OP室で働く麻酔補助CEの日常

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INVOS/NIRSの見方 ― 脳の酸素はどこで下がったら動くか

INVOS/NIRSの見方 アイキャッチ

はじめに

INVOSに代表される近赤外分光法(NIRS)は、前額部に貼ったセンサーから、その部位の組織の酸素の状態(局所酸素飽和度、rSO2)を連続表示するモニタです。パルスオキシメータが「拍動する動脈血」だけを見るのに対し、NIRSは動脈・毛細血管・静脈が混ざった組織全体を見ます。しかも脈波に依存しないため、血圧が低くても、体外循環で拍動がなくても測れます。

この記事では、rSO2をどう読むか、どこまで下がったら動くか、下がったときに何をどの順で確認するか、そしてCEが装着と管理でおさえるべき点を整理します。「合併症のある患者・状態の悪い患者のモニタリング」の個別編です。

この記事でわかること

  • rSO2は動脈と静脈が混ざった組織の酸素。静脈側の寄与が大きく、酸素の需給バランスを映す
  • 絶対値より「麻酔導入前のベースラインからの低下率」で読む
  • 20〜25%の低下、または絶対値50%割れが介入を考える目安(機種・部位で差)
  • 下がったら順に潰す:測定の確認 → 灌流圧 → 換気(PaCO2)→ 酸素運搬(SpO2・Hb・CO)→ 静脈うっ滞 → 麻酔深度
  • 左右差が大きいときは頸動脈狭窄・送血の偏り・センサー不良を疑う
  • 開心術・大血管・頸動脈内膜剥離・坐位(ビーチチェア)・低血圧麻酔で使いどころが大きい

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原理 ― 前額部の近赤外光でrSO2を測る

近赤外光(おおむね700〜900nm)は、皮膚や頭蓋骨をある程度通り抜けます。酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンで光の吸われ方が違うため、センサーの発光部から出た光が、少し離れた2つの受光部に戻ってくるまでの吸光を比べると、その光路にある組織の酸素飽和度(rSO2)が分かります。2つの受光部を使うことで、浅い層(頭皮・頭蓋骨)の影響を差し引き、より深い層(脳表)の情報を取り出しています。

rSO2に寄与する血液は、動脈:静脈がおおむね1:3〜1:4とされ、静脈側が主役です。つまりrSO2は「その部位で、供給された酸素のうちどれだけ使い残しがあるか」に近く、混合静脈血酸素飽和度の局所版のようなイメージで捉えると分かりやすくなります。供給(灌流・酸素含量)が減るか、消費(脳代謝)が増えると、rSO2は下がります。

NIRSの光路 ― なぜ前額部で脳表が測れるか

図: NIRSの光路 ― なぜ前額部で脳表が測れるか

なぜ前額部で測るのか

前頭葉の表層は、前大脳動脈と中大脳動脈の境界(分水嶺)にあたり、灌流が落ちたときに最初に虚血へ傾く場所です。加えて、前額部は骨が薄く、毛髪や大きな静脈洞がなく、センサーを安定して貼れます。

裏を返すと、INVOSが見ているのは前頭葉表層のトレンドだけです。中大脳動脈の主要領域や後方循環(脳幹・後頭葉)の虚血は、rSO2が保たれていても起こりえます。「脳全体の酸素モニタ」ではない、という理解が前提になります。

何と比べて読むか ― ベースライン

rSO2の絶対値は、皮膚の色、頭蓋骨の厚み、機種によって幅があります。健康な成人でおおよそ60〜80%ですが、個人差が大きく、絶対値だけで良し悪しは決められません。

そこで、麻酔導入前の安定した値をベースラインとして記録し、そこからの変化で読みます。ベースラインをとる条件(室内気か、フェイスマスク酸素下か、鎮静前か)で値が変わるため、「いつの、どの条件の値を基準にしたか」を必ず記録します。導入後に酸素化やPaCO2が変われば、ベースライン自体も動くことに注意します。

rSO2はベースラインからの低下率で読む

図: rSO2はベースラインからの低下率で読む

どこで下がったら動くか

  • ベースラインから 20〜25%の低下 が持続する
  • あるいは絶対値で 50%を下回る(機種・部位で目安は前後する)

低下の「速さ」も手がかりになります。数十秒〜数分での急な低下は、塞栓や送血カニューレのトラブル、センサーずれを、数十分かけた緩徐な低下は、灌流圧の低下・貧血の進行・心拍出量の低下を示唆します。

下がったときの対応フロー

原因を、確認しやすいものから順に潰していきます。

  1. 測定の確認:センサーのずれ・浮き、外光(無影灯)の混入、頭部の圧迫やドレープによる牽引がないか
  2. 灌流圧を上げる:MAPを上げる(昇圧薬、輸液、頭高位の是正)。目標MAPは既往(慢性高血圧など)を考慮する
  3. 換気(PaCO2)を見直す:低二酸化炭素血症は脳血管を収縮させ、rSO2を下げる。過換気になっていないか。必要なら軽度高めのPaCO2に調整
  4. 酸素運搬を確認:SpO2、ヘモグロビン(貧血なら輸血を検討)、心拍出量(低下していないか。FloTrac等で評価)
  5. 静脈側のうっ滞:頭位、頸部の過度な回旋・屈曲、送血・脱血カニューレの位置で、頸静脈の流出が妨げられていないか
  6. 脳代謝(需要)を下げる:麻酔を深くする、体温を確認する
  7. 左右差の評価:片側だけ低いときは、頸動脈狭窄、大動脈解離やカニューレによる送血の偏り、片側センサー不良を疑う

rSO2が下がったときの対応フロー

図: rSO2が下がったときの対応フロー

使いどころ

rSO2モニタリングが「あった方がよい」とされやすいのは、脳への灌流が乱れやすく、かつSpO2や血圧だけでは異変を捉えにくい手術です。

  • 人工心肺を用いる開心術:送血の偏り、拍動流の消失、復温時の酸素需給ミスマッチを拾う
  • 大動脈弓部の手術:脳分離体外循環中の左右の脳灌流を評価する
  • 頸動脈内膜剥離術:頸動脈遮断中に、対側からの側副血行で足りているかを見る
  • ビーチチェア位(坐位)の肩関節手術:頭位が心臓より高く、脳灌流圧が下がりやすい。上腕で測るNIBPは頭部の実際の灌流圧を過大評価する
  • 意図的低血圧麻酔:どこまで下げてよいかの individual な下限を探る手がかりになる
  • 予備能の低い高齢者の長時間手術:術後せん妄・認知機能低下との関連が議論されている
  • 分離肺換気(片肺換気):換気側の低酸素が、SpO2の低下として現れる前に、rSO2の低下として先に動くことがある

限界・注意

  • 見ているのは前頭葉表層のトレンドだけ。中大脳動脈領域や後方循環は評価できない
  • 頭皮・頭蓋外の血液の混入が完全には除けず、体外循環中の値の解釈には議論がある
  • 機種が違うとrSO2の絶対値に互換性がない。同じ患者でも装置が変われば数字が変わる
  • 高ビリルビン血症、皮膚の色、前額部の血腫や浮腫で値がずれる
  • 「rSO2を上げる介入をすれば転帰が改善する」とまでは確立していない。あくまで異常の警告と、原因検索を始めるトリガーとして使う

CEの装着・管理ポイント

  • 貼付位置:眉の上、正中を外して左右対称に。前額部の発汗・皮脂を清拭してから貼る。無影灯の光が入らないよう必要なら遮光する
  • ベースライン記録:麻酔導入前に必ず記録する。これがないと「低下率」で読めない
  • アラーム設定:ベースラインからの低下率でアラームを設定できる機種がある。初期値のままにしない
  • 左右差:まずセンサーの貼り直しで再現性を確認してから、病態を疑う
  • 記録:ベースライン値、術中の最低値、介入(昇圧・輸液・換気変更・体位)とその反応、センサー交換の時刻。術後ICUでの評価につながる

よくある質問

rSO2の正常値はいくつですか?

健康な成人でおおよそ60〜80%ですが個人差が大きく、絶対値だけで良し悪しは決められません。麻酔導入前のベースラインからの低下率で読みます。

どこまで下がったら動きますか?

ベースラインから20〜25%の低下が持続する、または絶対値で50%を下回るのが介入を考える目安です(機種・部位で前後します)。

rSO2が下がったら何を確認しますか?

確認しやすいものから順に、①測定(センサーのずれ・外光)②灌流圧(MAP)③換気(PaCO2、過換気は脳血管を収縮させる)④酸素運搬(SpO2・Hb・心拍出量)⑤静脈うっ滞(頭位・頸部の回旋)⑥麻酔深度⑦左右差、の順で潰します。

左右差が大きいときは?

まずセンサーを貼り直して再現性を確認します。そのうえで頸動脈狭窄、送血の偏り、片側センサー不良を疑います。

NIRSは脳全体の酸素を見ていますか?

いいえ。見ているのは前頭葉表層のトレンドだけです。中大脳動脈の主要領域や後方循環の虚血は、rSO2が保たれていても起こりえます。

まとめ

  • rSO2は組織(前頭葉表層)の酸素の需給バランス。静脈側の寄与が大きい
  • 絶対値より、導入前ベースラインからの低下率で読む。20〜25%低下、または絶対値50%割れが目安
  • 下がったら、測定確認 → 灌流圧 → PaCO2 → 酸素運搬 → 静脈うっ滞 → 麻酔深度、の順で潰す
  • 左右差は頸動脈狭窄・送血の偏り・センサー不良を疑う
  • 開心術・大血管・頸動脈内膜剥離・坐位・低血圧麻酔・片肺換気で使いどころが大きい
  • 見ているのは前頭葉表層だけ。脳全体の酸素モニタではない

循環側の数値の読み方は動脈圧波形から読むFloTrac/ビジレオを、所見からの逆引きは周術期モニタリング トラブル対応リファレンスを参照してください。