OP室で働く麻酔補助CEの日常

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セボフルランとデスフルランの違い ― 気化器・吸収剤・ガスモニタでCEが確認すること

セボフルランとデスフルラン アイキャッチ

はじめに

セボフルランとデスフルランは、どちらも全身麻酔で使う吸入麻酔薬です。名前は似ていますが、性質も、使う機器の扱いも違います。

先に結論です。セボフルランはマスク導入にも使える薬で、デスフルランは気道刺激性が強いため維持専用の薬です。デスフルランは沸点が23℃と室温に近く、専用の気化器が必要です。どちらも、乾燥したCO2吸収剤との組み合わせに注意が要ります。

この記事では、2つの薬の違いを整理したうえで、気化器・吸収剤・ガスモニタについてCEが確認することをまとめます。

この記事でわかること

  • MAC(最小肺胞濃度)と、血液/ガス分配係数の意味
  • セボフルランとデスフルランの違い(比較表)
  • デスフルランに専用の気化器が必要な理由
  • 電子制御の気化器(例:Flow-iシリーズ)の仕組み
  • 乾燥したCO2吸収剤で起こること
  • CEが確認すること

吸入麻酔薬を比べる2つのものさし

MAC(最小肺胞濃度)

MACは、皮膚切開などの刺激に対して、50%の人が体を動かさなくなるときの肺胞内の濃度(呼気終末濃度)です。数値が小さい薬ほど、麻酔作用が強いことを意味します。

MACは一定ではありません。年齢・併用する薬・体温で変わります。どちらの薬も、年齢が上がるほどMACは小さくなります(下の比較表)。

血液/ガス分配係数

血液にどれだけ溶けやすいかを表す数値です。一般に、この値が小さい(血液に溶けにくい)ほど、肺胞の濃度が早く上がり、投与をやめたあとも早く下がります。つまり、効き始めと覚めるのが早い傾向になります。

セボフルランとデスフルランの違い(沸点・血液/ガス分配係数・MAC・使える場面・気化器)

図: セボフルランとデスフルランの違い(沸点・血液/ガス分配係数・MAC・使える場面・気化器)

セボフルランとデスフルランの比較

項目セボフルランデスフルラン
沸点約58.6℃23℃
血液/ガス分配係数(37℃)0.630.424
MAC(成人の例、酸素併用)1.71%(平均47.5歳)6.0%(45歳)
MAC(高齢者の例)1.48%(平均71.4歳)5.2%(70歳)
MAC(小児の例)2.49%(平均4.3歳)8.6%(4歳)
使える場面導入(マスク導入可)・維持維持のみ(気道刺激性が強く、導入には使わない)
気化器セボフルラン専用気化器が望ましいデスフルラン専用気化器が必須(電気的な加温が必要)
乾燥したCO2吸収剤異常発熱(海外で発火の報告)一酸化炭素の産生(海外でCOHb上昇の報告)
薬液の指示色黄色―

出典:各薬剤のインタビューフォーム(セボフレン吸入麻酔液、スープレン吸入麻酔液)。MACは試験の条件(年齢・併用薬)での値で、目安です。亜酸化窒素を併用するとMACは小さくなります。

デスフルランはセボフルランより血液に溶けにくい一方、MACは大きい(同じ効果を得るのに高い濃度が必要)薬です。

デスフルランは「維持専用」

デスフルランは気道刺激性が強いため、添付文書で全身麻酔の維持にのみ使い、導入には使わないとされています。海外の試験では、6歳以下の幼児にフェイスマスクやラリンジアルマスクで維持に使った場合、咳・喉頭痙攣・分泌の増加などが多かったと報告されています。

デスフルランに専用の気化器が必要な理由

デスフルランの沸点は23℃で、手術室の室温とほとんど変わりません。蒸気圧は23℃で761mmHgと、ほぼ大気圧です。温度が少し変わるだけで気化する量が大きく変わるため、ふつうの気化器では濃度を正確に保てません。

そのため添付文書では、電気的な加温が必要なので、デスフルラン専用の気化器を必ず使うとされています。セボフルランについても、セボフルラン専用の気化器を使うことが望ましいとされています。

デスフルランに専用の気化器が要る理由(沸点・蒸気圧・気化器の方式)

図: デスフルランに専用の気化器が要る理由(沸点・蒸気圧・気化器の方式)

電子制御の気化器(例:Flow-iシリーズ)

気化器の仕組みは、麻酔器によって違います。たとえばGetinge社のFlow-iシリーズ(C20・C30・C40)は、電子制御で薬液を注入する気化器を使っています。

  • ガスモジュールから来たガスが気化器の中を通り、そこに麻酔薬が注入されてから、呼吸回路へ送られます
  • 新鮮ガスの流量は呼吸のタイミングで変わるため、注入する薬の量もそれに合わせて変えて、設定した濃度を保ちます
  • 設定できる範囲は、セボフルラン 0〜8%、デスフルラン 0〜18%(メーカーが米国FDAに届け出た資料より)

どの方式でも、気化器は薬ごとの専用品です。点検や充填の方法は機種によって違うので、使っている麻酔器の取扱説明書に従います。

乾燥したCO2吸収剤に注意

CO2吸収剤が乾燥していると、どちらの薬でも問題が起こることがあります。

薬乾燥した吸収剤で起こること(添付文書より)対応
セボフルラン異常発熱。海外では発火の報告もある。また、閉鎖回路で吸収剤に接触すると分解する吸収剤が乾燥しないよう定期的に交換し、吸収装置の温度に注意する
デスフルラン一酸化炭素を産生することがある。海外では一酸化炭素ヘモグロビン濃度が上がった報告がある乾燥が疑われたら、投与前に新しい吸収剤に交換する

ほかのモニタリング・合併症とのつながり

  • MEP(運動誘発電位):吸入麻酔薬はMEPを強く抑制します。そのためMEPを測る手術では、TIVA(全静脈麻酔)が選ばれることが多くなります(MEPの記事、TIVAの記事)。
  • 悪性高熱症:どちらの薬も、添付文書で重大な副作用として悪性高熱が挙げられています。初期症状には、原因不明の呼気終末CO2の上昇、頻脈、CO2吸収剤の異常な発熱・急な変色などがあります(周術期の緊急対応の記事)。

ガスモニタの見方

麻酔ガスモニタでは、吸入側の濃度(Fi)と呼気終末の濃度(Et)が表示されます。MACは肺胞の濃度で決めた値なので、麻酔の深さを考えるときは呼気終末の濃度(Et)を見ます。

  • 気化器の設定値・吸入濃度・呼気終末濃度は、同じ値になるとは限りません
  • MACは年齢などで変わるので、表の値はあくまで目安です
  • 薬を切り替えたあとは、モニタに表示される薬の種類が合っているかも確認します

ガスモニタは薬の種類・Fi・Etを確認する(麻酔の深さを考えるときはEt)

図: ガスモニタは薬の種類・Fi・Etを確認する(麻酔の深さを考えるときはEt)

CEが確認すること

  1. 始業点検:気化器の装着・リーク・作動を、麻酔器の始業点検の中で確認します(始業点検の記事)。
  2. 薬液の充填:薬の瓶には、気化器ごとの専用の接続部(カラー)が付いています。取り違えを防ぐため、薬の名前と気化器を必ず照らし合わせます。
  3. 残量:長い手術の前に、気化器の薬液の残量を確認します。
  4. CO2吸収剤:色の変化と乾燥に注意し、施設の手順に沿って交換します。デスフルランを使う前に乾燥が疑われたら、交換してから使います。
  5. デスフルランの気化器:専用の気化器であることと、機種ごとの準備(電源・加温など)を、取扱説明書で確認します。
  6. ガスモニタ:薬の種類の表示と、呼気終末濃度が測れているかを確認します。

よくある質問

デスフルランで麻酔の導入をしないのはなぜですか?

気道刺激性が強いためです。添付文書で、全身麻酔の維持にのみ使い、導入には使わないとされています。導入は、静脈麻酔薬やセボフルランで行います。

デスフルランの方が覚めるのが早いのはなぜですか?

血液/ガス分配係数が0.424と小さく、血液に溶けにくいためです。一般に、血液に溶けにくい薬ほど、投与をやめたあと肺胞の濃度が早く下がります。

MACの値は、どのくらいを目標にすればよいですか?

MACは年齢・併用薬・体温で変わり、目標の濃度は麻酔科医が決めます。CEは、ガスモニタの呼気終末濃度と表示が正しく測れているかを確認する役割です。

乾燥したCO2吸収剤は、なぜ危ないのですか?

セボフルランでは異常な発熱(海外では発火の報告)、デスフルランでは一酸化炭素の産生が添付文書に書かれています。定期的な交換と、乾燥が疑われたときの交換が大切です。

気化器の仕組みは、どの麻酔器でも同じですか?

同じではありません。ダイヤル式の気化器のほか、Flow-iシリーズのように電子制御で薬液を注入する方式もあります。点検や充填は、機種の取扱説明書に従います。

まとめ

  • ✅ MACは「50%が体動しない肺胞濃度」。年齢・併用薬・体温で変わる
  • ✅ 血液/ガス分配係数が小さいほど、効き始めと覚めるのが早い傾向
  • ✅ セボフルランはマスク導入もできる。デスフルランは気道刺激性が強く維持のみ
  • ✅ デスフルランは沸点23℃。電気的な加温が必要で、専用の気化器が必須
  • ✅ 乾燥したCO2吸収剤:セボは異常発熱、デスは一酸化炭素。交換が大切
  • ✅ 麻酔の深さを見るときは、呼気終末濃度(Et)を見る

参考

  • 丸石製薬「セボフレン吸入麻酔液 医薬品インタビューフォーム」2023年6月改訂(第9版) PDF
  • バクスター「スープレン吸入麻酔液 医薬品インタビューフォーム」2022年9月改訂(第7版) PDF
  • Maquet Critical Care AB. FLOW-i 510(k) Summary(K102182). U.S. FDA PDF

※本記事の数値はすべて目安です。投与量・濃度は添付文書と施設プロトコル、指示医の判断を優先してください。機器の操作は各機種の取扱説明書に従ってください。