SEPモニタリングのキホン ― 原理・セットアップ・麻酔管理の注意点

原理・セットアップ・麻酔管理・注意点をわかりやすく解説
はじめに
脳外科手術では、術中の神経障害を早期に検出するために神経モニタリングが広く用いられています。その中でもSEP(Somatosensory Evoked Potential:体性感覚誘発電位)は、感覚伝導路の虚血や損傷をリアルタイムに評価できる重要なモニタリングです。
特に以下のような症例で使用されます。
- 頸動脈内膜剥離術(CEA)
- 脳動脈瘤クリッピング
- 頭蓋底手術
- 脳腫瘍摘出術
- 脊髄・脊椎手術
- 血行再建術
SEPは比較的安定したモニタリングですが、麻酔や生理条件の影響を受けやすく、適切なセットアップと理解が重要です。
SEPとは?
SEPは、末梢神経を電気刺激し、その刺激が脊髄〜脳幹〜視床〜大脳皮質へ伝わる過程で発生する電位を記録する検査です。
つまり、
簡単に言うと外からの感覚の信号が、脳までちゃんと届いているかを測るテストといったところです
SEPで評価している神経経路
代表的な正中神経SEPでは、以下の経路を評価しています。
- 正中神経
- 腕神経叢
- 頚髄後索
- 脳幹
- 視床
- 一次体性感覚野(S1)
特に脳外科で重要なのは、最終的に記録される大脳皮質由来のN20波です。
SEPの基本セットアップ
1. 刺激部位
最も一般的なのは正中神経刺激です。
正中神経刺激
刺激部位:手関節部
- 陰極:近位側
- 陽極:遠位側
刺激条件
- 刺激頻度:2〜5 Hz
- 刺激幅:0.1〜0.3 ms
- 刺激強度:母指球が軽く収縮する程度
刺激が弱すぎると波形が不安定になり、強すぎるとアーチファクトが増加します。
2. 記録電極
SEPでは国際10-20法に基づいて記録します。
代表的な記録点
| 電極 | 位置 | 意味 |
|---|---|---|
| Fz | 前頭正中 | 参照電極 |
| C3’/C4’ | 一次感覚野付近 | 記録電極 |
| A1/A2 | 耳朶または乳様突起 | 参照電極 |
よく使用される導出
- C3’−Fz
- C4’−Fz
- C3’−A1
- C4’−A2
右正中神経刺激では左感覚野(C3’)、左刺激では右感覚野(C4’)を使用します。

図: SEP記録電極の配置(国際10-20法)
電極の種類 ― シート電極・皿電極・針電極
誘発電位モニタリングでは、記録・刺激の目的と部位に応じて電極を使い分けます。近年は末梢神経の刺激や体表の記録に、粘着シートに電極が一体化したシート型(貼付型)表面電極が広く使われています。
シート型(貼付表面電極)
貼るだけで装着が速く、面で密着するため位置がずれにくいのが利点です。被覆や体位固定をしても外れにくく、長時間手術に向きます。一方で皿電極よりインピーダンスがやや高く、発汗で剥がれることがあり、有毛部には使えません。皮膚の前処理(角質・皮脂の除去)でインピーダンスを下げ、電気メス使用時のノイズにも配慮します。
皿電極(カップ)
頭皮でのSEP記録(C3'/C4' など)の定番です。ペーストやコロジオンで固定し、低インピーダンスで安定します。装着に時間がかかり、ペーストの乾燥でインピーダンスが上がる点、除去にアセトン等が必要な点が短所です。
針電極(皮下針・コルクスクリュー)
頭皮でのMEP刺激や、筋からのMEP記録に用います。低インピーダンスで高電圧刺激にも耐えますが、侵襲的で出血・感染・熱傷のリスクがあり、抜針・本数管理が必要です。体位変換で抜けやすい点にも注意します。
硬膜下シートストリップ電極
位相逆転現象による中心溝同定やDirect MEP(直接皮質刺激)では、術野に置く4〜8極のストリップ電極(硬膜下シート電極)を用います。留置は術者が無菌的に行い、CEはケーブルの接続、極性、記録導出・フィルタの設定、記録の確認を担います。

MEPとSEPの電極配置
SEPとMEPは評価している経路が異なるため、刺激点・記録点も異なります。両者を併用する場合は、配置を整理しておくと混乱しません。
SEP(体性感覚誘発電位)
- 刺激:上肢=正中神経(手関節)、下肢=後脛骨神経(足関節・内果の後方)
- 記録:Erb点(鎖骨上窩)や頸部(C5棘突起付近)などの末梢・脊髄レベルに加え、頭皮では対側の一次感覚野上 ― 上肢は C3'/C4'(C3/C4 の約2cm後方)、下肢は Cz'。基準は Fz。代表波は上肢 N20、下肢 P37。
TES-MEP(経頭蓋電気刺激MEP)
- 刺激:頭皮上の運動野(C3/C4 または C1/C2)。陽極を標的とする半球側に置く。
- 記録:標的筋の複合筋活動電位 ― 上肢は短母指外転筋(APB)、下肢は前脛骨筋(TA)・母趾外転筋(AH)など。

CEが確認すること
- 各電極・センサーのインピーダンス(左右差・上限)
- 刺激強度・極性・刺激部位が指示どおりか
- 記録導出とフィルタ設定、加算回数
- 麻酔との整合(MEPはTIVA中心、記録直前は筋弛緩を戻す)
- 執刀前のベースライン取得と、以後の比較基準
SEPの代表的波形
N20波
脳外科領域で最も重要な波形です。
特徴
- 潜時:約20 ms
- 発生源:一次体性感覚野
- 遠位場電位(far-field potential)
脳虚血や感覚路障害により、
- 振幅低下
- 潜時延長
- 波形消失
が生じます。
術中SEPで異常と判断する基準
一般的には以下が警告基準とされます。
| 変化 | 意義 |
|---|---|
| 振幅50%以上低下 | 虚血・障害疑い |
| 潜時10%以上延長 | 神経伝導遅延 |
| 波形消失 | 重度虚血の可能性 |
特にCEA中の頸動脈遮断時には重要です。
「潜時延長」が意味すること
警告基準の表にある「潜時10%以上延長」は、振幅低下とは異なる仕組みを見ている指標です。振幅が「伝導している線維の数(同期して反応する軸索の量)」を反映するのに対し、潜時は刺激から反応までの伝導にかかった時間、つまり伝導速度を反映します。
- 振幅低下:軸索の脱落・伝導ブロックなど、伝導できる線維の数が減っている
- 潜時延長:線維自体は伝導しているが、その速度が遅くなっている(軽度虚血・圧迫・脱髄など)
虚血が進行する過程では、多くの場合まず伝導速度の低下(潜時延長)が先行し、さらに悪化すると振幅低下・波形消失に至ります。つまり潜時延長は、振幅が保たれている段階でも異常を検出できる、より早期の警告サインになり得るということです。
中枢伝導時間(CCT)という考え方
ただし潜時は、末梢神経の伝導(刺激部位から脊髄に届くまで)と、中枢側の伝導(脊髄から大脳皮質まで)の両方を含んだ「合計時間」です。末梢側は上肢の温度や体位、電極の状態など手術操作と無関係な要因でも変動するため、潜時の延長がそのまま「手術操作による中枢の障害」を意味するとは限りません。
そこで用いられるのが、頸部などで記録される皮質下成分(N13など)とN20との時間差から求める中枢伝導時間(Central Conduction Time:CCT)です。末梢の影響を差し引いた「中枢経路だけの伝導時間」を見ることで、より手術操作に直結した変化かどうかを判断しやすくなります。
潜時延長を見たときに確認すること
- 体温(特に上肢・末梢の温度低下は末梢神経の伝導速度を直接遅らせる)
- 麻酔深度・吸入麻酔薬の濃度変化のタイミング
- 刺激部位(手関節)の電極状態・体位による圧迫の有無
- 振幅の変化を伴っているか(伴う場合はより虚血を疑う所見として重みが増す)
潜時延長を確認したら、まず末梢要因(体温・麻酔・電極)を除外し、それでも説明できない延長であれば、術者への報告を検討します。
麻酔がSEPへ与える影響
SEPは麻酔の影響を受けやすいため、麻酔方法は非常に重要です。
吸入麻酔薬
セボフルランやデスフルランなどの吸入麻酔薬は、SEPを抑制します。
影響
- 振幅低下
- 潜時延長
- 濃度依存性
特に1 MAC以上では波形が著明に悪化することがあります。
そのため、SEPモニタリング症例では吸入麻酔は低濃度(0.5 MAC以下)に抑えるか、使用を避けることが推奨されます。
静脈麻酔(TIVA)
プロポフォール+レミフェンタニルによるTIVAはSEPとの相性が良好です。
メリット
- 波形が安定
- 振幅保持しやすい
- 虚血変化を検出しやすい
脳外科領域ではTIVAが第一選択となることが多いです。
筋弛緩薬の影響
SEP自体は感覚路モニタリングのため、筋弛緩薬の直接影響は少ないとされています。
しかし、MEPを併用する場合は筋弛緩が大きく影響します。
そのため実臨床では、
- 挿管時のみ使用
- 追加は最小限
- TOFモニタリング併用
がよく行われます。

図: 麻酔法がSEPへ与える影響
SEPに影響する生理学的因子
麻酔薬以外にもSEPはさまざまな因子で変化します。
低血圧
脳血流低下により振幅低下が起こります。
特に頸動脈手術では重要です。
低体温
- 潜時延長
- 振幅低下
が生じます。
低酸素・貧血
脳酸素供給低下により波形悪化を起こします。
PaCO₂変化
過換気(低PaCO₂)
脳血管収縮 → 脳血流低下 → SEP低下
高CO₂
脳血流増加により改善することがあります。
SEP異常時に確認するポイント
SEP低下時には、即座に外科的損傷と決めつけず、以下を確認します。
麻酔関連
- 麻酔濃度上昇
- ボーラス投与
- 筋弛緩追加
循環
- 血圧低下
- 心拍出量低下
- 貧血
呼吸
- 低酸素
- 過換気
機械的問題
- 電極外れ
- 刺激不良
- ノイズ混入

図: SEP異常時に確認するポイント
脳外科でのSEP活用例
頸動脈内膜剥離術(CEA)
内頸動脈遮断時の脳虚血監視。
SEP低下がみられる場合、
- シャント挿入
- 血圧上昇
などを検討します。
脳動脈瘤クリッピング
穿通枝障害や虚血検出。
一時遮断中のモニタリングに有用です。
脊髄手術
後索機能モニタリング。
MEPと併用することで感覚・運動両方を評価できます。
SEP位相逆転現象を用いた中心溝同定とDirect MEP
脳腫瘍摘出術など、運動野の近傍を扱う手術では、腫瘍による圧排で解剖学的なランドマークが歪んでいることが少なくありません。そこで威力を発揮するのが、SEPの「位相逆転(phase reversal)」現象を利用した中心溝同定と、それに続くDirect MEP(直接皮質刺激によるMEP)です。
位相逆転現象とは
開頭後、脳表に多接点のストリップ電極を中心溝をまたぐように留置し、通常のSEPと同様に正中神経を刺激します。このとき、
- 中心溝より後方(一次体性感覚野・S1側)の接点では、N20に相当する陰性(下向き)の電位が記録される
- 中心溝より前方(一次運動野・M1側)の接点では、同じ潜時で陽性(上向き)の電位が記録される
この陰性から陽性への波形の反転が起こる接点こそが、中心溝の位置を示しています。腫瘍で脳表の形態が変化していても、電気生理学的な機能情報から確実に中心溝を同定できるのがこの手法の強みです。

図: 位相逆転現象による中心溝同定の原理。N20(陰性)→P20(陽性)へ波形が反転する接点が中心溝
Direct MEP(直接皮質刺激)とは
中心溝が同定できれば、そのすぐ前方が一次運動野(M1)です。経頭蓋電気刺激(TES)は頭皮・頭蓋骨を介して間接的に運動野を刺激するのに対し、Direct MEPは同じストリップ電極(または専用の刺激電極)を使い、露出した運動野を直接電気刺激してMEPを導出します。
- 頭蓋骨・頭皮という抵抗を介さないため、TESよりはるかに低い刺激電流で反応が得られる
- 刺激部位がピンポイントであるため、より正確な運動野マッピングが可能
- その分、電極位置のわずかなズレが結果に直結するため、固定・位置決めの精度が重要になる
システム構成の一例
実際の運用では、直接皮質刺激と記録を別々の装置が分担する構成がよく用いられます。
- 刺激側:直接皮質刺激(Direct MEP)を担当
- 記録側:正中神経刺激によるSEP、ストリップ電極による中心溝同定の記録、四肢筋(FCU・APB・TA・AHなど)からのD-MEP記録を一体的に担当

図: SEP+Direct MEPによる中心溝同定のシステム構成の一例(刺激と記録を別装置が分担するケース)
記録画面では、中心溝同定用のトレース(各接点の波形)と、D-MEPのトレース(各筋の反応)を並行して確認しながら手術を進めていきます。刺激強度は、SEPが比較的大きな刺激(母指球が軽く収縮する程度)を要するのに対し、Direct MEPは直接刺激ゆえにごく小さい電流(mAオーダー)で足りる点も、CEとして押さえておきたい違いです。
CEとして押さえておきたいポイント
- ストリップ電極がずれると位相逆転の判定自体が不正確になるため、術者との位置確認・固定状況の共有が重要
- 中心溝同定とDirect MEPは連続した手技であり、記録側の設定(フィルタ・感度・刺激レート)を事前に両方分準備しておく
- Direct MEPは刺激閾値が非常に低いため、閾値上刺激の考え方(MEP記事で触れた内容)がそのまま当てはまる
実際のセットアップ例
参考として、実際の術野で使用しているシステムの写真を掲載します。

NIM-Vitalの刺激出力パネル。STIM 1/STIM 2から正中神経刺激用のケーブルが接続されている

NIM-EclipseのHIGH LEVEL OUTPUT/LOW LEVEL OUTPUT。用途に応じて出力チャンネルを使い分ける

NIM-Eclipseの記録画面。D-MEP Trace(FCU・APB・TA・AHの各筋)と中心溝同定Traceを並行して確認できる
SEPの限界
SEPは有用ですが万能ではありません。
感覚路中心
SEPは後索〜感覚路評価であり、運動路は評価できません。
そのため、運動機能温存にはMEP併用が重要です。
反応が平均化依存
SEPは微小電位のため、多数回加算平均が必要です。
そのため、MEPより即時性はやや劣ります。
まとめ
SEPは脳外科領域において重要な術中神経モニタリングです。
特に、
- 脳虚血検出
- 感覚路保護
- 頸動脈遮断時評価
に有用です。
SEPを安定して運用するには、
- 適切な電極配置
- 刺激条件
- TIVA中心の麻酔管理
- 生理学的因子の管理
- 潜時延長は振幅低下より早期のサインになり得るが、末梢要因の除外とCCTでの評価が鍵
が重要となります。
MEPやEEGと組み合わせることで、より高精度な神経保護が可能となります。
特に運動野近傍の腫瘍摘出術では、SEPの位相逆転現象による中心溝同定と、それに続くDirect MEPによる直接皮質刺激を組み合わせることで、歪んだ解剖学的landmarkに頼らず機能的に安全域を確認しながら手術を進めることができます。





