OP室で働く麻酔補助CEの日常

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特殊な挿管と困難気道(DAM) ― ビデオ喉頭鏡・ファイバー・意識下挿管とCEの役割

特殊な挿管と困難気道 アイキャッチ

はじめに

多くの挿管は、直視型の喉頭鏡で声門を見ながら数十秒で終わります。しかし、開口が小さい、頸が反らせない、首が短い、腫瘍で気道が変形している――こうした患者では、通常の方法では声門が見えず、挿管できないことがあります。

こうした「予想される/実際に起きた」困難気道に対して、ビデオ喉頭鏡、気管支ファイバースコープ、意識下挿管といった特殊な手段が使われます。そして、どの段階で何を使うかを定めたのが困難気道アルゴリズム(DAM:difficult airway management)です。

この記事では、それぞれの手段の要点と、臨床工学技士(CE)がDAMの各段階で担う準備と動きを整理します。手技と適応判断は麻酔科医が行うものであり、本記事は機器と準備に関わる立場からの整理です。

この記事でわかること

  • 困難気道は「予想できる」ことが多い。術前評価の共有が最大の対策
  • ビデオ喉頭鏡は「見える」が「入れられる」とは限らない。ブジーの併用を前提に準備する
  • 気管支ファイバー・意識下挿管は、自発呼吸を保ったまま気道を確保する最終的な安全策
  • 「換気も挿管もできない(CICO)」は分刻み。緊急気道キットの所在と手順を平時から把握する
  • CEの役割は「器具を段階順に並べ、電源・光源・吸引・記録を整え、人を呼ぶ動線を作る」こと

術前の気道評価 ― マランパチ分類・コーマックグレードと挿管困難のリスク因子

困難気道の多くは、術前の診察である程度予測できます。代表的な評価法と、挿管困難につながりやすいとされるリスク因子を整理します。

マランパチ分類(Mallampati classification)

座った姿勢で大きく口を開け、舌を突き出してもらい、見える咽頭の構造から気道の広さを推測する術前評価です。

分類見える構造目安
Class I軟口蓋・口蓋垂・咽頭腔・前後の口蓋弓まですべて見える挿管は容易なことが多い
Class II軟口蓋・口蓋垂・咽頭腔が見える(口蓋弓は見えにくい)おおむね問題になりにくい
Class III軟口蓋と口蓋垂の基部のみ見える挿管困難のリスクが上がる
Class IV軟口蓋が見えない(硬口蓋のみ)挿管困難のリスクがさらに高い

マランパチ分類(Class I〜IV)。見える咽頭構造の違い

図: マランパチ分類(Class I〜IV)。見える咽頭構造の違い

マランパチ分類は単独での予測精度は高くないとされ、後述する他の所見と組み合わせて評価するのが基本です。

コーマックグレード(Cormack-Lehane分類)

術前評価ではなく、実際に喉頭鏡を挿入したときに直視で見える声門の範囲を4段階に分類したものです。喉頭展開後の「見え方」をチームで共有・記録するために使います。

Grade見える範囲目安
Grade I声門全体が見える挿管は容易
Grade II声門の後方の一部のみ見えるややむずかしい。BURP法(喉頭圧迫)などで改善することがある
Grade III喉頭蓋のみ見え、声門は見えない挿管困難。ブジーやビデオ喉頭鏡を検討
Grade IV喉頭蓋すら見えない高度に困難。代替手段が必要

コーマックグレード(Cormack-Lehane分類)。喉頭展開時に見える声門の範囲

図: コーマックグレード(Cormack-Lehane分類)。喉頭展開時に見える声門の範囲

挿管困難を予測するリスク因子

  • 首の長さ・可動性:首が短い、頸部の伸展が制限されている(頸椎疾患・頸椎固定術後など)と、喉頭鏡での視野が得にくい
  • 小顎(下顎の後退):下顎が小さい・後退していると舌が気道側にせり出しやすく、視野を妨げやすい
  • 開口量:開口が小さい(目安:切歯間距離3横指未満)と、喉頭鏡ブレードの挿入自体が難しくなる
  • 甲状オトガイ間距離(thyromental distance):短い(目安6.5 cm未満)と喉頭の位置が高く、視野を得にくいとされる
  • 性別:一般に男性は女性より挿管困難の頻度が高いとされる。頸部の脂肪分布や喉頭の位置などが要因として挙げられる
  • 肥満(BMI高値):頸部・咽頭周囲の軟部組織が多く、視野・換気とも難しくなりやすい
  • 歯の状態(上顎前突、動揺歯、義歯)、過去の挿管困難の記録、いびき・睡眠時無呼吸の既往
  • 妊娠:気道浮腫や乳房の増大などで、視野・器具挿入が制限されることがある

これらの評価は麻酔科医が行いますが、CEは術前情報を共有された段階で「どのクラス・どの因子があれば、ビデオ喉頭鏡やファイバー一式を先に出しておくか」を把握しておくと、準備の初動が速くなります。

通常の挿管と何が違うか

通常挿管は「声門を直接見て、チューブを通す」動作です。特殊な挿管は、この前提のどれかが崩れたときに使います。

  • 声門が見えない → 画面越しに見る(ビデオ喉頭鏡)、下から回り込む(ファイバー)
  • 意識を落とすと換気できなくなる恐れ → 自発呼吸を保ったまま行う(意識下挿管)
  • そもそも上気道が通らない → 声門下から確保する(緊急気道)

ビデオ喉頭鏡

ブレード先端のカメラで声門をモニタに映し、直視では見えない角度でも声門を確認できます。困難気道が予想される症例では第一選択になりつつあり、教育や記録にも有用です。

種類 – 標準型ブレード:直視型に近い形。声門が見えれば通常どおり挿管しやすい – 高彎曲ブレード:強く曲がった気道でも声門を映せるが、チューブの通し方にコツが要る(スタイレットの形状、ブジーの併用)

CEの準備 – 本体・モニタ・光源、バッテリー残量/充電、記録の可否 – ブレードの曇り止め、サイズ違いのブレード – ガムエラスティックブジー、スタイレット – 「映っているのに入らない」場面のために、次の手段(ファイバー等)も並べておく

ビデオ喉頭鏡。ブレード先端のカメラ映像を手元のモニタで確認する

写真: ビデオ喉頭鏡。ブレード先端のカメラ映像を手元のモニタで確認する

ビデオ喉頭鏡(別アングル)

写真: ビデオ喉頭鏡(別アングル)

気管支ファイバースコープによる挿管

細径の内視鏡を鼻または口から進め、声門・気管を確認しながら、かぶせた気管チューブを送り込みます。開口制限、頸椎の可動制限、上気道の腫瘍など、喉頭鏡が使えない・使いたくない場面で力を発揮します。

適応の例 – 意識下でのファイバー挿管(後述) – 声門上器具を通したファイバー挿管 – 頸椎手術・関節リウマチなど、頸部を動かせない症例

CEの準備と管理 – 光源、吸引、曇り止め、潤滑、局所麻酔薬の準備 – スコープの点検(画像、アングル、リークテスト) – 使用後の洗浄・消毒・滅菌の管理(内視鏡再処理はCEが関わる施設が多い) – 予備スコープの確保

意識下挿管(awake intubation)

鎮静を最小限にとどめ、自発呼吸と気道の防御反射を保ったまま、局所麻酔(表面麻酔・神経ブロック)を効かせて挿管する方法です。「意識を落としたら換気も挿管もできなくなる」と予想される、最も危険な困難気道で選ばれます。

要点 – 上気道の十分な表面麻酔(噴霧・含嗽・経気管注入など) – 少量の鎮静(過鎮静で自発呼吸が止まらないよう慎重に) – 患者への説明と協力

CEの役割 – ファイバー一式、酸素投与、吸引、モニタリング(SpO2・EtCO2・血圧)の準備 – 局所麻酔の器材、噴霧器の準備 – 鎮静薬の投与ラインとポンプ、拮抗薬の確認 – 挿管成功までの記録と、失敗時の次手段の準備

困難気道アルゴリズム(DAM)とCEの動き

DAMは施設・学会により細部が異なりますが、共通する骨格は次のとおりです。

  1. 予測:術前に困難気道を評価し、計画A・B・Cを立てる
  2. 計画A(初回の挿管):直視型またはビデオ喉頭鏡。回数と時間を決めておく(不成功なら深追いしない)
  3. 計画B(代替の換気):声門上器具でまず換気を確保する
  4. 計画C(マスク換気に戻す・覚醒させる):可能なら患者を起こし、意識下挿管などに切り替える
  5. CICO(換気も挿管もできない):緊急の外科的気道へ

CEは各段階で「次の計画の器具を、使う前に並べる」ことが最大の貢献です。

  • 計画A:喉頭鏡/ビデオ喉頭鏡、ブジー、複数サイズのチューブ、スタイレット
  • 計画B:声門上器具(複数サイズ・第2世代)
  • 計画C:酸素投与、意識下挿管のためのファイバー一式
  • CICO:緊急気道キットの所在確認、酸素、応援を呼ぶ動線

同時に、タイマー役・記録役・人を呼ぶ役をチームで割り振っておくと、混乱を防げます。

CICOと緊急の外科的気道

「換気も挿管もできない」状態は、低酸素性脳障害までの猶予が数分しかありません。対応は輪状甲状間膜穿刺・切開です。

  • キットの保管場所と中身(穿刺針、拡張器、カニューレ、または手術用メス・ブジー・チューブ)を平時に把握する
  • 高流量酸素の準備
  • 応援(外科医・別の麻酔科医・上級医)を呼ぶ動線
  • 実施後は換気の確認(カプノ)と、確定的な気道確保への移行

頻度は低いものの、起きたときに動けるかは平時の準備で決まります。

器具を「並べる」準備の考え方

困難気道対応でCEが最も価値を出すのは、トラブルが起きてから探すのではなく、予測の段階で器具を段階順に並べておくことです。困難気道カート(difficult airway cart)を整備し、中身の点検・補充・電源管理を定期的に行うのが理想です。

まとめ

  • 困難気道は多くが予測可能。術前評価の共有が最大の対策
  • ビデオ喉頭鏡は「見える」だけでは不十分。ブジー併用を前提に準備する
  • ファイバー・意識下挿管は、自発呼吸を保ったまま確保する安全策
  • DAMは計画A→B→C→CICOの段階。CEは次段階の器具を先回りで並べる
  • CICOは分刻み。緊急気道キットの所在・中身・動線を平時から把握する

困難気道対応は、CEの準備力がそのまま患者安全につながる領域です。関連する所見は周術期モニタリング トラブル対応リファレンスの「麻酔器・回路・気道」カテゴリも参照してください。この記事は周術期の気道管理デバイス 総まとめの一部です。