周術期の体温管理と加温装置 ― 低体温はなぜ起こり、CEは何を見るか

はじめに
全身麻酔をかけると、体温を一定に保つしくみそのものが抑えられます。何も対策をしなければ、患者の中枢温は導入後から下がり始め、手術の侵襲や出血、開放創からの熱の逃げが加わって、いわゆる術中偶発的低体温に至ります。
術中低体温は「少し寒い」で済む話ではありません。創部感染、出血量の増加、覚醒の遅延、シバリングによる酸素消費の急増など、術後の経過に直結する合併症と関連することが多くの研究で示されています。だからこそ、体温は血圧やSpO2と同じ「監視すべきバイタル」であり、加温装置は麻酔器やモニタと並ぶ周術期の必須機器です。
この記事では、術中に体温が下がるメカニズム、モニタリングの部位と注意点、加温装置の種類と使い分け、そして臨床工学技士(CE)が現場で確認すべきポイントを整理します。
ポイント
- 全身麻酔導入後の最初の1時間は「熱の再分布」で中枢温が急に下がりやすい
- 中枢温(深部温)と末梢・表面温は乖離する。測定部位を意識して読む
- 加温は「導入前から(プレウォーミング)」始めるほど効果が高い
- 送風式加温装置は被覆範囲・ホース接続・フィルタ詰まりで効果が大きく変わる
- アミノ酸輸液(アミパレン等)は産熱を増やす補助手段。体表加温と併用する
- 体温上昇+EtCO2上昇+頻脈は、加温のしすぎではなく悪性高熱症を先に疑う
術中に体温が下がる3つの段階
麻酔中の体温低下は、時間経過で性質が変わります。段階を分けて考えると、対策のタイミングが見えてきます。
第1相:熱の再分布(導入〜約1時間)
麻酔薬は血管を広げ、体温調節の「閾値」を下げます。その結果、それまで手足に集まっていた血流が体幹へ移動し、体の中心(中枢)の熱が末梢へ再分配されます。体の熱の総量はほとんど変わっていないのに、中枢温だけが0.5〜1.5℃前後、急に下がります。これが導入直後にもっとも大きい変化です。
再分布は「熱が逃げた」のではなく「熱が移動した」ため、導入後に慌てて加温を始めても取り戻しにくいのが特徴です。ここで効くのが後述するプレウォーミングです。
第2相:ゆるやかな直線的低下(1〜3時間)
再分布が一段落した後は、体表・呼吸・術野・非加温の輸液や洗浄液から熱が逃げ、産熱を上回った分だけ時間あたり一定のペースで中枢温が下がっていきます。ここは加温装置と室温、輸液加温でコントロールする局面です。
第3相:プラトー(3時間以降)
中枢温がある程度下がると、体は末梢血管を収縮させて熱の放散を抑え、低下がゆるやかになって横ばいに近づきます。ただしこれは「回復した」わけではなく、低い体温で釣り合っているだけです。

図: 術中に体温が下がる3つの段階
体温モニタリング ― どこで測るか
中枢温(深部温)を測る部位
手術室で中枢温の代用としてよく使われるのは、食道下部・鼻咽頭・膀胱・直腸・鼓膜(外耳道)などです。
| 部位 | 特徴 |
|---|---|
| 食道下部 | 心臓・大血管の温度をよく反映。挿管例で使いやすい。位置が浅いと吸気で冷える |
| 鼻咽頭 | 脳温に近い。出血傾向・経鼻手術では避ける |
| 膀胱 | 尿量が少ないと反応が鈍る。尿道カテーテル留置例で簡便 |
| 直腸 | 反応が遅く、便で値がずれることがある |
| 鼓膜・外耳道 | 脳温に近いが、プローブの当て方で変動しやすい |
いずれも「中枢温の代用」であり、部位が違えば同じ患者でも表示値は変わります。トレンド(上がっているのか下がっているのか)で読むのが基本です。
表面温・末梢温との違い
皮膚に貼るタイプは扱いやすい一方、室温や送風、術野の影響を受けます。中枢温との差(中枢‐末梢温度較差)は末梢循環の指標になりますが、絶対値をそのまま中枢温として扱わないよう注意します。
CEが確認すること
- プローブの留置位置と深さ、コネクタの接続
- 断線・被覆損傷(値が乱高下する、非現実的な数字が出る)
- 洗浄液や送風がプローブに直接当たっていないか
- 単発の外れ値か、持続的なトレンドか
加温装置の種類と使い分け
送風式加温装置(フォースドエアウォーミング)
温風をブランケットに送り、体表から加温する方式です。手術室でもっとも普及しており、有効面積が広いほど効果が高くなります。効果を落とす要因は次のとおりです。
- 被覆範囲が狭い(露出が多い)
- ホースの外れ・折れ、ブランケットの穴
- 吸気フィルタの目詰まり
- ブランケットを掛けずにホースだけを体に向ける「ホースイング」(低温熱傷の原因になり、推奨されません)
循環水式(ウォーターマットレス・ブランケット)
温水を循環させる方式です。背面など送風が届きにくい面に使えます。マット単独では体表の接触面積が限られるため、送風式との併用が一般的です。
輸液・血液加温
大量輸液・輸血の場では、非加温の輸液がそのまま体温を下げます。専用の輸液加温装置で体温付近まで温めて投与します。急速輸血の場面では特に効果が大きい対策です。
アミノ酸輸液による熱産生(アミパレンなど)
体を「外から温める」以外に、「体の産熱を増やす」アプローチもあります。その代表がアミノ酸輸液です。アミノ酸は代謝の過程で熱を生み出し(食事をとったときに体が温まる食事誘発性熱産生に近い現象)、周術期にアミノ酸輸液(アミパレンなどの10%アミノ酸製剤)を一定速度で投与すると、術中の体温低下の抑制や、術後シバリングの軽減が報告されています。
麻酔中は体温調節が抑えられているため、この熱産生の効果が体温維持に回りやすいとされます。投与のタイミング(術中から術直後にかけて)や速度、適応の可否(腎機能低下、肝性脳症のリスクなど)は麻酔科医が判断します。あくまで体表加温と併用する補助手段であり、単独で低体温を防ぐものではありません。
室温とその他
室温は、患者にとっての「放射・対流でどれだけ熱が逃げるか」を決める土台です。導入前や小児では高めに、という配慮が有効です。洗浄液の加温、露出部の被覆も基本の積み重ねになります。

図: 加温方式と主な対象範囲(模式図)
プレウォーミング ― 導入前に温めておく
第1相の再分布による低下は、末梢(手足)が最初から温まっていれば小さくできます。麻酔導入の10〜20分ほど前から体表を送風式で加温しておくのがプレウォーミングです。末梢と中枢の温度差をあらかじめ縮めておくことで、導入後に中枢から末梢へ移動する熱の量が減り、導入直後の急な落ち込みを抑えられます。
短時間でも実施する価値があり、外来手術や区域麻酔でも応用できます。
トラブルと対応
体温がどんどん下がる
まず被覆範囲と送風温度の設定、ホース接続を確認します。輸液・洗浄液の加温、室温の引き上げ、露出の最小化を同時に行います。加温しても下がり続ける場合は、大量出血・大量輸液や、別の加温装置の故障が背景にないかを見ます。
加温装置のアラーム/効いていない
ホースの外れ・折れ、ブランケットの装着不良、フィルタの目詰まり、温度センサー異常を順に確認します。復旧に時間がかかるなら、別方式(循環水式、輸液加温、体表被覆)を併用してしのぎます。
体温が上がっていく
加温のしすぎや被覆過多でも上がります。ただし、EtCO2の上昇・頻脈・筋硬直・褐色尿を伴う体温上昇は、悪性高熱症を最優先で鑑別する場面です。加温を止め、麻酔科医へ即報告し、機器面(新品回路、活性炭フィルタ、高流量での洗い流し、冷却の準備)を並行して進めます。感染・炎症、輸血反応、甲状腺クリーゼなども鑑別に挙がります。
低温熱傷
加温装置に関連する有害事象として、低温熱傷があります。ホースを直接皮膚に向けない、指定のブランケットと組み合わせて使う、加温部位を時々確認する、といった基本を守ります。
まとめ
- 術中低体温は「再分布 → 直線的低下 → プラトー」の経過をたどる。導入直後の落ち込みが最大
- 中枢温は部位ごとに代用値。トレンドで読む
- プレウォーミングと導入直後からの積極的加温がもっとも効く
- 送風式は被覆範囲・接続・フィルタで効果が変わる。CEはそこを確認する
- アミノ酸輸液(アミパレン等)は産熱を増やす補助。体表加温と組み合わせる
- 体温上昇+EtCO2上昇+頻脈は、悪性高熱症を先に疑って動く
体温管理は、機器の設定と装着という「CEが直接手を出せる」要素で結果が大きく変わる領域です。所見からの逆引きは、周術期モニタリング トラブル対応リファレンスの「体温」カテゴリにまとめています。





