OP室で働く麻酔補助CEの日常

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麻酔深度モニタリング(BIS)の基本 ― 数値の意味と、CEが押さえる限界

麻酔深度モニタリング(BIS) アイキャッチ(写真版)

はじめに

全身麻酔中、患者がどのくらい「眠っているか」は、血圧や心拍数だけでは正確には分かりません。浅すぎれば術中覚醒(術中の記憶が残ってしまうこと)のリスクがあり、深すぎれば循環抑制や覚醒遅延、必要以上の薬剤投与につながります。

そのギャップを埋めるために使われるのが、脳波(EEG)を解析して鎮静の深さを数値化する麻酔深度モニタリングです。もっとも普及しているのがBIS(Bispectral Index)で、ほかにエントロピー、SedLine(PSI)などの製品があります。

この記事では、BISが何を見て数値を出しているのか、値の目安、波形(EEG・EMG・SQI・SR)の読み方、そして数値を鵜呑みにしないための限界を、臨床工学技士(CE)の視点で整理します。数値の解釈や投与の判断は麻酔科医が行うものであり、本記事は機器を扱う側の理解を目的とします。

ポイント

  • BISは前額部のEEGを解析し、0(脳波平坦)〜100(清明)の無単位の指標に変換したもの
  • 全身麻酔の一般的な目安は40〜60。ただし薬剤や患者で対応はずれる
  • 数値だけでなく、生のEEG波形・EMG・SQI(信号品質)・SR(サプレッション率)を併せて見る
  • いい波形は「徐波+前頭部のα波・睡眠紡錘波様の活動」。速波主体は浅い、バーストサプレッション〜平坦は深すぎ
  • 筋電図(EMG)の混入、電気メス、低体温、脳虚血などで値は乱れる
  • ケタミン、亜酸化窒素、デクスメデトミジンなどでは値と臨床状態が一致しにくい

BISは何を見ているか

BISセンサーは前額部に貼る専用電極で、前頭部のEEGを記録します。装置はその脳波を周波数解析し、さらに位相の関係(バイスペクトル解析)や、脳波が一時的に平坦になる時間の割合などを組み合わせて、独自のアルゴリズムで0〜100の1つの数値に落とし込みます。

  • 100に近い:覚醒〜清明
  • 40〜60:全身麻酔として一般的に目標とされる範囲
  • 40未満:深い鎮静
  • 0:脳波が平坦(等電位)

重要なのは、BIS値は「血中濃度」でも「特定の薬剤量」でもない、経験的に作られた指標だという点です。だからこそ、後述する限界を知って使う必要があります。

BIS値の目安と鎮静深度の対応(模式図)

図: BIS値のおおまかな目安(模式図。実際の対応は薬剤・患者で変動)

画面で併せて見るべき指標

BISの数値だけを見るのは危険です。同じ画面に出ている次の情報を必ず併読します。

指標 意味 読み方
生EEG波形 実際の脳波 数値の裏付け。振幅・周波数の変化を見る
EMG 前頭筋などの筋電図の強さ 高いと数値が上振れしやすい。覚醒とは限らない
SQI(信号品質指数) 信号の信頼度 低いときの数値は参考程度に
SR(サプレッション率) 一定時間内で脳波が平坦だった割合 高い=深すぎ、または脳灌流低下のサイン

たとえば「BISが70に上がった」とき、EMGも同時に上がっていれば、覚醒ではなく体動や筋緊張、電気メスによる筋電混入の可能性があります。逆にEMGが低いままBISだけ上昇していれば、鎮静が浅くなっている可能性が高い、という読み方をします。

生EEG波形を読む ― いい波形とダメな波形

BIS値は生の脳波を要約した数字にすぎません。信頼できるかどうかは、同じ画面に出ている生EEG波形そのもので裏を取ります。麻酔深度によって波形は特徴的に変化します。

実際のモニタ画面。BIS値・SQIのトレンド(左)と生EEG(EEG1/EEG2)、カプノグラムを並べて表示している

写真: 実際のモニタ画面。BIS値・SQIのトレンド(左)と生EEG(EEG1/EEG2)、カプノグラムを並べて表示している

適切な深さ(いい波形)

プロポフォールやセボフルランで適切な全身麻酔がかかっているとき、前頭部の脳波には次の2つが混じって現れます。

  • 徐波(デルタ波):ゆっくり大きくうねる成分。麻酔が効いてくると増える
  • 前頭部のα波・睡眠紡錘波(スピンドル)様の活動:8〜12Hz前後の律動が、まとまった「紡錘」状にくり返し現れる。覚醒時は後頭部優位だったα波が、麻酔中は前頭部優位に移る(前方化=アンテリオライゼーション)

「大きくゆっくりした徐波の上に、前頭部のα波・紡錘波が規則的に乗っている」状態が、鎮静として安定している目安です。このときBIS値は40〜60に収まりやすくなります。睡眠の第2段階でみられる睡眠紡錘波に形が似ているため、そう呼ばれます。

浅すぎる(ダメな波形 ― その1)

鎮静が浅くなると、脳波は低振幅で速い成分(β波)が主体になり、紡錘波や徐波が減ります。体動・まばたき・前頭筋の筋電(EMG)が混ざり、BIS値は上振れします。手術刺激に合わせて急に速波が増える場合も、深度不足のサインです。

深すぎる(ダメな波形 ― その2)

深くなりすぎると、脳波はバーストサプレッションになります。数秒の脳波の「かたまり(バースト)」と、ほぼ平坦な「抑制(サプレッション)」が交互にくり返す波形です。さらに深くなると抑制の時間が延び、最終的に平坦(等電位)になります。SR(サプレッション率)が上がるのがこのサインで、循環抑制や覚醒遅延につながります。

ただし、低体温・脳血流低下・脳虚血でも同じ波形になります。「薬が効きすぎ」なのか「脳への灌流不足」なのかは、血圧・体温・手術操作と併せて判断します。

麻酔中の脳波 ― いい波形とダメな波形(適切・浅すぎ・深すぎ・平坦)

図: 麻酔中の生EEG波形の4パターン(模式図)

センサー装着とCEが確認すること

値の信頼性は、電極の装着で大きく変わります。

  • 貼付前に前額部の皮脂・汗を拭き取り、しっかり圧着する(インピーダンスが下がる)
  • 指定の位置(眉の上、こめかみ方向)に沿って貼る。左右がずれると値がふらつく
  • センサーの有効期限、コネクタの接続、ケーブルの断線を確認する
  • 装置のインピーダンスチェックが「合格」になっているか
  • 体位変換・ドレープ後にセンサーが浮いていないか

前額部に貼れないとき

脳外科・眼科・形成外科など術野が前額部にかかる場合や、前額部に創・熱傷・皮膚障害がある場合、小児で額の面積が狭い場合などは、標準位置に貼れません。このときの代替として、センサーを頬から下顎(顎)にかけて回すように貼る方法が知られています。前頭部から側頭部・頬部の電気的活動を拾う配置で、術野を避けつつ記録を続けられます。

代替配置では、標準位置と比べて数値がわずかにずれることや、筋電(咬筋など)の影響を受けやすいことがあります。使う場合も、インピーダンスチェックとSQI、EMGを確認し、数値は生EEG波形と併せて読む点は変わりません。配置の可否と手順はメーカーの資料に従います。

CEは「数値がおかしい」と相談を受けたとき、まず装着とインピーダンス、SQI、EMGを確認します。多くはここで説明がつきます。

数値が乱れる要因

筋電図(EMG)・電気メス

前額部の筋活動や電気メスの高周波は、EEGに混入してBIS値を上振れさせます。筋弛緩薬を使うとEMGが下がり、見かけ上BIS値も下がることがあります(鎮静が深くなったわけではない点に注意)。

低体温・低灌流・脳虚血

脳の代謝が落ちるとEEGは徐波化・平坦化し、BIS値は下がります。低体温、脳血流の低下、循環虚脱などでも同様です。SRの上昇を伴うことが多く、「薬が効きすぎているのか、脳への灌流が足りないのか」を他の情報と合わせて判断する必要があります。

体動・アーチファクト

体動、まばたき、ペースメーカや他機器のノイズでも波形は乱れます。SQIが低いときの数値は割り引いて解釈します。

薬剤による「合わない」パターン

BISは主にGABA系の鎮静薬(プロポフォール、揮発性麻酔薬、ベンゾジアゼピン)で臨床状態とよく相関するように作られています。次の薬剤では乖離が知られています。

  • ケタミン:脳波を賦活するため、鎮静が深くてもBIS値が下がらない、むしろ上がることがある
  • 亜酸化窒素(笑気):単独ではBIS値をあまり動かさない
  • デクスメデトミジン:自然睡眠に近い脳波で、深い鎮静でもBIS値が比較的高めに出ることがある
  • オピオイド:鎮痛薬であり、単独ではBIS値をほとんど下げない

これらを使う麻酔では、「BISが目標範囲だから大丈夫」とは言い切れません。

術中覚醒との関係

麻酔深度モニタリングは、術中覚醒のリスクが高い症例(心臓手術、帝王切開の全身麻酔、大量出血、筋弛緩下での薄い麻酔など)で、覚醒の予防を補助する目的で使われます。ただし、BISを使えば術中覚醒がゼロになるわけではありません。呼気麻酔薬濃度のモニタリングや、臨床所見(体動、流涙、頻脈・高血圧)と組み合わせて総合的に判断されます。

まとめ

  • BISは前額部EEGを0〜100に変換した経験的指標。全身麻酔の目安は40〜60
  • 数値単独では読まない。生EEG・EMG・SQI・SRを併せて見る
  • いい波形=徐波+前頭部α波・睡眠紡錘波様。速波主体=浅い、バーストサプレッション〜平坦=深すぎ
  • EMGや電気メスで上振れ、低体温・低灌流・脳虚血で低下(SR上昇を伴う)
  • ケタミン・笑気・デクスメデトミジンなどでは値と臨床状態が乖離する
  • CEはまず装着・インピーダンス・信号品質を確認する。解釈と投与判断は麻酔科医

麻酔深度モニタは、脳波という「解釈の幅がある信号」を数値化する装置です。値の裏にある波形を見る習慣が、誤った安心も誤った不安も防ぎます。