OP室で働く麻酔補助CEの日常

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周術期の気道管理デバイス ― 選び方の考え方とCEの関わり

はじめに

全身麻酔では、患者が自分で気道を保てなくなります。そこを機械と器具で肩代わりするのが気道管理であり、その入口となるのが気道管理デバイスです。フェイスマスク、声門上器具(LMA など)、気管チューブ、そして分離肺換気や緊急気道といった特殊なデバイスまで、選択肢は幅広く、術式・患者・体位・リスクによって最適解が変わります。

臨床工学技士(CE)は、これらを「入れる人」ではありませんが、器具の準備、動作確認、装着後の位置・カフ・換気状態の確認、トラブル時の初動で深く関わります。この記事では、周術期の気道管理デバイスを種類ごとに整理し、選択の考え方と、CEが押さえるべき確認ポイントをまとめます。個別の手技や適応判断は麻酔科医が行うものであり、本記事は機器に関わる立場からの整理です。

ポイント

  • 気道確保のレベルは「マスク → 声門上(SGA)→ 気管挿管」の順に確実性が上がる
  • 誤嚥リスク・長時間・腹臥位・分離肺換気が必要なら気管挿管が基本
  • 声門上器具は導入が速く低侵襲だが、確実な誤嚥防止と高い気道内圧には向かない
  • どのデバイスでも、CEの共通確認は「換気できているか・位置・カフ・リーク・予備手段」
  • 困難気道が想定される症例では、代替デバイスと人員を「使う前に」そろえておく
  • 外科的気道でも酸素化を保てない/気道確保が不可能と予想される場面では、VV-ECMO(ECLS)まで選択肢に入る

気道管理デバイスの全体像

大きく3つの層で捉えると整理しやすくなります。

  • 上気道の補助(非確保):フェイスマスク、経鼻・経口エアウェイ。用手換気で酸素化を保つが、気道は「確保」されていない
  • 声門上器具(SGA:supraglottic airway):ラリンジアルマスク(LMA)、i-gel など。喉頭の上でシールし、気道を「おおむね」確保する
  • 声門下(気管内):気管チューブ。声帯を越えてカフでシールし、気道を「確実に」確保する

これに、分離肺換気(ダブルルーメンチューブ、気管支ブロッカー)や、緊急の外科的気道(輪状甲状間膜穿刺・切開)といった特殊デバイスが加わります。

気道管理デバイスの3層(フェイスマスク・声門上器具・気管チューブ)と選び方、分離肺換気・緊急気道

図: 気道管理デバイスの3層と選択の考え方(模式図)

一覧で比較する

デバイス 主な適応 気道確保の確実性 誤嚥防止 高い気道内圧での陽圧換気 CEの主な準備・確認
フェイスマスク+エアウェイ 短時間、導入時、換気の橋渡し 低(未確保) なし 不向き 各サイズ、回路・APL弁、用手換気バッグ
声門上器具(LMA・i-gel 等) 短〜中時間、仰臥位、低〜中リスク、気道確保困難時の橋渡し 中 限定的 限定的(機種による) 体格に合うサイズ、カフの点検、潤滑、カフ圧計
気管チューブ(経口/経鼻) 長時間、腹臥位・頭低位、開腹・開胸、誤嚥リスク、筋弛緩下 高 あり(カフによる) 可能 サイズ・カフ、スタイレット、喉頭鏡/ビデオ喉頭鏡、吸引
ビデオ喉頭鏡・気管支ファイバー 挿管困難が予想/発生した場面 補助 ― ― 光源・モニタ・記録、曇り止め、ブジー、電源/充電
ダブルルーメン/気管支ブロッカー 分離肺換気(開胸、片肺の保護) 高 あり 可能 左右・サイズ、気管支鏡、片肺換気時の低酸素対応の準備
緊急気道キット(輪状甲状) 「換気も挿管もできない」最終手段 ― ― ― キットの所在・内容の把握、酸素供給、応援動線

「確実性」と「侵襲・手間」はおおむねトレードオフです。低リスクの短時間手術ほど左(低侵襲)へ、高リスク・長時間・特殊体位ほど右(確実)へ寄ります。

フェイスマスクと用手換気

すべての気道管理の土台です。どのデバイスを使う予定でも、まずマスクで換気・酸素化できることが前提になります。CEは、各サイズのマスク、経口・経鼻エアウェイ、回路とAPL弁、そして「麻酔器が使えなくても換気できる」自己膨張バッグを、手の届く場所にそろえます。

マスク換気が難しい要因(肥満、髭、無歯顎、いびき・睡眠時無呼吸の既往、頸部の可動制限)は、困難気道のサインでもあります。導入前の情報共有が、その後のデバイス選択を左右します。

声門上器具(SGA・LMA系)

喉頭の入口をシールして気道を保つ器具です。挿管に比べて導入が速く、循環変動や咽頭刺激が少なく、覚醒もスムーズです。仰臥位で短〜中時間、誤嚥リスクの低い症例で広く使われます。

一方で、確実な誤嚥防止には向かず、高い気道内圧をかけるとシール部からリークします。腹臥位や頭低位、開腹操作、強い筋弛緩を要する手術では、原則として選ばれません。世代によっては、胃管を通せるドレーンポートや、より高いシール圧を持つタイプがあります。

CEが確認するのは、体格に合ったサイズ、カフ(バルーン)の破れやリーク、潤滑、そしてカフ圧です。入れっぱなしでカフ圧が高いと、咽頭粘膜の虚血や術後の咽頭痛につながります。カフ圧計で適正範囲(各製品の推奨、目安として60cmH2O以下)に管理します。装着後は、カプノ波形が出るか、胸郭が上がるか、リーク音がないかを見ます。

気管チューブ(経口・経鼻挿管)

声帯を越えてカフでシールする、もっとも確実な方法です。長時間手術、腹臥位・側臥位・頭低位、開腹・開胸、誤嚥リスク、強い筋弛緩下の手術では基本の選択になります。経鼻挿管は口腔・咽頭の手術で術野を確保するために選ばれます。

CEは、想定サイズと予備、カフの事前点検、スタイレット、喉頭鏡(またはビデオ喉頭鏡)、吸引、固定用テープを準備します。挿管後は、カプノ波形の持続、両側の呼吸音、胸郭挙上、気道内圧、チューブの深さ(門歯の目盛り)、カフ圧(目安20〜30cmH2O)を確認します。体位変換の後は、チューブが浅くなっていないか・片肺挿管になっていないかを再確認します。

経口用の気管チューブ(カフつき)

写真: 経口用の気管チューブ(カフつき)

経鼻用の気管チューブ(RAE型・あらかじめ屈曲した形状)

写真: 経鼻用の気管チューブ(RAE型・あらかじめ屈曲した形状)

挿管を補助・代替する器具

  • ビデオ喉頭鏡:声門を画面で見ながら挿管できる。困難気道が予想される症例では第一選択になりつつある。CEは光源・モニタ・記録、ブレードの曇り止め、電源/充電を準備する
  • 気管支ファイバースコープ:意識下挿管や、開口・頸部可動が制限された症例で使う。光源、吸引、局所麻酔の準備、洗浄・滅菌の管理がCEの領域
  • ブジー(ガムエラスティックブジー)・エアウェイスコープ・声門上器具経由の挿管:ビデオ喉頭鏡でも入らない場面の次の一手

これらは「困難気道アルゴリズム(DAM)」の各段階に対応します。どの段階で何を使うかをチームで共有し、器具を順番に並べておくのがCEの準備です。

特殊な気道 ― 分離肺換気と緊急気道

分離肺換気(ダブルルーメンチューブ・気管支ブロッカー)

開胸手術などで、左右の肺を別々に換気(または片方を虚脱)させる方法です。ダブルルーメンチューブは左右・サイズの選択があり、位置確認には気管支鏡がほぼ必須です。片肺換気中は低酸素になりやすく、CPAPやPEEPの追加、体位や術操作による位置ずれの是正など、換気側のサポートが重要になります。

緊急の外科的気道

「換気もできない・挿管もできない(CICO:cannot intubate, cannot oxygenate)」という最悪の状況に対する最終手段が、輪状甲状間膜穿刺・切開です。頻度は低いものの、起きたときは分刻みです。CEは、キットの保管場所と中身、酸素供給、応援を呼ぶ動線を平時から把握しておきます。

さらにその先 ― 体外式膜型人工肺(ECMO/ECLS)

外科的気道でも酸素化を保てない、あるいはそもそも気道そのものが確保できないと予想される場面では、体外循環で酸素化を肩代わりする選択肢があります。多くは酸素化のみを目的としたVV-ECMOで、循環も破綻していればVA-ECMOを用います。

使われ方は大きく2つです。

  • 予定(スタンバイ):巨大な前縦隔腫瘍、気管をほぼ閉塞する腫瘍、気管の再建手術など、麻酔導入で完全閉塞が予想される症例では、導入前に局所麻酔下で大腿に脱送血カニューレを留置し、いつでも体外循環を開始できる状態にしてから導入します。
  • 緊急(レスキュー):CICOに陥り、通常の手段で酸素化を回復できないときの最後の砦として、緊急にカニュレーションして酸素化を確保し、確定的な気道確保までの時間を稼ぎます。

いずれも実施の判断はチーム(麻酔科・外科・集中治療・ME)で行うものですが、CEにとってはECMO回路・遠心ポンプ・人工肺・カニューレ・プライミングをどれだけ速く立ち上げられるかが直接効いてくる領域です。気道が危ういハイリスク症例では、「外科的気道の次はECMO」という選択肢があることをチームで共有し、必要なら回路を準備段階まで進めておきます。

デバイス選択の考え方

判断は麻酔科医が行いますが、背景にある問いはおおむね次の順です。

  1. 誤嚥リスクはあるか(フルストマック、腸閉塞、妊娠後期、胃食道逆流)→ あれば気管挿管
  2. 体位・術式は?(腹臥位・頭低位・開腹・開胸・長時間)→ 該当すれば気管挿管
  3. 分離肺換気が必要か → ダブルルーメン/ブロッカー
  4. 上記に当たらず短〜中時間・仰臥位・低リスク → 声門上器具も選択肢
  5. 挿管困難が予想されるか → ビデオ喉頭鏡・ファイバー・意識下挿管を含めた計画

気道管理デバイスの選択フロー

図: 気道管理デバイスの選択フロー

CEが共通して確認すること

デバイスの種類によらず、装着後の確認は共通しています。

  • 換気できているか:カプノ波形、胸郭挙上、両側の呼吸音
  • 位置:深さの目盛り、片肺・食道でないか、体位変換後の再確認
  • カフ:圧が適正か、リークがないか
  • リーク:回路・接続部・カフ・APL弁
  • 予備手段:自己膨張バッグ、次のデバイス、吸引、応援

そして、困難が予想される症例では、これらを「トラブルが起きてから探す」のではなく、導入前にそろえて並べておくことが、CEの最も価値ある準備です。

まとめ

  • 気道確保の確実性は「マスク → 声門上(SGA)→ 気管挿管」の順に上がり、侵襲・手間とトレードオフ
  • 誤嚥リスク・特殊体位・長時間・分離肺換気なら気管挿管が基本
  • 声門上器具は速く低侵襲だが、確実な誤嚥防止と高い気道内圧には向かない
  • 困難気道が想定されるなら、代替デバイスと人員を導入前にそろえる
  • 最悪の場合はVV-ECMO(ECLS)まで視野に入れる。ハイリスク症例では回路の準備と役割分担をチームで共有する
  • CEの共通確認は「換気・位置・カフ・リーク・予備手段」

気道デバイスは、CEが準備と確認で直接貢献できる領域です。装着後の所見からトラブルを引くには、周術期モニタリング トラブル対応リファレンスの「麻酔器・回路・気道」カテゴリも参照してください。