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術中モニター心電図のノイズ・波形不良への対応 ― CEが押さえておきたいトラブルシューティング

心電図ノイズトラブル アイキャッチ

はじめに

手術室のベッドサイドモニターに表示される心電図(ECG)は、心拍数や不整脈の有無を示すだけでなく、除細動器の同期トリガーや心拍出量モニタリングの起点にもなる、周術期管理の「土台」となる情報です。ところが実際の手術室では、電気メスの通電、体位変換、清拭、体温管理装置の稼働など様々な要因で波形が乱れ、「ノイズなのか異常なのか判断がつかない」という場面が少なくありません。

波形が乱れたときに「電極を替えてみる」「様子を見る」といった対症療法だけで済ませてしまうと、本当に対応すべき不整脈やリード外れを見逃すリスクがあります。この記事では、臨床工学技士(CE)の視点から、術中心電図のノイズ発生要因を整理し、原因の切り分け方と現場での対応手順をまとめます。

ポイント ・ノイズは「電気的ノイズ」「体動性ノイズ」「基線動揺」の3系統に大別して考えると原因の切り分けがしやすい ・電気メス通電時のノイズは正常な現象であり、通電終了後に波形が戻るかどうかがポイント ・波形不良が持続する場合は、電極・ケーブル・本体設定・患者要因の順に切り分けて確認する ・3極誘導と5極誘導ではアース(基準)となる電極が異なり、肥満患者などでは誘導数の変更がノイズ対策になることがある

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実際の波形で練習する

体動アーチファクト・電極外れ・交流障害・筋電図混入・呼吸性変動(肥満患者)・ペーシングスパイクなどを波形で見分け、誘導変更やモード変更(ハムフィルタなど)で対応する問題集です。全問正解すると波形が実際に改善する経過も確認できます。

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ノイズの3つのタイプを区別する

一口に「波形が汚い」と言っても、その性質によって原因も対応も異なります。まずは大きく3つのタイプに分けて考えると整理しやすくなります。

  • 電気的ノイズ(高周波ノイズ):電気メス、電気メスのアース不良、周辺機器(電動ベッド、加温装置など)から混入する高周波成分。波形全体が細かく振動して見える
  • 体動性ノイズ(筋電図混入・体動アーチファクト):患者の体動、シバリング、外科医の手術操作による圧迫・牽引などで生じる不規則な揺れ
  • 基線動揺(呼吸性変動・電極浮き):呼吸に同期してゆっくり波形全体が上下に揺れる、あるいは電極の接触不良でベースラインがドリフトする

この3系統のどれに近いかを見極めることが、対応の第一歩になります。電気メス使用中に一時的に生じる高周波ノイズであれば「異常ではない」と判断してよいケースがほとんどですが、電気メスを使っていない場面での持続的な波形不良は、電極・ケーブル・患者要因を疑う必要があります。

電気的ノイズ/体動性ノイズ/基線動揺、3種類の波形パターンの比較

図: 電気的ノイズ/体動性ノイズ/基線動揺、3種類の波形パターンの比較

原因別チェックリスト

1. 電極・ケーブル関連

もっとも頻度が高く、かつ改善させやすいのがこのカテゴリです。

  • 電極の乾燥・剥離:長時間手術では電極ジェルが乾燥し、インピーダンスが上昇して信号が不安定になる。4〜6時間を超える手術では電極交換も検討する
  • 電極貼付位置:筋肉の上(特に胸筋・腹筋の走行上)に貼ると筋電図混入が増える。骨の上や脂肪の少ない部位を避けつつ、できるだけ筋肉の少ない位置を選ぶ
  • 消毒液・体液の付着:ポビドンヨードやアルコール、血液・体液が電極と皮膚の間に入り込むと接触不良を起こす。清拭・乾燥後に貼付する
  • ケーブルの断線・接触不良:同一部位で繰り返し波形不良が起きる場合はリードケーブル自体の劣化を疑う。予備ケーブルとの交換で切り分ける
  • ケーブルの取り回し:電気メスのコードと並走・交差させると誘導ノイズを拾いやすい。可能な限り距離を取り、交差は直角に近づける

2. モニター本体側の設定

  • フィルター設定:多くのモニターには「モニターモード」と「診断モード」の周波数フィルターがある。モニターモードは高周波・低周波成分をカットして見やすくする一方、ST変化などの微細な情報は失われる。不整脈の鑑別が必要な場面では診断モードへの切替も検討する
  • ゲイン(感度)設定:振幅が小さすぎるとノイズと信号の区別がつきにくくなる。R波が明瞭に検出できるよう、誘導とゲインを調整する
  • 誘導選択:特定の誘導だけノイズが乗る場合は、他の誘導に切り替えることで一時的に評価可能な波形が得られることがある

心電図モニタのフィルタ・帯域設定画面(モニタ/ST/診断、ハムフィルタ など)

写真: 心電図モニタのフィルタ・帯域設定画面(モニタ/ST/診断、ハムフィルタ など)

3. 環境・機器要因

  • 電気メスの対極板不良:対極板の接触不良や貼付位置の問題は、ノイズだけでなく熱傷リスクにも直結する。波形の乱れが強い・持続する場合は対極板の状態も併せて確認する
  • アース・接地の問題:手術室内の複数の医療機器が同一コンセント系統に接続されている場合、機器間の電位差がノイズ源になることがある
  • 加温装置・電動ベッドの振動:温風式加温装置のモーター振動や体位変換時のベッド駆動が体動性ノイズに似た波形を作ることがある

4. 患者要因

  • シバリング(術後覚醒期・低体温時):筋電図混入が強く出る典型例。保温・鎮静深度の調整で軽減することがある
  • 肥満・浮腫:皮下組織が厚いとインピーダンスが上がり、信号が減衰しやすい
  • 不整脈そのもの:ノイズと誤認しやすいが、心房細動や多源性期外収縮など実際の不整脈である可能性を常に念頭に置く

5. 誘導数(3極/5極)とアース(基準)電極の位置

意外と見落とされがちなのが、3極誘導と5極誘導とでは「アース(基準)となる電極」自体が異なるという点です。

  • 3極誘導:右手(RA)・左手(LA)・左脚(LL)の3電極で、I・II・IIIいずれかの誘導を表示する。専用の駆動アース電極は持たず、電極間の電位差から波形を構成する
  • 5極誘導:RA・LA・LLに加え、右脚(RL)と胸部誘導用(V)の電極が追加される。RL電極は多くの機種で「ドリブンライトレッグ(driven right leg)」と呼ばれる能動的な基準電極として機能し、商用電源由来のノイズなど同相成分を打ち消す役割を担う

つまり5極誘導では、RL電極が基準電極として重要な役割を持っており、この電極の接触状態がノイズの量を大きく左右します。

現場での経験談:心疾患のある肥満患者に5極誘導で心電図モニタリングを行った際、基線のノイズが強く出た症例がありました。皮下脂肪の厚みの影響で接触抵抗が高くなっていると考え、電極位置の見直し、皮膚の清拭、電極用の導電ジェル(潤滑剤)の追加など対策を行いましたが、改善は限定的でした。試しにモニター側の設定を5極から3極誘導に変更したところ、ノイズが明らかに減少しました。

原因を整理すると、3極と5極とではアース(基準)となる電極そのものが変わるためと考えられます。5極誘導で基準電極として機能していたRL電極の接触状態が、肥満による皮下脂肪の影響で不安定になっていたことがノイズの主因だった可能性があり、3極誘導に切り替えたことでその電極への依存がなくなり、結果的にノイズが軽減したと考えられます。

実務での応用:

  • 肥満患者・浮腫の強い患者で5極誘導のノイズが改善しない場合、RL電極(アース電極)の貼付位置・接触状態を重点的に確認する
  • ジェルの追加や位置変更で改善しない場合、3極誘導への一時的な変更を検討する価値がある
  • 誘導数を変更する際は、ST解析など5極誘導だからこそ得られるモニタリング項目が失われないかを確認し、必要に応じて医師と相談のうえで判断する

波形不良の原因切り分けフローチャート(電極→ケーブル→本体設定→患者要因)

図: 波形不良の原因切り分けフローチャート(電極→ケーブル→本体設定→患者要因)

3極誘導と5極誘導の電極構成の違い(5極のRLがアース/基準電極として機能)

図: 3極誘導と5極誘導の電極構成の違い(5極のRLがアース/基準電極として機能)

胸部電極の目的別選択 ― P波確認と虚血監視

5極の胸部電極は、観察したい波形に合わせて配置を選びます。P波・心房活動を見たいときはV1とII誘導を比較し、虚血性ST変化を監視するときはV5やV4を候補にします。目的に合う誘導でも、患者によって波形の見え方は異なります。

「表示する誘導」と「電極を貼る位置」をセットで確認:通常の5極構成はRA・LA・LL・RLと、胸部電極Vの1個です。V1位置に貼った胸部電極をV5として観察したい場合、画面の名前を変えるだけではなく、胸部電極をV5位置へ移します。機器に胸部誘導の位置設定がある場合は、実際の貼付位置と表示ラベルを一致させます。胸部電極1個の通常構成でV1・V4・V5を同時に実測することはできません。複数の胸部誘導を同時に観察する場合は、対応する電極構成・機器を使います。

通常の5極心電図の胸部電極の選択。V1はP波・心房活動をII誘導と比較し、V4とV5は虚血性ST変化の観察候補とする。胸部電極は1個であり、誘導を変更するときは貼付位置も変更する。

図: 目的別の胸部電極配置の模式図。正確な位置は下表で確認してください。V1・V4・V5を同時に貼る図ではありません。

P波・心房活動を確認したい場合:V1とII誘導を見比べる

洞不全などの徐脈性不整脈を考える場面では、心拍数だけでなく、P波の有無や出現のタイミング、P波とQRSの関係を確認します。V1ではP波の形を観察でき、II誘導も心房活動の観察に有用です。「洞不全なら必ずV1」と固定せず、実際にP波を識別しやすい誘導を選び、別の誘導でも確かめることが大切です。

観察するときは、P波が続いているか、P波のあとにQRSが続くか、休止の前後で波形がどう変わるかを見ます。V1でP波が小さい・判別しにくい場合も、その所見だけで洞停止と決めつけません。洞不全の評価では心電図所見と症状との関連が重要で、モニターの一誘導だけで診断を確定しません。

虚血性ST変化を監視したい場合:V5・V4を候補にする

V5は術中の虚血性ST変化の監視でよく用いられる胸部誘導です。V4も候補となり、周術期の研究ではV4の有用性も報告されています。ただし、最も変化を捉えやすい誘導は研究対象や患者の病態で異なり、V5が常に最適、V4・V5だけで虚血を除外できる、という意味ではありません。

胸部電極をV5またはV4に置き、機器が対応していればII誘導なども併せて表示します。監視する誘導は、事前の12誘導心電図や既知の変化、観察目的を踏まえて選びます。ST変化が現れた場合は、電極のずれや体位・波形品質も確認し、臨床状態と合わせて評価して、必要な12誘導心電図の確認につなげます。

V1・V4・V5の貼付位置

胸部誘導標準の貼付位置今回の観察目的
V1第4肋間・胸骨右縁P波・心房活動をII誘導と比較
V4第5肋間・左鎖骨中線虚血性ST変化の観察候補
V5V4と同じ高さ・左前腋窩線虚血性ST変化の観察候補

貼付位置の出典:Philips「ECG Lead Placements」。V4とV5の「同じ高さ」は水平の高さです。

切り替えたら、位置・表示・基準波形を確認:例えばP波の観察を目的としてV1に置いていた胸部電極を、虚血監視のためV5へ移す場合、V5の貼付位置、モニターの表示ラベル、移動後の基準波形を確認します。電極位置を変えると波形も変わるため、移動前後を同じ条件のSTトレンドとして扱わないよう記録します。機器固有の設定操作は、その機種の取扱説明書に従います。

参考資料

  1. P Wave Parameters and Indices ― ISE/ISHNEコンセンサス(2022):P波とV1での評価。
  2. Londonら:Intraoperative myocardial ischemia(1988):術中虚血監視のV5・V4と心房性不整脈観察のII誘導。
  3. Landesbergら:Perioperative myocardial ischemia and infarction(2002):周術期のV4を含む胸部誘導の比較。
  4. Philips:ECG Lead Placements:通常5極の構成、標準胸部電極位置。
  5. 2018 ACC/AHA/HRS 徐脈・心伝導障害ガイドライン:洞機能不全の心電図所見、症状との関連。
  6. AHA:Update to Practice Standards for Electrocardiographic Monitoring in Hospital Settings(2017):目的別の監視、電極位置の一貫性。

「ノイズ」と「本物の異常」を見分けるポイント

臨床現場で最も難しいのが、この鑑別です。以下の視点が判断の助けになります。

観察ポイント ノイズを示唆 実際の異常を示唆
電気メス通電との時間的一致 通電中のみ乱れ、終了後は正常化 通電と無関係に持続
他誘導での再現性 特定の誘導のみで発生 複数誘導で同様の波形変化
SpO2脈波・観血的動脈圧波形との整合性 他のバイタルサインは安定 血圧低下・SpO2低下を伴う
心拍数表示の挙動 心拍数表示は安定 心拍数が急激に変動・アラームが連動
患者の体動・体位変換との関連 体動時のみ出現 安静時にも持続

心電図単独で判断せず、観血的動脈圧波形やSpO2の脈波形、非観血的血圧のトレンドなど他のモニタリング項目と突き合わせて総合的に評価することが重要です。波形だけでなく「心拍数の実測値と表示値に乖離がないか」も忘れずに確認しましょう。

術中対応の実際の流れ

  1. まず電気メス使用中かどうかを確認する:使用中であれば多くは正常範囲のノイズ。通電終了後の波形を待って評価する
  2. 他のバイタルサインと矛盾がないか確認する:SpO2、観血的動脈圧、非観血的血圧のトレンドが安定していれば、緊急性は低いと判断できる
  3. 電極・ケーブルの物理的な確認:目視・触診で電極の浮き、ケーブルの緩みがないか確認する
  4. 改善しない場合は電極交換:乾燥・剥離が疑われる場合は電極ごと交換する。位置も見直す
  5. 誘導・フィルター設定の見直し:モニターモード⇔診断モードの切替、誘導変更を試みる
  6. それでも改善しない場合は術者・麻酔科医と情報共有:不整脈や機器トラブルの可能性を含め、チームで判断する

これらの一連の流れを、術者の手技を止めずに、かつ迅速に行うのがCEの役割です。特に電気メス使用中の一時的なノイズにいちいち反応して手技を中断させることは、かえって手術進行の妨げになるため、「正常範囲のノイズかどうか」を瞬時に判断できる目を養うことが求められます。

予防的な工夫

  • 術前のモニター装着時に、電極位置・ケーブルの取り回しをあらかじめ電気メスコードと干渉しないように計画する
  • 長時間手術が予想される症例では、電極の交換タイミングをあらかじめ想定しておく
  • 波形が不安定になりやすい体位(腹臥位、側臥位など)では、体位変換直後に波形を再確認する習慣をつける
  • モニター本体のアラーム設定(心拍数上下限など)を患者の基礎心拍数に応じて適切に設定し、ノイズによる誤アラームを減らしつつ、本当の異常は見逃さない設定にする

CEとしての役割

心電図モニタリングは看護師・麻酔科医が主体的に観察する項目ですが、波形不良の原因が「機器・電極・配線」にあるのか「患者側」にあるのかを技術的に切り分けられるのはCEの強みです。実務では、

  • 術前のモニター・電極セッティングの最適化
  • 術中の波形不良発生時の迅速な原因切り分けと対応
  • 電気メスなど周辺機器由来のノイズと患者由来の異常の鑑別サポート
  • 機器トラブル(ケーブル劣化・本体故障)の早期発見と交換対応

といった形でチームに貢献できます。「ノイズだから放置」ではなく「なぜノイズが出ているか」を説明できることが、術者・麻酔科医からの信頼にもつながります。

まとめ

✅ 波形不良は「電気的ノイズ」「体動性ノイズ」「基線動揺」の3系統に分けて考える ✅ 電気メス通電中の一時的なノイズは正常範囲であることが多い ✅ 原因切り分けは電極→ケーブル→モニター設定→患者要因の順で確認する ✅ 他のバイタルサイン(SpO2、観血的動脈圧など)との整合性を必ず確認する ✅ 予防的な電極位置・ケーブル取り回しの工夫が波形不良の発生自体を減らす ✅ 3極⇔5極誘導の切替はアース(基準)電極そのものを変えるため、肥満患者などのノイズ対策として有効な場合がある

次回は、観血的動脈圧(Aライン)モニタリングにおける波形なまりやゼロ点校正のトラブルシューティングについて整理していきます。