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甲状腺手術と反回神経モニタリング ― NIM TUBEの使い方

甲状腺手術と反回神経モニタリング アイキャッチ

この記事でわかること

  • 1反回神経は甲状腺のすぐ背側を走り、甲状腺手術で最も注意される神経
  • 2切断しなくても操作だけで麻痺することがあり、完全には予防できない
  • 3NIM TUBEは声帯レベルに電極を内蔵した気管チューブで、反回神経の機能を術中に確認する
  • 4麻酔管理の要点は「筋弛緩薬の管理」と「チューブの位置ずれ対策」
  • 5波形が出ないときの確認順序をCE目線で整理

はじめに

甲状腺の手術(全摘出術・バセドウ病の手術・頸部食道手術など)では、甲状腺のすぐ背側を走る反回神経をいかに傷つけずに手術を終えるかが、術者にとって最大の関心事のひとつです。
反回神経は声帯を動かす筋肉を支配しており、損傷すると嗄声(声のかすれ)や嚥下障害が残ります。両側が麻痺すると気道が閉塞し、緊急気管切開が必要になることもある重篤な合併症です。

このリスクを下げるために用いられるのが反回神経モニタリング(RLN monitoring)です。顔面神経モニタリング(顔面神経モニタリングとは?)と同じNIMシステムを使いますが、電極の置き方と麻酔管理で気をつけるポイントが少し異なります。この記事では、NIM TUBE(EMG気管チューブ)を中心に、反回神経モニタリングの仕組みと麻酔管理の注意点を整理します。

知っておきたいリスク

  • 反回神経は切断しなくても牽引・圧迫などの操作だけで麻痺することがあり、完全には予防できません
  • 両側が麻痺すると気道が閉塞し、緊急気管切開が必要になることがある重篤な合併症です
  • 甲状腺全摘など両側を操作する手術では、最初の側で信号が消失した時点で対側操作を見送る判断が検討されることもあります

反回神経モニタリングとは

反回神経モニタリングは、迷走神経または反回神経を電気刺激し、声帯を動かす筋肉(喉頭内筋)の収縮をEMG波形として記録する方法です。顔面神経モニタリングと原理は同じですが、導出(波形を拾う場所)が体表の筋肉ではなく気管チューブに内蔵された電極である点が大きな違いです。

反回神経の走行

反回神経は迷走神経から枝分かれし、右と左で通り道が異なります。この左右差は、術中に「今どこを操作しているか」を理解するうえでCEも知っておきたいポイントです。

走行
右反回神経 右鎖骨下動脈を前から後ろに回り込んでから(反回して)頸部を上行
左反回神経 大動脈弓を前から後ろに回り込んでから頸部を上行
共通経路 気管食道溝(食道と気管の間)を上行し、輪状軟骨の下縁付近で喉頭に入る

まれに反回神経が反回せず、頸部を直接横切って喉頭に入る非反回下喉頭神経という解剖学的バリエーションもあります。血管走行の異常に伴って生じ、通常の走行を前提に探すと見つからないため、神経モニタリングが位置の確認に役立ちます。

反回神経は喉頭の中で、声帯を開く筋肉(後輪状披裂筋)と閉じる筋肉(外側輪状披裂筋・披裂筋・甲状披裂筋など)の両方を支配しています。そのため反回神経が麻痺すると、声帯の開閉そのものがうまくいかなくなります。

なお、反回神経とは別に上喉頭神経外枝という枝が輪状甲状筋(声の高さを調整する筋肉)を支配していますが、反回神経の1/5程度と細く、上甲状腺動脈に癒着していたり動脈と交叉していたりと走行のバリエーションも多いため、術中に肉眼で温存できたか確認するのは困難とされています。この枝が麻痺すると、声帯の動き自体は保たれていても高い声が出にくくなる・発声時間が短くなるといった変化が出ます。

反回神経の走行(模式図)。右は鎖骨下動脈、左は大動脈弓を反回し、左の方が経路が長い

図: 反回神経の走行(模式図)。右は鎖骨下動脈、左は大動脈弓を反回し、左の方が経路が長い

NIM TUBE(EMG気管チューブ)とは

NIM TUBEは、声帯に接触する位置に電極が埋め込まれた気管チューブです。反回神経を電気刺激すると、声帯を動かす筋肉の収縮がこの電極からEMG波形として記録されます。

  • 電極から伸びるワイヤーは色分けされており、赤色ワイヤーが右声帯、青色ワイヤーが左声帯に対応します
  • モニター本体(NIM Vitalなど)とワイヤーをつなぐコネクタボックスは、チャンネルごとに色分けされています
  • 電極が体表に貼るタイプ(inomedラリンジール電極など、チューブの外側に巻きつけて使うシート状電極)を使う施設もあります

体表貼付型のラリンジアル電極(inomed Laryngeal Electrode Select)。7〜9mm ID用

図: 体表貼付型のラリンジアル電極(inomed Laryngeal Electrode Select)。7〜9mm ID用

適応となる代表的な手術は、甲状腺がん・濾胞腺腫(良性腫瘍)・腺腫様甲状腺腫(過形成)・バセドウ病(機能亢進症)に対する甲状腺手術です。

NIM TUBEによる反回神経モニタリングの仕組み

図: NIM TUBEによる反回神経モニタリングの仕組み

NIM TUBE(EMG気管チューブ)本体。声帯レベルの電極から赤・青のワイヤーが伸びる

図: NIM TUBE(EMG気管チューブ)本体。声帯レベルの電極から赤・青のワイヤーが伸びる

モニタリングの2方式

方式 刺激の与え方 特徴
間欠的神経モニタリング(IIONM) モノポーラーのプローブで、術者が随時、神経を刺激する 最も一般的。術者が確認したいタイミングで反応を見られる
持続的神経モニタリング(CIONM) 迷走神経に留置した電極(APS電極など)で持続的に刺激・監視する 神経の機能低下をより早期に、連続的に捉えられる

どちらの方式も、電気メスや吸引などの周囲の操作が信号品質に影響します。方式の選択は術者・施設のプロトコルによります。

挿管・セッティングでCEが確認すること

反回神経モニタリングが正しく機能するかどうかは、麻酔導入時のセッティングでほぼ決まります。CEが特に関わるポイントは次のとおりです。

  1. 術前の声帯運動を確認しておく ― 耳鼻科医の内視鏡評価で、もともと声帯麻痺がないかを共有しておきます
  2. 導入時の筋弛緩薬は必要最低限 ― 挿管のためだけに使い、以降は原則使用しません(顔面神経モニタリングとは?と同じ考え方です)
  3. チューブの潤滑剤は生理食塩水または水性潤滑剤を使用 ― 局所麻酔薬を含む潤滑剤は、声帯周囲の筋肉の反応を鈍らせるおそれがあるため避けます
  4. 電極位置を喉頭鏡・ビデオスコープ下で声帯レベルに合わせる ― チューブが浅すぎても深すぎても電極が声帯に接触せず、波形が拾えません
  5. アース(ニュートラル)電極は肩または前胸部に留置し、チューブは口唇正中で固定 ― インターフェースは麻酔器側、モニターは足側に置くレイアウトが一般的です
  6. 体位を最終的に決めたあとに、頸部をタッピングして反応を確認する ― 頸部の伸展でチューブの位置がずれることがあるため、体位固定後の再確認が欠かせません

NIM TUBEの電極は声帯の高さに合わせて位置決めする。電極ワイヤーは赤が右声帯、青が左声帯

図: NIM TUBEの電極は声帯の高さに合わせて位置決めする。電極ワイヤーは赤が右声帯、青が左声帯

モニタリングボックスへの結線

NIM TUBEの電極ワイヤーをモニター本体(NIM Vitalなど)に接続する際は、次の対応を意識すると迷いません。

  • 電極ワイヤーの色を、モニタリングボックスのチャンネルの色に合わせて挿す ― チューブ側と受け側の色を揃えることで、左右の取り違えを防ぎます
  • アース電極・回収電極は、ボックスの緑・赤の位置に挿す
  • 刺激プローブはマイナス(-)側に接続する ― 刺激点(プローブ先端)を陰極(-)にすると、同じ電流でも神経を興奮させやすく、より低い刺激閾値で反応を引き出せます。プラス側に挿すと刺激効率が落ちるため、臨床では基本的にマイナス側を使います

電極ケーブル(4ch)をモニタリングボックスへ接続する

図: 電極ケーブル(4ch)をモニタリングボックスへ接続する

NIM Vitalのコネクタボックス。チャンネルごとに色分けされている

図: NIM Vitalのコネクタボックス。チャンネルごとに色分けされている

波形が出ない・ノイズが大きいときの確認順序

刺激をしても反応がない、あるいはノイズが大きい場合は、次の順序で確認すると原因を絞り込みやすくなります。

  1. 挿管チューブが回旋・抜浅していないか確認する
  2. 咽頭に貯留した唾液を吸引する
  3. アース電極の脱落など、回路に問題がないか確認する
  4. ミューティングプローブが正しく装着されているか確認する
  5. 腫瘤が大きい症例では、摘出操作でチューブそのものがずれていないか疑う
  6. 術者が喉頭後面を直接触診し、喉頭筋の収縮があるかを術野で確認する(Laryngeal twitch assessment)

甲状腺全摘のように両側を操作する手術では、最初に操作した側で刺激への反応が消失した場合、対側の操作を行わずに手術を終える判断が検討されることもあります。両側の反回神経が同時に麻痺すると気道閉塞につながるため、片側で信号が消えた時点でいったん立ち止まる、という安全策です。実際にどう判断するかは術者の方針によります。

術後に起こりうること

反回神経は、切断していなくても牽引や圧迫などの操作だけで麻痺することがあり、完全には予防できません。

  • 片側麻痺:嗄声、嚥下時のむせ・誤嚥しやすさ
  • 両側麻痺:気道閉塞のリスク。緊急気管切開が必要になることがある
  • 症状が残る場合、音声を改善するための喉頭形成術が検討されることもあります

麻痺の頻度は文献や施設によって幅がありますが、「ゼロにはできないリスク」という前提を関係職種で共有しておくこと自体が、術後トラブルへの心構えになります。

CEが確認すること

  • 電極付きチューブ(NIM TUBEなど)が指示された機種・サイズで用意されているか
  • モニターのチャンネル設定(左右)と、実際に挿管したチューブの向きが一致しているか
  • 挿管後、体位確定後の2回、術者と一緒にベースライン波形を確認したか
  • 導入後の筋弛緩薬の使用状況を、執刀医・麻酔科医と共有できているか
  • 波形トラブル時に確認する順序(本記事の「波形が出ない・ノイズが大きいとき」)を即座に思い出せるか

よくある質問

反回神経モニタリングと顔面神経モニタリングは何が違いますか?

原理(電気刺激してEMG波形を見る)は同じですが、反回神経モニタリングは声帯レベルに電極を内蔵した気管チューブ(NIM TUBEなど)から波形を導出する点が異なります。顔面神経モニタリングは表情筋に置いた電極から導出します。

NIM TUBEを入れるときに気をつけることは?

喉頭鏡やビデオスコープを使って、電極が声帯レベルに来るように位置を合わせます。局所麻酔薬入りの潤滑剤は避け、体位を最終的に決めたあとに頸部をタッピングして反応が出るかを再確認します。

波形が出ないときにまず疑うことは?

チューブの回旋・抜浅、咽頭に貯留した唾液、アース電極の脱落、ミューティングプローブの未装着です。これらを確認しても反応がなければ、術者が喉頭後面を直接触診して筋収縮の有無を確認する方法もあります。

まとめ

  • 反回神経は甲状腺のすぐ背側を走り、切断しなくても操作だけで麻痺しうる神経
  • NIM TUBEは声帯レベルに電極を内蔵した気管チューブで、反回神経の機能を術中にリアルタイムで確認する
  • 麻酔管理の要点は「筋弛緩薬を最低限にする」「チューブの位置ずれに気をつける」
  • 波形トラブル時は、チューブ位置→分泌物→アース電極→ミューティングプローブの順に確認する
  • 両側の反回神経を同時に危険にさらさないよう、片側で信号消失があれば立ち止まる判断がある

参考:奈良県立医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科学「頭頸部手術での神経モニタリング」(術中神経モニタリング講習会資料)