Aラインのセットアップと挿入介助 ― 物品準備・プライミング・ゼロ点校正の手順

はじめに
観血的動脈圧(Aライン)モニタリングは、拍動ごとの血圧をリアルタイムに表示し、採血ルートとしても使えるため、循環が不安定になりやすい手術で広く用いられます。
ただし、Aラインは「カテーテル+延長チューブ+トランスデューサー+加圧バッグ」という機械的なシステムで圧を伝えています。準備の段階で気泡が残る、加圧が不足する、トランスデューサーの高さが合っていない、といったことがあると、表示される数値の信頼性が落ちます。
この記事では、CEの視点で、Aラインの構成、物品準備、プライミング、穿刺の介助、開始後の確認までを手順に沿って整理します。実際の適応や穿刺は医師の判断・手技によります。
ポイント
- Aラインは測定「システム」。準備の質がそのまま数値の信頼性になる
- プライミングでは気泡を残さない。加圧バッグは300mmHgが目安
- トランスデューサーは右房レベルに置き、ゼロ点校正とセットで管理する
- 動脈ラインへの薬剤誤注入を防ぐ表示・区別を徹底する
Aラインシステムの構成
| 要素 | 役割・ポイント |
|---|---|
| 動脈カテーテル | 橈骨動脈が第一選択。ほかに足背・上腕・大腿動脈 |
| 高圧延長チューブ | 圧を歪めず伝えるため、硬く短いものを使う |
| 三方活栓 | 採血・ゼロ点校正に使う。数は最小限にする |
| 圧トランスデューサー | 圧を電気信号に変換する。右房レベルに固定 |
| フラッシュデバイス | 持続的に少量の生理食塩水を流し、閉塞を防ぐ |
| 加圧バッグ | 生食バッグを加圧し、フラッシュの流量を保つ |
| 圧ケーブル・モニター | ゼロ点校正と波形表示 |
要素が増えるほど、気泡や共振の原因も増えます。「短く・シンプルに」が基本です。
物品準備
- 動脈留置カテーテル(施設で採用しているキット、またはサーフロー型と穿刺針)
- 圧ラインセット(トランスデューサー、高圧チューブ、フラッシュデバイス一体型が一般的)
- 加圧バッグ、生理食塩水(ヘパリンを加えるかは施設方針による)
- 消毒薬、清潔ドレープ、固定用の透明ドレッシング、縫合具(必要時)
- 血管エコー(橈骨動脈以外や困難例で使用することが多い)
- 圧ケーブル、モニター側の圧チャンネル設定

図: Aライン挿入の物品準備チェックリスト
プライミング(回路の準備)
- 生理食塩水バッグに圧ラインセットを接続し、加圧バッグにセットする
- 加圧する前に、重力で回路全体に生食を満たし、大きな気泡を抜く
- フラッシュデバイスを作動させ、トランスデューサー、三方活栓、チューブ先端まで満たす
- 三方活栓のポートは、キャップ側も含めて生食で満たし、気泡を残さない
- 加圧バッグを300mmHg目安まで加圧する。これで持続フラッシュが概ね一定量流れる
- 回路を軽く指で弾きながらフラッシュし、接続部・活栓付近の微小気泡を追い出す
気泡は波形なまり(オーバーダンピング)の代表的な原因です。ここで丁寧に抜いておくと、開始後のトラブルが減ります。
フラッシュ液とヘパリンの有無
フラッシュに使う生理食塩水にヘパリンを加えるかは、施設のプロトコルによります。近年は生食のみとする施設が増えています。
- 加えない場合:0.9%生理食塩水のみ。出血やヘパリン起因性血小板減少症(HIT)のリスクを避けられる
- 加える場合:一般的な濃度は1単位/mL(施設により0.5〜2単位/mL)。例として生食500mLにヘパリン500単位で1単位/mLになる
- 新生児や、ヘパリン入りのラインが複数ある場合は、総投与量を抑えるため低濃度(0.5単位/mL)とする考え方がある
- HITの既往がある患者では、ヘパリンを加えない
いずれの場合も加圧バッグ300mmHg・持続フラッシュ約3mL/hが前提です。橈骨動脈カテーテルの開存について、生食のみとヘパリン1〜2単位/mLで明確な差は示されていない、というレビュー結果があります。濃度は必ず施設プロトコルを確認してください。
写真で見るセットアップ ― 増し締め・エア抜き・充填

写真: 開封した圧ライン一式(スパイク/圧チューブ/三方活栓/トランスデューサー/フラッシュデバイス)。滅菌ルアーロックは輸送・保管中に緩んでいることがあるため、使用前にスパイクからカテーテル接続部まで全ての接続部を軽く増し締めします。締めすぎるとネジ山を傷めるため、止まる位置から少しだけが目安です。
滅菌済みのセットは、輸送や保管の間にルアーロック接続が緩んでいることがあります。使う前に、スパイクからカテーテル接続部まで、三方活栓・トランスデューサー・延長チューブのすべての接続部を軽く増し締めします。止まる位置から少しだけ、が目安で、締めすぎるとネジ山を痛めます。

写真: 加圧バッグ用の輸液にスパイクをまっすぐ刺した状態。バッグを立てて口部の空気を寄せて抜いておくと後の脱気が楽になります。点滴筒(ドリップチャンバー)は満たしすぎず1/2〜2/3程度にとどめ、液面から気泡混入に気づけるようにします。
- 加圧バッグ用の輸液(生理食塩水、施設によりヘパリン加生食)にスパイクをまっすぐ刺す
- バッグを立てて口部の空気をバッグ側へ寄せ、バッグ内の余分な空気を抜いておく。後の脱気が楽になる
- 点滴筒(ドリップチャンバー)があるセットは1/2〜2/3ほど満たす。満たしすぎると液面が見えず、空気の混入に気づけない

写真: 三方活栓にシリンジを付け、エアを抜きながら回路を充填する場面。充填は患者側へ向かって一方向に進め、今どの向きが開通しているかを都度確認します。強く押し込むと気泡が細かく散って残るため、ゆっくり吸引しながら行うのがポイントです。
回路の充填は、患者側へ向かって一方向に進めます。三方活栓は「今どこが開いているか」を毎回確認します。
- 充填したい方向に活栓を開通させ、反対側(大気開放側・シリンジ側)はOFFにする
- 活栓の側管ポートは空気が残りやすい。ポートを上に向け、キャップを外してフラッシュし、液が出てから閉じる
- シリンジで吸引しながら充填すると微小気泡が引ける。強く押し込むと気泡が細かく散って残るので、ゆっくり行う
- 各接続部・活栓を指で弾いて(タッピング)気泡を集め、フラッシュで送り出す

写真: フラッシュデバイス(プルタブ)を引いて急速フラッシュし、充填・脱気する場面。タブを引いている間だけ大量の液が流れ、離すと1時間あたり約3mLの持続フラッシュに戻ります。指を離したときに「カチッ」と完全に戻ることを確認しないと、持続フラッシュ量がずれることがあります。
トランスデューサーの手前にあるフラッシュデバイス(プルタブ/スナップタブ。「ピロー」と呼ばれることもあります)は、タブを引く/つまむ間だけ大量の液が流れる急速フラッシュの機構です。充填時はここを開いて回路全体に液を流し、閉じると内部の絞り(オリフィス)を通じて1時間あたり約3mLの持続フラッシュに戻ります。
- 充填の仕上げに、フラッシュデバイスを開いてトランスデューサー内・ドームの気泡を流し切る
- タブから指を離したとき「カチッ」と完全に戻ることを確認する。半開きだと持続フラッシュ量が変わる
- 使用中、波形がなまったときのスクエアウェーブテストもこのデバイスで行う
穿刺の介助
- 体位:橈骨動脈なら手関節を軽く背屈し、タオルなどで支える
- 清潔操作:穿刺部の消毒、清潔ドレープ。介助者も清潔野を崩さない
- エコー:短軸・長軸で動脈を描出し、静脈や神経との位置関係を確認する
- 穿刺〜留置:逆血を確認し、カテーテルを進める。キットによりガイドワイヤーを使う
- 接続:プライミング済みの回路を接続し、血液の逆流と拍動波形を確認する
- 固定:透明ドレッシングで刺入部が見えるように固定。ループを作り、抜けを防ぐ
穿刺後は、末梢の色・温度・しびれの有無を確認します。橈骨動脈では、事前に側副血行を評価する考え方もあります(施設方針による)。
トランスデューサーのセットとゼロ点校正
- トランスデューサーを右房レベル(仰臥位で腋窩中線・第4肋間が目安)に合わせて固定する
- 患者側を閉じて大気に開放し、モニターで「ゼロ」操作を行い、0mmHgを確認する
- 大気側を閉じ、患者側を開いて拍動波形が戻ることを確認する
- 体位変換後、ベッドの高さを変えた後は、高さ確認とゼロ点校正をやり直す
手順の詳細と、高さがずれたときの誤差の方向は、別記事「観血的動脈圧(Aライン)モニタリング ― 波形なまりとゼロ点校正のトラブルシューティング」で解説しています。
トランスデューサーの各部

写真: トランスデューサーまわり ― 三方活栓、圧トランスデューサー、フラッシュデバイス。トランスデューサー本体は右房レベルに高さを合わせて固定し、ゼロ点校正用の三方活栓は大気開放してモニターで0mmHgを確認する際に使います。
圧トランスデューサーは、回路内の圧(水柱の圧)を電気信号に変換する部品です。周辺は次の要素で構成されます。
- 圧トランスデューサー本体:圧ケーブルでモニターに接続する。この高さを右房レベルに合わせて固定する
- フラッシュデバイス:持続フラッシュ(約3mL/h)と急速フラッシュを担う
- ゼロ点校正用の三方活栓:大気開放してモニターで0mmHgを取る。校正後もこのポートからの誤操作が起きないよう、キャップと表示を徹底する
- 採血用の三方活栓/閉鎖式採血ポート:ライン内の血液を戻せる閉鎖式(血液の無駄と汚染が少ない)と、開放式がある
- ホルダー:点滴スタンドや専用ホルダーに固定し、ベッドの高さを変えたら高さを再確認する
開始後の確認
- 波形:収縮期の立ち上がり、重複切痕(ディクロティックノッチ)が確認できるか
- スクエアウェーブテスト:急速フラッシュ後、1〜2回の振動でベースラインに戻るか
- NIBPとの照合:非観血的血圧と大きな乖離がないか
- 加圧バッグ:300mmHg目安を保っているか、生食の残量は十分か
- 固定と表示:刺入部が見えるか、「動脈」ラインであることが一目でわかる表示か
合併症と観察
- 血腫・出血:穿刺部の圧迫止血、抗凝固中は特に注意
- 動脈の閉塞・末梢循環障害:指先の色・温度・冷感・しびれ。異常があれば抜去を検討
- 感染:刺入部の発赤・浸出。留置日数が延びるほどリスクが上がる
- 神経障害:穿刺部位周辺のしびれ・痛み
- 空気塞栓:フラッシュや採血時に気泡を送り込まない
- 薬剤の誤注入:静脈ラインと取り違えて薬剤を動脈内に入れると重大な合併症になる。ライン表示・色分け・接続前の指差し確認を徹底する
CEが確認すること
- 圧ラインの選定(高圧・短め)、トランスデューサー一体型セットの在庫と使用期限
- プライミングの介助、気泡除去、加圧バッグ圧の確認
- モニター側の圧チャンネル設定、スケール、アラーム設定
- 開始後の波形評価(スクエアウェーブテスト)、NIBPとの照合
- 留置中の日々の点検(波形の質、固定、刺入部、加圧バッグ、生食残量)
まとめ
- Aラインは測定システム全体であり、準備の質が数値の信頼性を決める
- プライミングで気泡を残さない。加圧バッグは300mmHg目安
- トランスデューサーは右房レベル、ゼロ点校正と高さ確認はセット
- 開始後はスクエアウェーブテストとNIBP照合で波形の質を確かめる
- 動脈ラインへの薬剤誤注入を、表示と確認手順で確実に防ぐ
波形そのものの読み方は、別記事「動脈圧波形の基礎」で解説します。CEが関わることで、血圧という基本のバイタルサインの信頼性を支えられます。
参考
- Robertson-Malt S, Malt GN, Arthur V, Roberts A. Heparin versus normal saline for patency of arterial lines. Cochrane Database of Systematic Reviews. PMC6517164
- Heparin Flush Dosage Guide. Drugs.com. https://www.drugs.com/dosage/heparin-flush.html
※ ヘパリン濃度・フラッシュ流量・加圧設定は、必ず各施設のプロトコルと使用機器の添付文書を優先してください。





