IABP(大動脈内バルーンパンピング)の基本 ― 波形で見るタイミングエラーとCEが確認すること

はじめに
IABP(大動脈内バルーンパンピング)は、拡張期にバルーンを膨らませ、次の駆出前にしぼませて心臓を補助します。収縮期に膨らむと、かえって後負荷を増やしてしまいます。波形を見るときの出発点は、このタイミングです。
効果が表れるのは、動脈圧波形の収縮期圧の低下と拡張期圧の上昇。CEはトリガー信号や波形のずれを確認し、医師への報告や調整の補助につなげます。
この記事でわかること
- 拡張と収縮のタイミング、波形に表れる効果
- IABPとECMO/PCPSで異なる補助の仕組みと補助率の読み方
- 適応・合併症とCEの確認項目
- トリガーモード、タイミング調整、離脱の考え方
IABPの原理とバルーンの留置
心臓の駆出に対して反対方向へ脈動を送るのが、カウンターパルセーションです。大動脈弁の閉鎖に合わせたバルーン拡張で拡張期圧を上げ、冠動脈血流量を増やします。弁が開く直前の収縮は、後負荷を減らす働きです。

カテーテルは経皮的に挿入するのが基本です。細径化が進んだ一方、操作性や破裂、ガス応答性の低下が課題になります。容量は体格に応じて30/35/40mLなどから選びます。これらはサイズの目安で、身長だけの一律な区分にはしません。
先端位置はX線透視で確認します。左鎖骨下動脈起始部より2cm以上下方が確認の目安で、資料によっては2〜3cmとされています。腹腔動脈や腎動脈にかかると虚血により腸管壊死や腎不全を起こすことがあります。透視下で挿入していなければ、できるだけ早く透視で確認します。
IABPとECMO/PCPSの違い:圧補助と流量補助
IABPは圧補助、ECMO/PCPSは流量補助です。IABPでは、ある程度心拍出量が保たれていることが原則。自己心の機能が高度に低下すると効果は限られます。
| 比較する項目 | IABP | ECMO/PCPS |
|---|---|---|
| 補助の種類 | 圧補助。後負荷を減らし、冠血流を増やす | 流量補助 |
| 数値が表すもの | 心拍出量がどの程度増えるか | 全流量のうちどの程度を補助するか |
| 効果・補助率の目安 | 資料によって幅があり、心拍出量を10〜20%程度押し上げる効果とされる。10〜15%とする資料もある | 概ね70%台を中心に、資料により70〜100%までの幅がある |
| 前提と読み方 | ある程度の心拍出量が保たれていることが原則。増加率は一次資料による確定値ではない | 資料上の能力と実運用の目安を区別する |
IABPの増加率は、医学書院の総説記事や内科学第10版の用語解説など、二次資料に記載された幅です。今回参照した厚生労働省資料と高松赤十字病院資料には、この増加率の明記はありません。
PCPSの能力については、高松赤十字病院の資料に70〜90%、厚生労働省資料に70〜100%の流量補助が可能という表現があります。高松赤十字病院の実運用例では、V-A時の目標を全流量の70%程度、上限を70〜80%程度の目安としています。それ以上の流量では心臓の後負荷を増やすためです。施設の方針を、全例共通の設定値として扱わないようにします。

補助の仕組みが違うため、併用されることもあります。ここで示した数値から、離脱や生存の成績までは比べられません。
適応とPCPSへ切り替える目安
適応には急性発症の重篤な心不全・心原性ショック、内科的治療に抵抗する心不全、急性心筋炎、人工心肺離脱困難例などがあります。急性冠症候群での梗塞領域の拡大予防や、ハイリスク症例の冠動脈再建術での予防的使用も挙げられています。
| 指標 | IABPの適応の目安 | IABPだけでは不十分で、PCPSへの切り替えを要する目安 |
|---|---|---|
| 大動脈収縮期血圧 | 90mmHg以下 | 80mmHg以下 |
| 心係数 | 2.0 L/分/m²以下 | 1.2 L/分/m²以下 |
| 肺動脈楔入圧 | 20mmHg以上 | 30mmHg以上 |
大動脈弁閉鎖不全では逆効果となります。看護roo!の「欠点」の項では、大動脈解離、大動脈瘤、下肢閉塞性動脈硬化症、動脈の高度石灰化や蛇行では使用できないとされています。
トリガーモードとタイミングの仮設定
R波に瞬時に応答するには、信号の伝播やガス移動時間による限界があります。規則的なリズムでは、次のR波を予測する方式で駆動タイミングを得ます。
| モード | 信号・特徴 |
|---|---|
| 標準モード | 心電図R波の予測演算方式 |
| 心房細動モード | 心電図R波トリガー |
| ペースメーカーモード | ペーシングスパイクを認知しない |
| 血圧モード | 動脈圧の信号を利用 |
開始時は基本的に心電図に同期させます。資料に示された仮設定の目安は、拡張開始をT波頂点よりやや遅く、収縮開始をQRSの直前に置くこと。そこから2:1モードで駆動し、動脈圧波形を見ながら微調整します。
不規則なリズムでは、補助が逆に心負荷になるおそれがあります。規則的なリズムにできない場合、ECGまたは血圧トリガーでは拡張を遅く、収縮を早くして、収縮期への入り込みを避けます。心房細動トリガーモードでは拡張が早くなるおそれがあるため、拡張を若干遅くする考え方です。
動脈圧波形で見るタイミングのずれ
補助中の動脈圧波形には、心臓の収縮による頂点と、バルーン拡張による拡張期増強の頂点が現れます。拡張期頂点の前後の谷が、拡張・収縮開始を調整する指標です。
拡張開始の基本は大動脈弁閉鎖直後の重複切痕です。ただし、測定部位までの脈波伝播にずれがあるため、やや早く設定する必要があります。収縮は、補助しない拍と比較して、補助した拍の収縮期直前圧が最も低くなるタイミングを探します。

早期拡張では左室が駆出している途中でバルーンが膨らみ、後負荷が急上昇します。収縮期に膨らませないことが原則です。遅延拡張では拡張期増強が不十分になり、早期収縮では増強の時間が短く、後負荷軽減も小さくなります。遅延収縮は次の駆出初期の後負荷を増やす方向に働きます。
合併症とCEが確認すること
合併症には下肢虚血、出血、血栓塞栓症、バルーン破裂、動脈損傷、血小板減少があります。刺入部やチューブの観察も、波形の確認とあわせて行います。

- 心電図・動脈圧の信号と駆動モードを確認し、収縮期にバルーン拡張が入り込んでいないかを見る。
- 留置位置の確認状況、体格に応じたサイズ、駆動タイミングを確認する。
- 刺入部の出血・血腫、固定状態、末梢循環障害、駆動アラームを確認する。チューブ内の血液逆流や水滴はバルーン破裂を疑う所見として、すみやかに医師へ報告する。
- 体位変換時は循環動態の変化、カテーテルの屈曲や抜去に注意する。低血圧や合併症の所見があれば医師へ報告する。
離脱では、補助頻度を段階的に下げる方法と、バルーン容量を段階的に減らす方法があります。血圧・心係数などを確認し、医師の指示のもとで進めます。抗凝固薬の量はACTなどの検査結果を確認しながら調整します。
よくある質問
Q. IABPの補助率とPCPSの補助率は直接比べられますか?
ここでのIABPの数値は心拍出量の増加率、PCPSの数値は全流量に対する補助率です。表すものが異なるので、数字の大小だけで比較しません。
Q. 重複切痕に合わせるのは、拡張期増強の頂点ですか?
合わせる基本となるのはバルーンの拡張開始です。増強の頂点と取り違えず、測定部位による脈波伝播のずれも考慮して微調整します。
Q. 離脱の時間や補助の下げ方は決まっていますか?
今回の資料では、共通の時間・容量を定めた手順は確認できていません。補助を減らしたときの循環動態を確認し、医師の指示で判断します。
まとめ
- IABPは拡張期の圧を上げ、次の駆出時の後負荷を減らす圧補助。
- 収縮期にバルーンを膨らませない。
- 心拍出量の増加率と、PCPSの流量補助率を分けて読む。
- トリガーの選択後も、動脈圧波形でタイミングを確認する。
- 波形に加え、留置位置、サイズ、刺入部、末梢循環、チューブやアラームを見る。
波形を前にしたら、まずバルーンがいつ膨らみ、いつしぼんでいるか。その確認を医師への具体的な報告につなげます。
参考
- 厚生労働省 保険医療材料制度関連資料 tp0427-10-9.pdf/tp0427-10-10.pdf(原理・タイミング・流量補助)。
- 看護roo!「大動脈バルーンパンピング:IABP」(適応・合併症・観察項目)。
- PMDA 医療機器添付文書:IABPバルーンカテーテル(留置位置・容量の目安)。
- 高松赤十字病院 心臓血管外科「PCPS(ECMO)の様々な使い方と位置付け」(圧補助と流量補助、能力と施設の運用例)。
- IABPの心拍出量増加率は、指定の確認済み事実ファイルにまとめられた二次資料の記載によるものです。一次資料による確定値ではありません。





