OP室で働く麻酔補助CEの日常

SEARCH

MENU

筋弛緩モニタリング(TOF)の基本 ― カウント・TOF比・PTCの読み方とCEの役割

筋弛緩モニタリング(TOF)の基本 ― カウント

はじめに

全身麻酔からの覚醒時、筋弛緩薬の効果がわずかに残っているだけでも、嚥下や上気道の保護、換気の予備能は低下します。この「残存筋弛緩(PORC:postoperative residual curarization)」は、術後の低酸素や誤嚥、再挿管のリスク因子として知られ、近年は客観的な筋弛緩モニタリングが標準的な管理として位置づけられています。

その中心となるのがTOF(train-of-four:四連刺激)です。この記事では、TOFで何を見ているのか、カウント・TOF比・PTCといった指標の意味、測定を乱す要因、そして臨床工学技士(CE)が関わるポイントを整理します。

ポイント

  • TOFは末梢神経を2Hzで4回刺激し、筋収縮(トウィッチ)の数と大きさから筋弛緩の深さを評価する
  • 「反応の数(TOFカウント)」は深さを、「4発目/1発目の比(TOF比)」は回復を反映する
  • 抜管の目安は客観的モニタでTOF比0.9以上。臨床所見と併せて判断する
  • 低体温・末梢循環不良・浮腫・電極位置は測定値を大きく左右する

TOF(四連刺激)とは

TOFは、末梢神経に2Hz(0.5秒間隔)で4回の電気刺激を1組として与え、それによって誘発される筋収縮を観察する方法です。標準は手首の尺骨神経を刺激し、母指内転筋(親指を内側に動かす筋)の反応を見ます。

非脱分極性筋弛緩薬(ロクロニウム、ベクロニウムなど)が効いていると、4回の収縮のうち後半ほど小さくなる現象が起こります。これを「フェード(減衰)」と呼びます。刺激を4回に固定しているのは、単収縮を1回だけ見るよりもフェードの有無と程度を捉えやすく、対照(1発目)との比で定量できるためです。

見るべき指標

TOFカウント

反応したトウィッチの数(0〜4)です。筋弛緩が深いほど数は少なくなります。おおまかな対応は次のとおりです。

TOFカウント 筋弛緩の深さの目安
0(PTCでも0) 深部ブロック
1〜3 中等度ブロック
4(フェードあり) 浅いブロック
4(フェードなし=TOF比 ≧ 0.9) 十分に回復

TOFカウントと筋弛緩の深さ(深部・中等度・浅いブロック・回復)

図: TOFカウントと筋弛緩の深さの対応(模式図)

TOF比(T4/T1)とフェード

4発目の収縮の大きさを1発目で割った値です。1に近いほどフェードが小さく、回復が進んでいることを示します。

かつてはTOF比0.7が回復の目安とされていましたが、その後の研究で、0.7〜0.9では咽頭の協調運動や上気道の開存性、換気応答がまだ十分でないことが分かってきました。現在は客観的モニタでTOF比0.9以上が、抜管を考える際の目安とされています。

指で触れて評価する方法(触覚的評価)では、TOF比が0.4〜0.5を超えるとフェードを感じ取れなくなります。数値で表示される定量モニタ(加速度・筋電・筋音など)でなければ、0.9かどうかは判断できない点に注意が必要です。

TOF比(T4/T1)とフェード ― フェードなし(比≒1.0)とフェードあり(比≒0.42)の比較

図: TOF比(T4÷T1)とフェード(模式図)

PTC(ポストテタニックカウント)とDBS

TOFカウントが0のとき、それが「もうすぐ戻る深さ」なのか「かなり深い」のかはTOFだけでは分かりません。そこで、5秒間の50Hzテタヌス刺激の後に単収縮を繰り返し与え、反応した数を数えるのがPTCです。PTCが0なら非常に深いブロック、PTCが1〜2程度なら数分でTOFの1発目が戻り始める、という目安になります。

DBS(ダブルバースト刺激)は、短い高頻度バーストを2回与える方法で、TOFのフェードよりも指で触れて分かりやすいという利点があります。定量モニタが使えない場面での補助になります。

PTCとDBS:刺激の方法と読み取り方(PTC0は非常に深いブロック、PTC1〜2でTOF第1発目が戻り始める目安)

図: PTCとDBS:刺激の方法と読み取り方(PTC0は非常に深いブロック、PTC1〜2でTOF第1発目が戻り始める目安)

測定部位と筋による違い

筋弛緩薬への感受性と回復の速さは筋によって異なります。臨床的に重要なのは次の対比です。

部位(神経/筋) 特徴
手首(尺骨神経)/母指内転筋 標準。横隔膜や上気道筋より回復が遅い。ここで回復していれば呼吸筋はより回復していると考えられる(安全側の指標)
顔面神経/眼輪筋・皺眉筋 横隔膜・喉頭内転筋に近い動き。母指内転筋より早く回復して見える。導入時の挿管条件の判断には向くが、覚醒時にここだけで判断すると回復を過大評価しやすい
後脛骨神経/母趾 上肢が使えない体位のときの代替

つまり、挿管のタイミングは顔の筋、抜管のタイミングは母指内転筋、と使い分けるのが基本です。

TOF測定に使う使い捨てのEMG(表面)電極

写真: TOF測定に使う使い捨てのEMG(表面)電極

測定を乱す要因

TOFの値は、薬剤の効果だけでなく測定条件に強く影響されます。「反応が鈍い・遅い」ときは、まず次を確認します。

  • 低体温:中枢・末梢いずれの低下でも、収縮が小さく・回復が遅く見える
  • 末梢循環不良:血圧低下、昇圧剤、駆血、装着肢でのNIBP同時測定
  • 浮腫・体位による圧迫:神経や筋が固定具・体位で圧迫されている
  • 電極の位置:尺骨神経の走行に沿って貼り、遠位側を陰極にする。刺激電流は通常50〜60mA(機種の推奨に従う)
  • キャリブレーション(ベースライン)不良:筋弛緩薬の投与前に基準を取っていないと、以後の値の信頼性が落ちる
  • 薬剤・電解質:マグネシウム、アミノグリコシド系抗菌薬などは作用を増強する

また、脱分極性筋弛緩薬(スキサメトニウム)はフェードを示さず、TOFカウント・TOF比とも一様に低下します。フェードの有無は、非脱分極性ブロックの残存を見るための所見です。

覚醒・抜管の判断

抜管の可否は、モニタの数値だけでなく臨床所見と合わせて判断します。

  • 定量モニタでTOF比0.9以上(フェードなし)
  • 5秒間の頭部挙上の維持、しっかりした握力
  • 十分な一回換気量・呼吸様式、気道の保護

拮抗薬を使う場合、ネオスチグミンは深いブロックには無効・不十分で、少なくともTOFカウントが2〜4程度まで自然回復してから投与するのが原則です。スガマデクスはより深い段階から拮抗できますが、いずれの場合も拮抗後にもう一度TOFで確認することが重要です。

CEの役割

CEが麻酔補助に関わる場面では、筋弛緩モニタについて次のような役割を担えます。

  • 始業時のセットアップ:電極の準備、刺激装置・センサーの動作確認、装着肢の選択
  • 正しい装着:尺骨神経に沿った電極配置、センサー(加速度計など)の固定と母指の可動確保、筋弛緩薬投与前のキャリブレーション

電極とセンサーの貼り方 ― 手首の尺骨神経に沿って電極を貼り、遠位を陰極(黒)、母指内転筋の反応をセンサーで測定する

図: 電極とセンサーの貼り方(模式図)。刺激電流・センサー種別・貼付位置は機種の推奨と施設手順に従う

  • 術中のトラブル対応:反応が出ないとき、「深い筋弛緩」なのか「電極・電流・低灌流・低体温などの測定要因」なのかを切り分け、麻酔科医と共有する
  • 覚醒時:TOF比・臨床所見をチームで確認し、拮抗薬投与後の再評価を促す
  • 記録:導入から覚醒までのTOFの推移を残す

機器の原理と装着条件を理解しているCEがいることで、「効いているのに浅く見える」「回復しているのに数値が伸びない」といった測定要因の混入を減らせます。

まとめ

✅ TOFは2Hz×4回の刺激で、筋収縮の数(カウント)と大きさの比(TOF比)から筋弛緩の深さと回復を評価する ✅ TOFカウント0の深さはPTCで、フェードの有無はDBSでも補える ✅ 母指内転筋は回復が遅く安全側の指標、顔の筋は早く回復して見えるため覚醒時の過大評価に注意 ✅ 低体温・末梢循環不良・浮腫・電極位置・キャリブレーションが値を大きく左右する ✅ 抜管の目安は定量モニタでTOF比0.9以上。臨床所見と拮抗後の再確認を併せて判断する

周術期モニタリング全体は周術期モニタリング総まとめにまとめています。