区域麻酔(脊髄くも膜下麻酔・硬膜外麻酔・末梢神経ブロック)の介助 ― CEが準備すること

はじめに
区域麻酔には脊髄くも膜下麻酔・硬膜外麻酔・末梢神経ブロックの3種類があり、穿刺部位も準備物品も異なります。CEが直接穿刺を行うことはありませんが、機材の準備・機器のセットアップ・合併症への備えという面で関わる場面があります。この記事では3種類の違いを整理し、CEが確認しておきたいポイントをまとめます。
この記事でわかること
- 脊髄くも膜下麻酔・硬膜外麻酔・末梢神経ブロックの違い(穿刺部位・麻酔域・作用時間)
- 各手技で準備する物品と、CEが関わりうる機器(超音波診断装置・神経刺激装置・PCAポンプ)
- 局所麻酔薬中毒(LAST)・高位脊髄麻酔・硬膜外血腫など、機器面でも備えるべき合併症
区域麻酔とは ― 3つの方法
区域麻酔は、脳ではなく脊髄や末梢神経の近くに局所麻酔薬を作用させることで、体の一部の感覚・運動を麻痺させる方法です。全身麻酔と併用することも、単独で行うこともあります。
- 脊髄くも膜下麻酔:脊髄液(髄液)が満たされているくも膜下腔に、細い針で局所麻酔薬を注入します。下半身の麻酔として使われ、日本麻酔科学会の説明では効果は概ね3〜6時間程度とされています
- 硬膜外麻酔:背中から硬膜外腔にカテーテルを留置し、局所麻酔薬を投与します。単回ではなくカテーテルを留置するため、術後も鎮痛を継続できるのが特徴です
- 末梢神経ブロック:目的とする神経の周囲に局所麻酔薬を注入します。麻酔の範囲は他の2つより狭く、必要最小限の部位に限定できます
3方法の比較
| 脊髄くも膜下麻酔 | 硬膜外麻酔 | 末梢神経ブロック | |
|---|---|---|---|
| 穿刺部位 | 脊髄くも膜下腔 | 硬膜外腔 | 目的の神経周囲(頸部・鎖骨近く・脇の下・足の付け根など) |
| 麻酔域の広さ | 広い(下半身) | 広い(範囲は薬液量で調整) | 狭い(必要最小限) |
| カテーテル留置 | 通常は単回 | あり(術後鎮痛に継続利用) | 施行者・施設により(単回 or カテーテル) |
| 作用時間の目安 | 3〜6時間程度 | 薬剤・追加投与による | 薬剤・手技による |
| 主な用途 | 下腹部・下肢の手術 | 開腹・開胸術の術後鎮痛など | 上肢・下肢の手術、術後鎮痛 |
※作用時間・適応は代表例です。実際は患者・術式・使用薬剤により異なります。
麻酔域の目安と確認方法
デルマトームとTh(胸椎)レベル
硬膜外麻酔・脊髄くも膜下麻酔でどこまで麻酔を効かせる必要があるかは、皮膚の感覚領域(デルマトーム)とTh(胸椎)・L(腰椎)のレベルで表されます。代表的な目印は次の通りです。
| 体表の目印 | デルマトームレベル |
|---|---|
| 乳頭 | Th4 |
| 剣状突起(みぞおち) | Th6 |
| 臍(おへそ) | Th10 |
| 鼠径部 | L1 |

図: デルマトームの目印とTh(胸椎)レベル
術式によって必要な麻酔域の目安は変わります。
- 下肢の手術:L1程度まで届けば足りることが多い
- 下腹部の手術:Th10前後まで必要になることが多い
- 上腹部の手術:Th6前後まで必要になることが多い
硬膜外麻酔では、穿刺する高さそのものを手術部位に合わせて選ぶことも行われます(上腹部の手術ではTh7/8〜Th8/9あたり、下腹部の手術ではTh8〜Th11あたりなど)。必要な麻酔域・穿刺部位は患者や術式によって異なるため、目安として捉えてください。
麻酔域の確認 ― 冷覚テスト・ピンプリックテスト
麻酔がどこまで効いているかは、皮膚の感覚を左右で確認しながら評価します。代表的な方法が次の2つです。
- 冷覚テスト(コールドテスト):アルコール綿や保冷剤などで皮膚に触れ、「冷たさを感じるか」を確認します。手術予定部位の上下・左右で、正中から少しずらした位置を順に確認し、冷覚が鈍い(分からない)範囲を麻酔域として判定します
- ピンプリックテスト:先の尖ったもので皮膚に触れ、痛覚の有無を確認します
薬液投与から効果判定までは目安として20分程度かかるとされ、その間に麻酔域が予定より広がりすぎていないか(高位脊髄麻酔)、逆に足りていないかを確認します。CEが直接判定を行うことはありませんが、判定に使う物品(アルコール綿・保冷剤など)がすぐ使える状態にあるかは、準備の一部として意識しておきたい点です。
CEが関わりうる機材・機器
区域麻酔の穿刺自体は麻酔科医が行いますが、周辺機器の準備・管理でCEが関わる場面があります(施設によって範囲は異なります)。
- 超音波診断装置:末梢神経ブロックの多くは超音波(エコー)で神経・血管の位置を確認しながら行われます。装置の起動・プローブ選択・画質調整の準備を担うことがあります
- 神経刺激装置:末梢神経ブロックで、針先が神経に近づいたことを電気刺激への反応(筋収縮)で確認する目的で併用されることがあります
- 硬膜外カテーテル・PCA(自己調節鎮痛)ポンプ:術後鎮痛のために硬膜外カテーテルやPCAポンプが使われる場合、ポンプの設定・薬液の準備・作動確認に関わります
- モニタリング機器:血圧・心電図・SpO2など、麻酔中・術後のバイタルモニタの準備・管理
合併症と注意点 ― 機器面でも備える
局所麻酔薬中毒(LAST)
区域麻酔で使う局所麻酔薬の量が多い、あるいは血管内に誤って注入されると、痙攣・不整脈などを起こすことがあります。対応の詳細(脂質乳剤の使用など)は下記の記事にまとめています。
高位脊髄麻酔
脊髄くも膜下麻酔で麻酔域が予想より広がり、呼吸筋や循環系まで影響が及ぶことがあります。血圧低下・徐脈・呼吸抑制が急に進むことがあるため、モニタと救急薬品・気道確保用品をすぐ使える状態にしておくことが重要です。
硬膜外血腫・脊柱管内血腫
抗血栓薬(抗凝固薬・抗血小板薬)を使用している患者では、硬膜外麻酔・脊髄くも膜下麻酔の穿刺やカテーテル抜去に伴って血腫ができるリスクがあります。日本麻酔科学会・日本区域麻酔学会・日本ペインクリニック学会の合同ガイドライン「抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン」に、薬剤ごとの休薬期間の目安が示されています。CEとして直接の投薬判断はしませんが、患者の抗血栓薬の使用歴が申告・確認されているかは、周術期全体の安全確認の一部として意識しておきたい点です。
神経損傷
末梢神経ブロックでは、針が神経を直接損傷する、あるいは神経内に薬液を注入してしまうリスクがあります。超音波での視認と神経刺激装置の反応を組み合わせることで、リスクを減らす工夫がされています。

図: 区域麻酔の合併症
CEが確認すること
- 使用予定の機器(超音波診断装置・神経刺激装置・PCAポンプなど)が事前に動作確認されているか
- 緊急時に対応できるよう、気道確保用品・救急薬品(脂質乳剤を含む)がすぐ使える場所にあるか
- 硬膜外カテーテル・PCAポンプを使う場合、薬液の残量・投与速度の設定が指示と一致しているか
- 患者の抗血栓薬の使用歴・休薬状況が申告・確認されているか(穿刺前の安全確認の一部として)
よくある質問
脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔はどう違いますか?
穿刺する場所が違います(くも膜下腔 vs 硬膜外腔)。脊髄くも膜下麻酔は単回投与で下半身がしっかり麻酔されるのに対し、硬膜外麻酔はカテーテルを留置して薬液を追加でき、術後鎮痛にも使われます。
CEは穿刺の介助をしますか?
穿刺自体は麻酔科医が行います。CEは超音波診断装置・神経刺激装置・PCAポンプなど周辺機器の準備・セットアップという面で関わることが多く、施設によって範囲は異なります。
末梢神経ブロックで神経刺激装置と超音波はどちらを使いますか?
現在は超音波で神経・血管の位置を直接確認しながら行う方法が広く使われています。神経刺激装置は、超音波と併用して針先の位置を確認する目的で使われることがあります。
抗血栓薬を飲んでいる患者に区域麻酔はできますか?
薬剤ごとに休薬期間の目安がガイドラインで示されています。最終的な判断は麻酔科医が行いますが、周術期に関わるスタッフ全体で患者の服薬状況を共有しておくことが重要です。
まとめ
- ✅ 区域麻酔には脊髄くも膜下麻酔・硬膜外麻酔・末梢神経ブロックの3種類があり、穿刺部位・麻酔域・用途が異なる
- ✅ CEは穿刺そのものではなく、超音波診断装置・神経刺激装置・PCAポンプなど周辺機器の準備で関わることが多い
- ✅ 局所麻酔薬中毒(LAST)・高位脊髄麻酔・硬膜外血腫など、急変につながる合併症への備えも重要
- ✅ 抗血栓薬使用中の患者では、硬膜外麻酔・脊髄くも膜下麻酔にリスクがあるため休薬状況の確認が欠かせない
参考
- 日本麻酔科学会「麻酔を受けられる方へ」(区域麻酔の説明)
- 日本麻酔科学会・日本区域麻酔学会・日本ペインクリニック学会 合同「抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン」





