Aライン(動脈圧)波形の見方 ― 各成分の意味と異常波形、FloTracへの橋渡し

はじめに
動脈圧波形は、単に「血圧の数値」を出すためのものではありません。波形の形には、心臓の収縮、血管の弾性、末梢からの反射、そして輸液の効き具合まで、多くの情報が含まれています。
この記事では、CEの視点で、動脈圧波形がどう作られるか、各成分が何を意味するか、測定部位でどう変わるかを整理します。最後に、動脈圧波形から心拍出量を推定する仕組み(FloTracなど)への橋渡しをします。
ポイント
- 動脈圧波形は「心収縮による駆出」と「血管の弾性・反射波」の合成でできる
- 重複切痕(ディクロティックノッチ)は大動脈弁が閉じたサイン
- 末梢の動脈ほど収縮期圧は高く・とがって見え、平均血圧は中心とほぼ同じ
- 波形の形と面積を解析すると、1回拍出量やその変動を推定できる
動脈圧波形の成り立ち
心臓が収縮すると、左室から大動脈へ血液が駆出されます。大動脈はゴムホースのように広がって血液を受け止め(弾性)、収縮期の圧を蓄えます。心室が弛緩に向かうと大動脈弁が閉じ、蓄えられた圧が末梢へ血液を送り続けます(拡張期)。
さらに、駆出された圧の波は末梢の分岐部で反射し、中枢へ戻ってきます。この反射波が主圧波に重なることで、波形の形は測定部位によって変わります。
波形の各成分
| 成分 | 何を表すか |
|---|---|
| 収縮期の立ち上がり(アナクロティックリム) | 左室からの駆出。傾きは心収縮の勢いの目安 |
| 収縮期ピーク(収縮期血圧) | 駆出のピーク圧。末梢ほど高くなる |
| 重複切痕(ディクロティックノッチ) | 大動脈弁が閉じた瞬間。収縮期と拡張期の境目 |
| 拡張期の下降 | 末梢へ血液が流れ、圧が下がっていく相 |
| 拡張末期(拡張期血圧) | 次の駆出直前の最低圧。血管抵抗と心拍数の影響が大きい |

図: 動脈圧(Aライン)波形とその成分。番号は本文の表に対応し、立ち上がりが急なほど心収縮の勢いが強いこと、ディクロティックノッチが大動脈弁が閉じた瞬間であることを視覚的に確認できます。
図で見ると、立ち上がり(1)が急なほど心収縮の勢いが強いことを示します。ピーク(2)が収縮期血圧、拡張末期(6)が拡張期血圧で、その差が脈圧です。ディクロティックノッチ(3)は大動脈弁が閉じた瞬間で、収縮期と拡張期の境目になります。ノッチのあとの小さな盛り上がり(4)は反射波、下降していく相(5)は末梢へ血液が流れて圧が下がる時間です。破線で示した平均血圧(MAP)は、収縮期と拡張期のちょうど中間ではなく、時間の長い拡張期寄りに位置します。
- 脈圧(収縮期圧−拡張期圧):1回拍出量と大動脈の硬さを反映する。出血で1回拍出量が減ると脈圧は狭くなる
- 平均血圧(MAP):臓器灌流の指標。測定部位が変わっても比較的安定している
- 立ち上がりの傾き(dP/dt):心収縮性の大まかな目安。なまった波形では評価できない
測定部位による波形の違い
中心(大動脈)から末梢(橈骨・足背)へ行くほど、次の傾向が出ます。
- 収縮期血圧は高く表示され、ピークがとがる
- 拡張期血圧はやや低めになる
- 重複切痕は遅れて・浅くなる
- 波形の到達が数十ミリ秒遅れる
平均血圧は中心と末梢でほぼ同じです。末梢の収縮期圧を中心大動脈圧と同じものとして扱わないことが大切です。

図: 中心動脈と末梢動脈の動脈圧波形の違い。末梢へ行くほど収縮期血圧は高くピークがとがり、ディクロティックノッチは遅れて浅くなり、波形の到達もわずかに遅れます。平均血圧は中心・末梢でほぼ変わらないため、末梢の収縮期圧だけを中心大動脈圧と同一視しないことが大切です。
呼吸性変動と輸液反応性
陽圧換気では、吸気のたびに胸腔内圧が上がり、静脈還流が減ります。循環血液量が不足していると、この影響で1回拍出量が大きく揺れ、動脈圧波形の収縮期圧が呼吸に合わせて変動します。
この変動を数値化したものが、脈圧変動(PPV)や1回拍出量変動(SVV)です。詳しい使い方と成立条件は、別記事「観血的動脈圧(Aライン)モニタリング ― 波形なまりとゼロ点校正のトラブルシューティング」の該当セクションを参照してください。
異常波形の例(概要)
- なまり(ダンピング):回路由来のアーチファクト。別記事で詳説
- pulsus parvus et tardus:立ち上がりが遅く小さい。大動脈弁狭窄でみられる
- 速脈・二峰性(bisferiens):拡張期にかけて急速に下がる。大動脈弁閉鎖不全でみられる
- 奇脈(pulsus paradoxus):吸気で収縮期圧が大きく下がる。心タンポナーデ、重症喘息など
- IABP波形:拡張期に補助圧のピークが加わる特徴的な形
いずれも「形」から病態を推測する手がかりになりますが、確定は他の所見と合わせて行います。
脈圧が変化する代表例 ― 大動脈弁狭窄・閉鎖不全と脱水

図: 動脈圧波形と脈圧が変化する代表例。上段は正常と大動脈弁狭窄(立ち上がりが遅く小さいpulsus parvus et tardus)、下段は大動脈弁閉鎖不全(脈圧が大きく開く速脈)と脱水・循環血液量減少(先細りの狭い脈圧)を模式的に示しています。
大動脈弁狭窄(AS)では脈圧が狭くなります。 狭くなった弁を通して血液を送り出すため、駆出に時間がかかり、収縮期の立ち上がりが遅く(tardus)、ピークが低く小さく(parvus)なります。この波形を「小さく遅い脈(pulsus parvus et tardus)」と呼び、重症ASを示唆する所見です。収縮期ピークが遅れて低いため脈圧は狭くなり、上行脚の途中に小さな切れ込み(アナクロティックノッチ)がみられることがあります。頸動脈の触診でも立ち上がりの遅れとして感じられます。
大動脈弁閉鎖不全(AR)では脈圧が広がります。 拡張期に大動脈から左室へ血液が逆流するため、拡張期血圧が大きく下がります。一方、左室は前方へ送る血液と逆流分を合わせて拍出するため1回拍出量が増え、収縮期血圧は上がります。結果として脈圧が大きく開き、立ち上がりが急峻で崩れるように下降する波形(速脈・大脈、水衝脈)になります。重症例ではディクロティックノッチが不明瞭になり、二峰性(bisferiens)を示すこともあります。
脱水・循環血液量減少では脈圧が狭くなります。 1回拍出量が減るため収縮期血圧が下がり、脈圧が狭い「先細り」の波形になります。加えて、陽圧換気をしていると、吸気で静脈還流が減るタイミングで収縮期血圧がさらに下がり、呼気で戻るという呼吸性の変動(ΔSBP)が目立ちます。この変動を数値化したPPV・SVVが大きいときは、「輸液で1回拍出量が増える余地がある(輸液反応性あり)」の目安になります。ただし判定には、自発呼吸のない調節換気・一回換気量おおむね8mL/kg以上・洞調律・なまりのない波形、という前提が必要です。
次のステップ:動脈圧波形から心拍出量を推定する(FloTracなど)
動脈圧波形の形と面積は、1回拍出量と関係しています。収縮期の波形の下の面積が大きいほど、そのとき駆出された血液量が多い、という考え方です。この関係を利用して、動脈圧波形の解析から心拍出量を連続的に推定するのが「動脈圧波形解析(APCO)」です。
代表的な機器が、エドワーズライフサイエンス社のFloTracセンサーです。
- 既存のAラインに専用センサーを接続するだけで使え、外部からのキャリブレーション(較正)が不要
- 拍動ごとの1回拍出量(SV)、心拍出量、そして1回拍出量変動(SVV)を表示する
- SVVは輸液反応性の指標として使う。カットオフは機種・換気条件で異なり、目安として10%台前半とされることが多い
精度を保つ前提は、PPV・SVVと共通です。
- 正確な動脈圧波形が得られていること(なまりがないこと。まずスクエアウェーブテスト)
- 自発呼吸のない調節換気で、一回換気量がおおむね8mL/kg以上
- 洞調律であること
不整脈、強い自発呼吸、大動脈弁閉鎖不全、IABP併用、末梢血管抵抗が急激に変化する状況では、推定の信頼性が下がります。
FloTracをはじめとする動脈圧波形解析型の心拍出量モニタリングは、別記事で詳しく解説する予定です。まずは「良い波形(なまっていない波形)」を用意することが、すべての前提になります。

図: 動脈圧波形の面積と1回拍出量(SV)の考え方。収縮期の波形下の面積が大きいほど、その拍で駆出された血液量が多いという考え方で、これが動脈圧波形解析(APCO)が1回拍出量を推定する発想の土台になっています。
まとめ
- 動脈圧波形は、心収縮による駆出と血管の弾性・反射波の合成でできる
- 重複切痕は大動脈弁が閉じたサイン。収縮期と拡張期の境目
- 末梢の動脈ほど収縮期圧は高くとがる。平均血圧は部位によらず比較的安定
- 波形の形と面積を解析すると、SVやSVVを推定できる(FloTracなど)
- 波形解析の前提は「なまりのない正確な波形」。スクエアウェーブテストで質を確かめる





