がありますが、DTIにはそれがありません。もっとも、ECMOでは人工心肺ほど中和が必要になる場面自体が多くない、とも言われます。ここで挙げたのはあくまで海外ガイドラインの考え方で、国内の薬事承認状況や実際の投与量は、施設と医師の判断次第です。

HITが疑われた場合のヘパリン中止から直接トロンビン阻害薬への切り替え、APTTでのモニタリングまでの流れ
図3 HIT疑い時の対応の流れ。具体的な薬剤選択・投与量は医師の指示によります。

CEが確認すること

  1. ACT・APTTなど施設が採用している指標の値と推移を確認する。
  2. 回路内、特に人工肺やブリッジチューブ周辺の血栓所見、酸素化能の低下傾向を確認する。
  3. 穿刺部・創部・消化管・尿など、出血徴候の有無を確認する。
  4. 血小板数の推移を確認し、低下があれば医師に報告する。
  5. ヘパリンを増量してもACT・APTTが上がらない場合は、ヘパリン抵抗性を疑い医師に報告する。

よくある質問

Q. ACTの目標は180〜220秒と決まっているのですか?

決まった正解というより、よく引用される古典的な目安です。もっと低い目標で運用している施設の報告もありますし、実際どの範囲を使うかは施設のプロトコル次第です。

Q. ACT目標は低いほうが良いのですか?

低め目標で出血が少なかったという報告はあります。ただ後ろ向き研究が中心で、特定の指針が推奨しているわけではありません。低ければいい、と単純には言い切れないところです。

Q. AT-III製剤を使えば出血や血栓は減りますか?

ヘパリン抵抗性を是正する目的では使われます。ただ、日常的に補充したからといって転帰が良くなるという根拠は乏しいのが実情です。効く・効かないを一言で断定できる話ではありません。

Q. HITが疑われたら、まず何をしますか?

ヘパリンの投与をすべて中止し、直接トロンビン阻害薬など代替の抗凝固薬に切り替える。これがガイドラインの対応です。並行して4Tsスコアや検査でも確認を進めます。

Q. ナファモスタットを使えば出血は減らせますか?

研究によって結果が分かれています。出血が少なかったとする報告がある一方、ヘパリンより出血合併症が多かったとする後ろ向き研究もあり、単純に「減らせる」とは言い切れません。

Q. 抗凝固薬なしでECMOを回すことはあるのですか?

出血リスクが極めて高い例外的な状況で、症例報告レベルでは行われています。標準的な方法ではなく、あくまで限定的な選択肢として報告されているものです。

まとめ

  • 抗凝固管理の目的は、出血と血栓症のバランスを取ること。
  • ACT・APTT・抗Xa・TEG/ROTEMは、それぞれ見ているものが違う。
  • ACT目標域は施設差があり、180〜220秒は唯一の正解ではない。
  • AT-III補充・ヘパリン抵抗性は、効果を単純に断定できない領域。
  • 出血リスクが極めて高い場面では、ナファモスタットやヘパリンフリー管理が例外的な選択肢になることもある。
  • HITが疑われたら、ヘパリン中止と代替薬への切り替えが基本。

数値を見たら、まずその指標が何を反映しているかを確認する。それだけで、医師への報告の精度はけっこう変わると思います。

参考

  • ELSO(Extracorporeal Life Support Organization)Anticoagulation Guideline(2014)(モニタリング指標、ヘパリン投与量、AT-III、HIT・DTIの考え方)。
  • ACT低め目標に関する後ろ向き研究・システマティックレビュー(出血・血栓症の発生率比較)。
  • AT-III欠乏・ヘパリン抵抗性とAT-III補充の臨床転帰に関するシステマティックレビュー。
  • Araki et al. 2024, Medicine (Baltimore) 103(20):e38176(羊水塞栓症の症例報告。トラネキサム酸・ナファモスタット・抗血栓性回路コーティングの考察)。
  • Yeung et al. 2014, Hong Kong Med J 21(1):45-51/Faraoni et al. 2015, Blood Coagul Fibrinolysis 26(3):290-7(一次線溶亢進とTEG/ROTEM、トラネキサム酸の効果。対象は心臓手術の体外循環)。
  • Sanfilippo et al. 2022, Artificial Organs 46(12):2371-2381(ナファモスタットのシステマティックレビュー)/Lim et al. 2016, Ann Thorac Surg 102(2):534-9(ナファモスタット対ヘパリンの後ろ向き比較、320例)/Lee et al. 2022, Acute Crit Care 37(2):177-184/Park et al. 2015, Int J Artif Organs 38(11):595-9。
  • Lee YY et al. 2020, Medicine (Baltimore) 99(5):e19070/Raff et al. 2021, ASAIO J 67(8):e140-e144/Galvagno et al. 2019, Perfusion 34(6):523-525(ヘパリンフリー・最小限抗凝固でのECMO管理の症例報告)。
  • van Minnen et al. 2022, Trials 23:405(RATE試験プロトコル。APTT目標の高低比較)/Colman et al. 2019, Journal of Thoracic Disease 11(8):3325-3335(単施設のヘパリンモニタリングプロトコル評価、APTT・抗Xa目標値)。
  • 本記事の数値・言い回しは、指定の確認済み事実ファイルにまとめた範囲に限定しています。日本国内の学会による公式な数値目標は、今回の調査では確認できていません。