TIVA(全静脈麻酔)の基本 ― BISで深度を見る理由とCEの役割

この記事でわかること
- TIVAは吸入麻酔薬を使わず、プロポフォール+オピオイドの持続投与で麻酔を維持する方法
- 呼気麻酔薬濃度という「実測できる深度の手がかり」がないため、BISなど脳波モニタリングの比重が上がる
- TCI(目標制御注入)ポンプは、血中濃度(Cp)や効果部位濃度(Ce)を目標に自動で投与量を計算する
- TIVAが選ばれる代表的な場面(誘発電位モニタリング症例など)
- CEが関わるポイント(ポンプ設定・希釈・ライン管理・BISとの連動確認)
はじめに
全身麻酔の維持には、揮発性麻酔薬を中心に組み立てる方法と、揮発性麻酔薬を使わずプロポフォールとオピオイドの持続投与だけで維持する方法があります。後者をTIVA(Total Intravenous Anesthesia、全静脈麻酔)と呼びます。
吸入麻酔では、呼気麻酔薬濃度(終末呼気濃度)をMACという指標で実測できます。しかしTIVAにはこの手がかりがありません。TCI(目標制御注入)が示す血中濃度・効果部位濃度は薬物動態モデルによる計算値であって、実測値ではないからです。
だからこそTIVAでは、脳波を実測する麻酔深度モニタリング(BISなど)の役割が相対的に大きくなります。この記事では、TIVAの基本とTCIの仕組み、そしてBISとの関係をCEの視点で整理します。
TIVAとは ― 吸入麻酔との違い
| 吸入麻酔 | TIVA | |
|---|---|---|
| 維持に使う薬剤 | 揮発性麻酔薬(セボフルランなど) | プロポフォール+オピオイド(レミフェンタニルなど)の持続投与 |
| 深度の実測指標 | 呼気麻酔薬濃度(MAC) | なし(計算上の血中・効果部位濃度のみ) |
| 投与経路 | 気化器+麻酔回路 | シリンジポンプ(TCIポンプ) |
| 術後悪心嘔吐(PONV) | 相対的に多い傾向 | 少ない傾向(プロポフォールの制吐作用) |
| 覚醒の特性 | 肺からの排泄に依存 | 代謝・再分布に依存(モデル・投与時間により変動) |
傾向はいずれも一般的な目安です。患者・薬剤・施設プロトコルにより異なります。
TCI(目標制御注入)の基本
TCIポンプは、体重・年齢などのパラメータと薬物動態モデル(PK/PDモデル)を使って、指定した目標濃度になるよう自動で投与速度を計算する方式です。
- 血中濃度(Cp)モード ― 血中の目標濃度を維持するように投与
- 効果部位濃度(Ce)モード ― 脳(効果部位)の目標濃度により速く近づけるように、導入時は血中濃度を一時的に高めに投与してから落ち着かせる
プロポフォールにはMarshモデル・Schniderモデルなど複数のPK/PDモデルがあり、年齢・体格によって効果部位濃度の立ち上がり方が異なることが報告されています。
TIVAでBISが重要になる理由
吸入麻酔にはMAC(呼気麻酔薬濃度)という実測の手がかりがありますが、TIVAの血中・効果部位濃度はあくまで計算値です。ポンプの設定ミスやライン閉塞・接続外れがあっても、吸入麻酔のように「濃度計の数値が動かない」という形では気づきにくいという特性があります。
そのため、脳波を実測するBISなどの麻酔深度モニタリングが、TIVA中の深度確認における中心的な手段になります。
- BIS 40〜60を目標にプロポフォールをタイトレーションすることで、投与量を減らせたとの報告があります
- BIS誘導のクローズドループTCI(BIS値に応じて自動調整)は、オープンループ(術者が手動調整)より深度の安定性(適正深度の時間割合など)が高かったとの報告もあります
BIS自体の限界(筋電図混入、ケタミンなど一部薬剤での乖離など)は麻酔深度モニタリング(BIS)の基本で詳しく解説しています。TIVA中も、数値だけでなく生波形・EMG・SQIを併せて読む点は変わりません。

図: 吸入麻酔とTIVAで、深度の手がかりはどう違うか(模式図)
TIVAが選ばれる場面
- 誘発電位モニタリング症例 ― 吸入麻酔薬は運動誘発電位(MEP)や体性感覚誘発電位(SEP)の波形を強く抑制するため、プロポフォール+レミフェンタニルによるTIVAが第一選択となることが多いとされています
- PONV(術後悪心嘔吐)のリスクが高い患者 ― プロポフォールには制吐作用があるとされ、TIVAが選ばれる理由のひとつになります
- 悪性高熱症の既往・疑いがある患者 ― 揮発性麻酔薬はトリガー物質となるため、TIVAが選択されます(詳しくは周術期の緊急対応を参照)
CEが関わるポイント
- TCIポンプの設定(体重・年齢・目標濃度・モデル選択のサポート)
- プロポフォール・レミフェンタニルの希釈濃度と配置(施設プロトコルとの整合)
- ラインの死腔・接続部の管理 ― TCIは投与速度の変化が小さいため、閉塞や接続外れに気づきにくい
- BISセンサーの装着・信号品質(インピーダンス、SQI)の確認、生波形との併読
- 覚醒遅延や血圧低下などが起きたとき、ポンプ側のトラブルか薬効かを切り分ける手伝い
まとめ
- TIVAはプロポフォール+オピオイドの持続投与で麻酔を維持する方法で、吸入麻酔薬は使わない
- 呼気麻酔薬濃度という実測の深度指標がないため、BISなど脳波モニタリングの役割が相対的に大きい
- TCIは血中濃度(Cp)/効果部位濃度(Ce)を目標に、薬物動態モデルに基づいて自動投与する
- 誘発電位モニタリング症例、PONVハイリスク、悪性高熱症の既往などでTIVAが選ばれる
- CEはポンプ設定・希釈・ライン管理・BISとの連動確認に関わる
- BIS自体の限界(EMG混入、一部薬剤との乖離など)を踏まえ、数値だけで判断しない
よくある質問
TIVAとはなんですか?
吸入麻酔薬を使わず、プロポフォールとオピオイド(レミフェンタニルなど)の持続投与だけで全身麻酔を維持する方法です。全静脈麻酔(Total Intravenous Anesthesia)の略です。
TIVA中はなぜBISが重要になりますか?
吸入麻酔にはMAC(呼気麻酔薬濃度)という実測の深度指標がありますが、TIVAの血中・効果部位濃度は計算値にとどまります。脳波を実測するBISなどの麻酔深度モニタリングが、深度確認の中心的な手段になります。
TCIとはなんですか?
目標制御注入(Target-Controlled Infusion)の略です。指定した血中濃度または効果部位濃度になるよう、薬物動態モデルに基づいてポンプが自動で投与速度を計算する方式です。
TIVAはどんな場面で選ばれますか?
誘発電位モニタリング(MEP・SEPなど、吸入麻酔薬が波形を抑制するため)、PONVリスクが高い患者、悪性高熱症の既往がある患者などで選ばれることが多いとされています。
参考:本記事の内容は、PubMedで確認できた以下の文献に基づいています。
- Linassi F, et al. Schnider and Eleveld Models for Propofol Target-Controlled Infusion Anesthesia: A Clinical Comparison. Life (Basel). 2023;13(10):2065. DOI
- Bauer M, et al. Impact of bispectral index monitoring on stress response and propofol consumption in patients undergoing coronary artery bypass surgery. Anesthesiology. 2004;101(5):1096-104. DOI
- Yang N, et al. Comparison of anesthesia effects between closed-loop and open-loop target controlled infusion of propofol using the bispectral index in abdominal surgery. J Cent South Univ (Med Sci). 2020;45(12):1419-24. DOI





