OP室で働く麻酔補助CEの日常

SEARCH

MENU

麻酔導入の薬剤とタイミング ― BIS・TOF・血圧はなぜ同時に動くのか

麻酔導入の薬剤とタイミング アイキャッチ

はじめに

麻酔導入は、作用の異なる薬剤(鎮静薬・オピオイド・筋弛緩薬)を数分の間に立て続けに投与する、麻酔の中でもっとも変化が集中する場面です。

この記事の結論を先に書きます。導入時に起きる血圧低下や気道確保のトラブルは、多くの場合「1つの薬剤の副作用」ではなく、複数の薬剤の作用がピークを迎える時間帯が重なることから生まれます。プロポフォールとオピオイドによる循環抑制がもっとも強く出るタイミングと、筋弛緩薬の発現を待つ時間帯は、実はほぼ同じ数分間に集中しています。

この記事では、麻酔導入の標準的な流れ、代表的な薬剤の目的とタイミング、そしてBIS・TOF・血圧という3つのモニタ値が「なぜ同時に動くのか」を時系列で整理し、そこから生まれる代表的なピットフォールとCEが確認すべき点をまとめます。数値はすべて目安で、実際の投与量・投与速度は患者の状態と添付文書、指示医の判断が優先されます。

この記事でわかること

  • 麻酔導入の標準的な流れ(前酸素化〜気管挿管)
  • 導入で使う代表的な薬剤(プロポフォール・オピオイド・ロクロニウム)の目的とタイミング
  • BIS・TOF・血圧が「同時に動く」理由と、その重なりが生むピットフォール
  • 循環動態・気道確保・薬剤関連の代表的なピットフォールとCEが確認すること

現場で引くための無料ツール

導入で使う薬剤の用量目安や、循環作動薬のγ計算などを4択クイズ・早見表で確認できます。

CE麻酔補助 一問一答(クイズ・早見表)を開く →

麻酔導入の流れ(全体像)

施設・患者によって細部は異なりますが、静脈麻酔薬による緩徐導入では、おおむね次の順で進みます。

  1. 前酸素化:マスクで純酸素を数分間吸入し、機能的残気量を酸素に置き換える(脱窒素)
  2. モニタ装着の確認:ECG・SpO2・NIBP(またはAライン)・BIS・TOFセンサーが正しく作動しているか
  3. 導入薬の投与:プロポフォール(±オピオイド)を静注
  4. 意識消失の確認:呼名反応の消失、マスク換気が可能かを確認
  5. 筋弛緩薬の投与:マスク換気可能を確認したうえでロクロニウムを投与
  6. 筋弛緩の確認:TOFカウントで遮断の深さを確認してから喉頭展開・気管挿管
  7. 挿管確認と移行:EtCO2波形・聴診で挿管を確認し、人工呼吸を開始、維持麻酔へ移行

「意識消失を確認してから筋弛緩薬を投与する」「筋弛緩の発現を確認してから喉頭展開する」という順序を守ることが、次の節で説明するピットフォールを避ける基本になります。

導入で使う薬剤 ― 目的とタイミング

薬剤 目的 用量の目安 タイミングの特徴
プロポフォール 鎮静・意識消失 1〜2.5 mg/kg(導入)。高齢者・循環不安定では減量 数十秒で意識消失。血管拡張・心抑制による血圧低下が同時に出やすい
レミフェンタニル/フェンタニル 鎮痛、挿管刺激への交感神経反応の抑制 レミフェンタニル 0.05〜0.5 µg/kg/min(導入時は多めに設定)/フェンタニル 1〜2 µg/kg 単回 プロポフォールと作用が重なり血圧低下を強めやすい。挿管時の血圧上昇・頻脈を抑える目的もある
ロクロニウム 筋弛緩(挿管条件を作る) 挿管量 0.6〜0.9 mg/kg、迅速導入(RSI)では 0.9〜1.2 mg/kg 投与量が多いほど発現が速い。TOFカウント0を待って挿管するのが基本

各薬剤の詳しい特徴・注意点は、鎮静・鎮痛薬の基本と筋弛緩薬とスガマデクスの使い分けで整理しています。

全身麻酔を構成する3つの要素 ― 導入で使う代表薬(模式図)

図: 全身麻酔を構成する3つの要素 ― 導入で使う代表薬(模式図)

薬剤とモニタの「相関」をタイムラインで見る

導入時に起きていることを時系列で並べると、血圧が下がりやすい時間帯がどこにあるのかが見えてきます。

  • プロポフォール+オピオイドの投与開始から意識消失(BISが40〜60台へ低下)までの数十秒は、循環抑制がもっとも強く出やすい時間帯です
  • 意識消失とマスク換気の確認後にロクロニウムを投与しますが、TOFカウントが0になるまでの1〜2分間は、まだ循環抑制のピークを引きずっていることが多い区間です
  • つまり「筋弛緩の発現を待っている数分」と「血圧がもっとも下がりやすい数分」は、ほぼ同じ時間帯に重なります
  • 気管挿管の刺激で血圧が反応するかどうかは、オピオイドの効き具合次第です。効きが浅いと挿管時に血圧が跳ね上がり、効きすぎていると挿管後も低血圧が続く、という振れ幅が出ます

この「重なり」を意識しておくと、血圧低下に気づいたときに「薬効の範囲内か、それとも別の原因か」を落ち着いて切り分けやすくなります。

麻酔導入 ― 薬剤投与とモニタ変化のタイムライン(模式図)

図: 麻酔導入 ― 薬剤投与とモニタ変化のタイムライン(模式図)

循環動態のピットフォール

  • 高齢者・循環血液量減少(脱水、消化管出血、絶食時間が長い患者など)・心機能低下の患者は、同じ用量でも血圧低下が大きく出やすい
  • プロポフォールとオピオイドのボーラス投与が重なると、相乗的に血圧が下がりやすい。減量してゆっくり投与する、輸液で先に血管内を満たしておく、などの対策がとられる
  • 昇圧薬をあらかじめ準備しておく(希釈・シリンジの準備は昇圧薬・降圧薬の希釈とγ計算を参照)
  • Aラインを導入前に確保できる症例では、拍動ごとの血圧変化を早期に把握しやすくなる

心機能低下患者では ― ミダゾラムという選択肢

心機能が低下した患者では、プロポフォールの血管拡張・心抑制作用が大きな血圧低下につながりやすいため、鎮静薬としてベンゾジアゼピン系のミダゾラムが選択されることがあります。

  • 用量の目安:導入 0.1〜0.3 mg/kg。高齢者・心機能低下ではさらに減量してゆっくり投与する
  • 特徴:プロポフォールに比べて血管拡張・心抑制作用が弱く、循環動態への影響が小さいとされる
  • 効果発現が遅い:プロポフォールより意識消失までに時間がかかる(1〜2分程度)。急速導入には不向きで、緩徐導入向き
  • 作用が遷延しやすい:活性代謝物があり、高齢者・肝腎機能低下の患者では効果が長引くことがある
  • 呼吸抑制:単独でも呼吸抑制があり、オピオイドとの併用でさらに増強される
  • 拮抗薬:フルマゼニルで拮抗できるが、フルマゼニルの作用時間はミダゾラムより短いため、拮抗後の再鎮静(re-sedation)に注意する
  • 単独では鎮痛作用がないため、オピオイドとの併用が前提になる

CEは、シリンジポンプの設定、フルマゼニル(拮抗薬)の準備、そして呼吸抑制の兆候(SpO2・EtCO2・呼吸回数)のモニタリングに関わります。

気道確保のピットフォール

  • 導入前の気道評価(開口・マランパチ分類・頸部可動性など)が不十分なまま導入すると、マスク換気困難・挿管困難に直面してから対応が後手になる。困難気道が予測される場合の考え方は特殊な挿管と困難気道(DAM)を参照
  • 筋弛緩が十分に発現する前に喉頭展開を急ぐと、声門の抵抗が残り、挿管操作が難しくなるだけでなく喉頭・声帯の損傷リスクが上がる。TOFカウントで確認してから展開するのが基本
  • 迅速導入(RSI)では誤嚥リスクへの対応(体位、吸引の準備など)が加わる。輪状軟骨圧迫の要否は施設プロトコルによって考え方が分かれる

薬剤関連のピットフォール

  • 投与時痛:プロポフォールは注入時に痛みを伴うことがある。太い静脈を選ぶ、リドカインを前投与するなどの対策がとられる
  • 単位の取り違え:フェンタニルは1アンプル0.1 mg/2 mLが規格。mgとµgの取り違えは重大な過量につながるため、指示と投与量を声に出して確認する
  • アナフィラキシー:筋弛緩薬やその他の薬剤で起こりうる。導入直後の血圧低下は「薬効の範囲内か、アナフィラキシーか」の切り分けが必要になる。見分け方と対応は周術期の緊急対応を参照
  • 術中覚醒(Awareness):鎮静が浅いまま筋弛緩だけが先に効いてしまうと、体が動かせないまま意識が残るリスクがある。BISなど麻酔深度モニタで数値と生波形を併読することが、これを防ぐ手がかりになる

CEが確認すること

  • 導入前に、ECG・SpO2・NIBP(またはAライン)・BIS・TOFの各モニタが正しく装着・キャリブレーションされているか
  • シリンジポンプの薬剤名・濃度・体重設定のダブルチェック
  • 緊急時に使う昇圧薬・アトロピンなどがすぐ使える状態で準備されているか
  • 導入直後に血圧が下がったとき、薬効の範囲内か合併症(アナフィラキシーなど)かの切り分けを、モニタ情報の面からサポートする
  • TOFカウントの変化を共有し、挿管のタイミング判断に使える情報を提供する

まとめ

  • 麻酔導入では、プロポフォール・オピオイド・筋弛緩薬という作用の異なる薬剤を数分の間に投与する
  • 血圧がもっとも下がりやすい時間帯は、循環抑制のピークと筋弛緩の発現を待つ時間が重なる区間に集中する
  • 循環動態・気道確保・薬剤関連のピットフォールは、それぞれ単独ではなく「タイミングの重なり」から生まれることが多い
  • CEはモニタの準備・ダブルチェック・緊急薬剤の準備、そして血圧低下時の原因切り分けの支援に関わる

数値は目安です。投与量・投与速度・タイミングは、患者の状態と各薬剤の添付文書、施設プロトコル、指示医の判断を優先してください。

よくある質問

麻酔導入でBISとTOFはなぜ両方見るのですか?

BISは鎮静の深さ、TOFは筋弛緩の深さという別々の情報を示すためです。鎮静が浅いまま筋弛緩だけが効くと術中覚醒のリスクが、逆に筋弛緩が不十分なまま挿管を急ぐと喉頭損傷のリスクが上がります。両方を確認することで、それぞれの発現タイミングのズレに気づきやすくなります。

導入時に血圧が下がりやすいのはどのタイミングですか?

プロポフォールとオピオイドによる循環抑制がピークを迎える、意識消失の前後から、筋弛緩薬の発現を待つ数分間です。この時間帯が重なるため、血圧低下がもっとも出やすくなります。

迅速導入(RSI)と通常の導入で何が違いますか?

RSIはロクロニウムを多め(0.9〜1.2 mg/kg目安)に投与して発現を速め、誤嚥リスクの高い患者でマスク換気を極力せずに短時間で挿管まで進める方法です。輪状軟骨圧迫の要否は施設プロトコルによって考え方が分かれます。

高齢者で導入時に気をつけることは何ですか?

同じ用量でも血圧低下が大きく出やすいため、プロポフォール・オピオイドともに減量してゆっくり投与するのが基本です。循環血液量が少ない患者では、あらかじめの輸液や昇圧薬の準備も検討されます。

導入直後の血圧低下が薬効かアナフィラキシーか、どう見分けますか?

薬効による血圧低下は投与量・速度に見合った範囲で、経時的に落ち着いていくことが多いのに対し、アナフィラキシーは皮膚症状(発赤・蕁麻疹)や気道症状、著しい頻脈を伴うことがあります。範囲を超えた血圧低下や随伴症状があれば、アナフィラキシーを念頭に対応します。

参考

  • プロポフォール、レミフェンタニル、フェンタニル、ロクロニウム、ミダゾラムの添付文書
  • 麻酔導入・全身麻酔管理に関する成書・総説