麻酔からの覚醒・抜管:4つのMUST項目とCEが確認すること

はじめに
覚醒・抜管を安全に進めるための画一的な方法はありません。患者ごとの評価に基づいて、抜管の準備と、その後の気道管理を計画します。日本麻酔科学会の「2025-JSA 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン」が示す基本です。
手術室退室までに目指すのは、筋収縮回復、自発呼吸回復、従命可能、抜管後上気道維持という4つのMUST項目の達成。チューブが抜けた後も確認は続きます。各モニタの原理から少し離れて、覚醒時に得た情報をどうつなぐかに目を向けてみましょう。
この記事でわかること
- 4つのMUST項目で確かめる回復の状態
- 筋弛緩モニタ、呼吸パターン、指示動作の読み方
- 抜管後に上気道閉塞を疑ったときの対応の流れ
- CEが共有する情報と、退室後へ引き継ぐ確認事項
4つのMUST項目をチームで共有する
覚え方は「筋力・呼吸・指示・気道」。個々の測定値だけでなく、どの項目が達成されているかをそろえて見ます。麻酔科医をリーダーとするチームには、麻酔研修医、看護師、CE(臨床工学技士)、外科医なども含まれます。
覚醒・抜管を始める前に、方法と役割分担を共有します。その後も情報収集、情報共有、状況認識、意思決定、役割に基づく行動を繰り返す。これがガイドラインの求めるノンテクニカルスキルです。

MUST1:筋収縮回復とスガマデクス
筋収縮回復の臨床的基準は、四連反応比(TOFR)>90%です。本文の数値はガイドラインに基づく判断・照合の目安として示しますが、この不等号を「90%前後」と読み替えないでください。筋弛緩モニタは全身麻酔導入前に装着し、抜管前に評価した筋弛緩レベルに応じて回復薬を投与します。
自発呼吸が出た、頭を持ち上げた。それだけで回復薬の投与量は決められません。目視ではTOFR 40%程度の回復でも減衰がないと誤認しやすいため、モニタでの評価が必要です。
| 筋弛緩モニタの所見 | スガマデクス投与量の目安(実体重) |
|---|---|
| PTC(post-tetanic count)反応を認める | 4 mg/kg |
| TOFカウントが2以上 | 2 mg/kg |
遅延リスクのない患者で完全回復までに要する時間の目安は、スガマデクスで約3分、ネオスチグミンで約20分。高齢者、肥満患者、腎機能低下患者、心拍出量低下患者では、投与量が不十分だと再筋弛緩が起こりやすくなります。経過時間と回復の確認は分けて考えましょう。
スガマデクスのアナフィラキシー発生頻度は、国内では投与10万件に対して5件が目安で、約90%が投与後10分以内に発生します。疑った場合はアドレナリンの適正量静脈内投与、または成人では0.3〜0.5 mgを目安とする筋注を実施します。スガマデクスによるアナフィラキシーの既往がある場合はネオスチグミンを使用し、TOFR>90%への回復を筋弛緩モニタで確かめます。
MUST2:自発呼吸が続いているか
気道確保器具を抜去する前に、無意識下でも呼吸中枢の活動が続く自発呼吸を確立させます。呼びかけに応じて行う呼吸運動は、自発呼吸には含めません。
呼吸が再開するETCO2の閾値は、薬剤の残存によって変わります。セボフルランのみを使用した報告例では、安静時42.6 mmHgから過換気で38.7 mmHgまで下げると呼吸が停止し、45.4 mmHgで再開しました。これは報告例を読むための目安で、全患者に共通する閾値ではありません。
オピオイドや麻酔薬が残存する麻酔終了時には、ETCO2が50〜70 mmHg程度まで上がらないと自発呼吸が出現しないこともあります。この範囲も状況を理解する目安であり、一律に目指す値ではありません。呼吸の有無に加えて、速さや深さにも目を向けます。
| 呼吸パターン | 考える状態 |
|---|---|
| 速い呼吸 | 不十分な鎮痛 |
| 遅い呼吸 | オピオイド過量 |
| 浅く速い呼吸・呼吸補助筋の使用 | 呼吸不全 |
MUST3:指示動作で覚醒を確かめる
覚醒後に抜管する場合は、従命可能な意識レベルまで回復させます。この推奨は小児には当てはまりません。開口を維持する、舌を出す、手を握って離すといった指示動作で評価します。体動や自発的な開眼・開口だけでは、安全な覚醒レベルに達したとはいえません。
覚醒過程では、体やチューブ、手術台に触れるなど、気道反射を誘発する刺激を最小限にします。覚醒時興奮には転落のリスクもあります。自発呼吸の確立前に危険な体動や気道反射が生じ、従命可能と確認できない場合は、気道確保器具を抜去せず再鎮静することが推奨されています。
吸引のタイミングも準備の一部です。口腔内吸引はルーチンで、気管内吸引は必要時に、麻酔薬投与中止前の深麻酔下で実施します。気管内吸引は機能的残気量の低下や呼吸パターンの悪化を招くため、ルーチンには行いません。
咳反射の抑制にはフェンタニル、レミフェンタニル、デクスメデトミジン(保険適用外)、リドカインの気管内・静脈内投与が挙げられています。ただし、オピオイド残存時の自発呼吸も併せて評価する必要があります。
MUST4:抜管直後の上気道を確かめる
抜管直後には上気道閉塞の有無を確かめます。閉塞や呼吸パターン不良を疑ったときは、覚醒刺激と両手気道確保から対応します。
- 患者に呼びかけ、マスクを密着させて両手で気道を確保する。
- CPAPまたはPEEP 10 cmH2Oを目安とする低圧補助呼吸を行う。
- カプノグラムでJSA-V1(第Ⅲ相あり)またはV2(第Ⅱ相まで)を確かめる。
- 改善しない場合、またはSpO2<90%を目安として呼吸状態が悪化する場合は、再挿管を検討する。

原因には咽頭閉塞、喉頭痙攣、喉頭狭窄、筋弛緩残存、覚醒不良があります。上気道閉塞以外にも、自発呼吸未確立、オピオイド過量、術前肺疾患の悪化、気道内分泌物を考えます。
退室前確認とCEが関わること
CEは筋弛緩モニタの配備・装着状況を確かめ、TOFR表示を共有します。スガマデクス投与量がPTCとTOFカウントのどちらを基準に決まったかも共有したい情報です。抜管後の対応に関わるカプノグラムやSpO2のモニタ管理も担います。
退室時には呼吸・循環動態の安定と良好な術後痛コントロールを確認し、スガマデクス使用時はアナフィラキシーの有無もチェックします。徐呼吸、頻呼吸、呼吸補助筋を使う呼吸パターンでの退室は許可すべきではありません。
4つのMUST項目の達成状況と、早期警告スコア(EWS、NEWS2など)を術後管理スタッフへ引き継ぎます。達成・未達成にかかわらず、推移に注意する期間の目安は少なくとも術後1時間。覚醒前の役割分担から、退室後への情報共有までをつなぎます。
よくある質問
Q. 自発呼吸が出れば、筋収縮も回復していますか?
自発呼吸の出現だけで筋収縮回復や回復薬の量は判断できません。筋弛緩モニタで評価します。
Q. 目を開けたら従命可能と判断できますか?
自発的な開眼だけでは判断できません。開口維持、挺舌、離握手など、指示に応じた動作で確かめます。
Q. 抜管できれば、確認は終わりですか?
抜管直後の上気道維持と退室前の全身状態まで確認し、MUST項目の達成状況とEWSを術後管理スタッフに共有します。
まとめ
- ✅ 患者ごとに抜管の準備と抜管後の気道管理を計画する。
- ✅ 「筋力・呼吸・指示・気道」の4項目をチームで共有する。
- ✅ 回復薬の量は筋弛緩モニタで評価したレベルに応じて決める。
- ✅ 抜管直後の上気道閉塞や呼吸パターン不良に対応する。
- ✅ 退室前の達成状況とEWSを、術後管理スタッフへ引き継ぐ。
参考
公益社団法人日本麻酔科学会「2025-JSA 抜管から術後早期までの安全な気道管理のための臨床ガイドライン」(本文・ダイジェスト版)。





