反回神経モニタリングとダブルルーメンチューブ(DLT)― 片肺換気が必要な手術での電極貼付

この記事でわかること
- NIM TUBE(単腔・電極内蔵)は甲状腺手術が前提で、片肺換気が必要な手術ではそのまま使えない
- VATS左肺葉切除の4Lリンパ節郭清、食道切除術など、片肺換気必須かつRLN損傷リスクが高い場面で応用されている
- ダブルルーメンチューブ(DLT)に電極を後付けする方法が報告されている
- 報告されている電極貼付位置と、この方法が標準化されているかどうかをCE視点で整理
- 単腔チューブ+気管支ブロッカーなど代替アプローチにも触れる
はじめに
甲状腺手術での反回神経モニタリング(RLN monitoring)は、前の記事で紹介したとおり、声帯レベルに電極を内蔵した単腔の気管チューブ(NIM TUBEなど)を使い、挿管は基本的に1回で完結します。
ただし、この方式は甲状腺手術を前提にした既製品です。片肺換気が必要な手術(分離肺換気を参照)では、ダブルルーメンチューブ(DLT)や気管支ブロッカーを使うため、同じようにはいきません。しかもこうした手術の一部は、反回神経損傷のリスクがもともと高い場面でもあります。
この記事では、DLTを使いながら反回神経をモニタリングする方法について、PubMedで確認できた報告をもとに、電極の貼付位置と、この方法が標準的かどうかを整理します。
どんな手術で必要になるのか
「片肺換気が必須」かつ「反回神経損傷のリスクが高い」という条件が重なる代表的な場面として、以下が報告されています。
- VATS(胸腔鏡下)左肺葉切除術での左下気管傍リンパ節(4L)郭清 ― 左反回神経は大動脈弓の外側を走行し、4Lリンパ節郭清の操作でリスクが高まる
- 食道切除術(特にリンパ節郭清を伴うもの) ― 反回神経周囲のリンパ節郭清で、牽引・圧迫による損傷のリスクがある
どちらも片肺換気(one-lung ventilation)が前提で、DLTまたは気管支ブロッカーの使用が必須になります。
NIM TUBE方式との違い
| 甲状腺手術(NIM TUBE) | 片肺換気が必要な手術(DLT) | |
|---|---|---|
| 使うチューブ | 単腔、電極内蔵の既製品 | ダブルルーメン。電極一体型の既製品は一般的でない |
| 挿管回数 | 基本1回 | 報告例では2回(電極貼付のため) |
| 電極位置の決め方 | 喉頭鏡・ビデオスコープ下で直視確認 | ファイバー気管支鏡でマーキング→抜管して貼付→再挿管して再確認 |
| 標準化の状況 | 国際的な推奨あり(International Neural Monitoring Study Group) | 標準化された手法はまだない |
数値・手順は下記の報告例による目安です。機種・施設プロトコルにより異なります。
DLTへの電極貼付位置 ― 報告されている手技
もっとも手順が具体的に報告されているのが、VATS左肺葉切除でのCIONM(持続的神経モニタリング)です。電極の位置決めに、2段階の挿管が用いられています。
使用機材(報告例)
- 左側ダブルルーメン気管支チューブ
- 4チャンネルの貼付型電極(テープ状で、チューブの外周に巻き付けて使用)
- チューブ径・電極サイズは、術前CTで測定した左主気管支径に合わせて選定
実物で見るダブルルーメンチューブ
報告されている手技のイメージがつきやすいよう、左側ダブルルーメンチューブの実物を掲載します(製品は施設により異なります)。

写真: 左側ダブルルーメンチューブ(滅菌パッケージ入り)

写真: チューブ外径のサイズ(Fr)表記。術前CTで測定した気管支径に合わせて選定する

図: ダブルルーメンチューブと体表貼付型電極(貼付前の状態)
電極貼付の手順
- 1回目の挿管 ― ファイバー気管支鏡でDLTの気管支側先端を気管分岐部(カリーナ)に合わせ、換気を確認してから固定する
- 位置のマーキング ― ファイバー気管支鏡で、披裂軟骨のレベルに一致するチューブ上の位置を確認・記録する
- 抜管・電極貼付 ― 一度抜管してチューブを清拭し、電極の中心がマーキング位置より尾側1.5cmになるようテープで貼付する(声帯は披裂軟骨の1.2〜1.5cm尾側にあるため)
- 2回目の挿管 ― 1回目と同じ深さまで再挿管し、ファイバー気管支鏡で気管支先端(カリーナ位置)と電極位置(声帯レベル)の両方を最終確認する
- 電気生理学的な確認 ― 迷走神経刺激でEMG振幅500μV以上が得られない場合、0.5cm刻みでチューブの深さを微調整する

図: DLT電極貼付位置の模式図(披裂軟骨から尾側1.5cmに電極中心を合わせる。報告例)
これは標準的な方法か
いいえ、標準化された手法ではありません。 甲状腺手術のNIM TUBE(単腔・挿管1回+位置確認)とは異なる、限られた施設での工夫にとどまっています。
- 市販の「電極付きダブルルーメンチューブ」は、確認できた範囲では存在しない
- 甲状腺手術の単腔EMGチューブでは、International Neural Monitoring Study Groupの推奨に沿って、挿管1回+呼吸性変動やビデオ挿管デバイスでの位置確認という方法が確立されている
- DLTでの2段階挿管法を具体的に報告しているのは、確認できた範囲ではソウルの同一施設のグループによる2つの報告にとどまる
- 論文中でも「2回挿管による気道損傷リスクの増加」が課題として挙げられている
代替アプローチ
- 単腔チューブ+表面電極+気管支ブロッカー ― 挿管は1回で済むが、カフヘルニアなど別のリスクがあるとされる
- 単腔の電極内蔵チューブ+気管支ブロッカーでのCIONM ― VATS食道切除術での報告例もある
いずれも確立された優劣はなく、施設・症例ごとの選択という段階です。
CEが確認すること
- DLTのサイズ・電極の有無を、術前に麻酔科医・術者と共有できているか
- 電極貼付を伴う場合、2回目の挿管に備えた物品(清拭用ガーゼ・予備の電極)を準備できているか
- ファイバー気管支鏡での位置確認(カリーナ・電極位置)を、挿管のたびに一緒に確認しているか
- 迷走神経刺激でのEMG振幅を、体位が最終的に決まった後にも再確認したか
- この方法が「標準化されていない、施設ごとの工夫」であることを踏まえ、記録・申し送りを丁寧に残しているか
よくある質問
ダブルルーメンチューブ用の電極付き既製品はありますか?
確認できた範囲では市販されていません。単腔の電極内蔵チューブ(NIM TUBEなど)はありますが、ダブルルーメンで同様の既製品は一般的でなく、電極を後付けする方法が報告されています。
電極はどのくらいの位置に貼りますか?
報告されている手技では、披裂軟骨のレベルから尾側1.5cmに電極の中心を合わせます。声帯が披裂軟骨の1.2〜1.5cm尾側に位置するためです。
この方法は多くの施設で行われていますか?
確認できた範囲では、報告している施設は限られており、標準化された手技ではありません。単腔チューブ+気管支ブロッカーの組み合わせなど、他のアプローチも併存しています。
まとめ
- 片肺換気が必要な手術(VATS左肺葉切除、食道切除術など)でも反回神経モニタリングが行われている
- NIM TUBEのような電極内蔵の既製DLTは一般的でなく、電極を後付けする工夫が報告されている
- 報告されている電極位置は「披裂軟骨より尾側1.5cm」
- 挿管1回+位置確認が標準の甲状腺手術とは異なり、DLTでは2段階挿管などの工夫が必要になる
- 標準化された手法はまだなく、報告例も限られている
- 単腔+気管支ブロッカーなど代替アプローチも併存している段階
参考:本記事の内容は、PubMed(PMC含む)で確認できた以下の文献に基づいています。
- Hemmerling TM, et al. Intraoperative monitoring of the recurrent laryngeal nerve during single-lung ventilation in esophagectomy. Anesth Analg. 2001;92(3):662-4. DOI
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- Tsang RK, Law S. Adaptation of Continuous Intraoperative Vagus Nerve Stimulation for Monitoring of Recurrent Laryngeal Nerve During Minimally Invasive Esophagectomy. World J Surg. 2016;40(1):137-41. DOI
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- Chambers KJ, et al. Respiratory variation predicts optimal endotracheal tube placement for intra-operative nerve monitoring in thyroid and parathyroid surgery. World J Surg. 2015;39(2):393-9. DOI
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