医療機器の電気的安全性管理:漏れ電流と接地抵抗の基本

はじめに
医療機器の電気的安全性は、保護接地抵抗と、経路ごとの漏れ電流を分けて評価します。測定値だけを見ても、正常状態か単一故障状態か、装着部がどのタイプかで照合する基準は変わります。条件をそろえて判定するところが、CE(臨床工学技士)の専門性を発揮する場面です。
管理体制の法的な土台は、医療法施行規則第1条の11第2項第3号イにあります。病院等の管理者には医療機器安全管理責任者の配置が義務づけられ、CEもその資格要件に含まれます。ただし、CEだけに限定された役職ではありません。適切な使用方法や保守点検について十分な経験・知識を持つ常勤職員であることが要件です。
保守点検の計画策定と実施は、日本臨床工学技士会の指針に基づきCEが担う業務の一つ。日々の点検に加え、新規導入時や修理後にも、使用前の電気的安全性を確かめます。
この記事でわかること
- 保護接地抵抗を電圧降下法で求める考え方
- 接地漏れ電流・接触電流と、測定状態による基準の違い
- B形・BF形・CF形で患者に関する電流の基準を分ける理由
- 保守点検の分類とCEが照合する順序
以下の数値は、末尾の参考に基づく照合の目安です。適用条件は機種の取扱説明書や規格原文で確認してください。「以下」と示した許容値の上限を、目安だから超えてよいという意味ではありません。
保護接地抵抗:日常点検の基本
保護接地(接地線)抵抗の許容値は、目安として0.1Ω以下。日常点検で押さえる基本項目です。抵抗の値と、後述する漏れ電流の値は別々に扱います。
測定の考え方は電圧降下法です。所定の電流を流し、そのときの電圧を電流で割ってインピーダンスを求めます。JIS T 0601-1:2017に基づく測定電流の目安は、次のように整理できます。
- 機器の最大定格電流の1.5倍を求める。
- その値が25Aを超える場合は最大定格電流の1.5倍を、25A以下なら25Aを流す。
- 測定した電圧を電流で割り、得られた値を許容値と照合する。
覚え方は「流して、測って、割る」。ただし、これは測定原理の整理です。機種ごとの測定箇所や接続方法は、取扱説明書・規格原文に沿って決めます。
医用コンセント端子部と医用接地センタ間の抵抗を測る簡易な方法もあります。目安は無負荷電圧6V以下の交流電源、約25Aの電流、抵抗0.1Ω以下。こちらは測定対象が設備側なので、機器の測定と混同しないようにしましょう。

接地漏れ電流:正常状態と単一故障状態
接地漏れ電流は、電源部から絶縁の内部や表面を通り、保護接地線に流れる電流です。クラスI機器では、正常状態(NC)と単一故障状態(SFC)を分けて扱います。
| 測定状態 | 許容値 |
|---|---|
| 正常状態(NC) | 5 mA以下 |
| 単一故障状態(SFC) | 10 mA以下 |
接地漏れ電流に対する単一故障状態は、電源導線の1本の断線です。「SFC」という略語だけで済ませず、どの故障条件なのかまで押さえておくと、測定結果を読み違えずに済みます。
接触電流:装着部タイプによらない基準
接触電流(外装漏れ電流)は、B形・BF形・CF形に共通の許容値で照合します。正常状態の目安は100 μA以下、単一故障状態では500 μA以下です。
装着部タイプで基準が変わる患者測定電流とは、分けて読む必要があります。点検票を見比べるときも、まず項目名をそろえ、その後に測定状態と単位をたどってください。
患者測定電流・合計患者漏れ電流と装着部タイプ
B形は体表に接触する通常の装着部です。BF形も体表に接触しますが、フローティング(浮遊)回路を持ちます。CF形はフローティング回路を持ち、心臓へ直接適用できる装着部。直接適用を想定するため、もっとも厳しい漏れ電流基準が適用されます。
| 測定項目・条件 | B形 | BF形 | CF形 |
|---|---|---|---|
| 患者測定電流・交流 | 100 μA | 100 μA | 10 μA |
| 患者測定電流・直流 | 10 μA | 10 μA | 10 μA |
| 合計患者漏れ電流・交流 | 500 μA | 500 μA | 50 μA |
| 合計患者漏れ電流・直流 | 50 μA | 50 μA | 50 μA |
交流・正常状態では、CF形の許容値はB形・BF形の10分の1が目安です。小さいのは「許される電流の上限」。その経路に電流が流れたときの危険性が高いため、厳しく設定されています。測定値が小さいほど危険、という読み方ではありません。

患者に関する電流は、単一故障状態では正常状態より許容値が引き上げられる、という原則を押さえます。具体的な値は、機種の取扱説明書や規格原文で確認してください。
保守点検は実施する場面で分ける
保守点検には、日常点検、定期点検、修理後点検、新規導入時の受入試験があります。毎日の確認だけでなく、機器を導入したときや修理から戻ったときも点検の機会です。

一定間隔で行う定期点検は、より詳細な点検です。修理後点検では、修理・部品交換後の動作と安全性を確かめます。受入試験は購入・納入時の初期確認に当たります。
CEが確認すること
測定値から先に見始めると、別の条件の基準を当てはめかねません。点検結果を読む順序を、次のように決めておくと整理できます。
- 今回が日常・定期・修理後・受入のどの点検かを確認する。
- 保護接地抵抗、接地漏れ電流、接触電流、患者に関する電流のどれを評価するかをそろえる。
- 正常状態か単一故障状態か、交流か直流か、装着部タイプは何かを照合する。
- 機種の取扱説明書・規格原文の測定条件と許容値に照らして結果を読む。
たとえば患者測定電流の欄を読むなら、合計患者漏れ電流の行は使いません。同じμAでも項目が違います。「項目、条件、値」の順でたどる。この順序を点検票でもそろえておきたいところです。
よくある質問
Q. 医療機器安全管理責任者はCEに限られますか?
いいえ。医師や看護師なども資格要件に含まれます。CEは、その資格を持ちうる職種の一つです。
Q. CF形なら、すべての電流の基準が厳しくなりますか?
測定項目と条件によります。接触電流の基準は装着部タイプに共通です。患者測定電流と合計患者漏れ電流も、直流・正常状態ではタイプによる差がありません。
Q. 単一故障状態の患者に関する電流は、どの値を使いますか?
機種の取扱説明書や規格原文で、測定項目と装着部タイプに対応する値を確認します。正常状態の表をそのまま当てはめないでください。
Q. 新品や修理済みの機器も使用前の点検が必要ですか?
必要です。新規導入時は受入試験、修理・部品交換後は修理後点検として、使用前に電気的安全性を確かめます。
まとめ
- ✅ 保護接地抵抗の許容値は目安として0.1Ω以下。電圧降下法で求める。
- ✅ 漏れ電流は測定項目と、正常・単一故障の状態を分けて照合する。
- ✅ CF形は心臓への直接適用を想定し、厳しい基準が適用される。
- ✅ 患者に関する電流は装着部タイプに加え、交流・直流もそろえて読む。
- ✅ 日常・定期点検に加え、新規導入時と修理後にも使用前の安全性を確かめる。
次の点検では、測定値の横にある項目名と条件から見直してください。判定に使う行が合っているかを確かめてから、数値を照合します。
参考
- JIS T 0601-1「医用電気機器―第1部:基礎安全及び基本性能に関する一般要求事項」(保護接地抵抗の測定条件は2017年版)
- 医療法施行規則第1条の11
- 公益社団法人日本臨床工学技士会「医療機器の保守点検に関する計画の策定及び保守点検の適切な実施に関する指針」(2007年)





