VA-ECMOの酸素管理 ― 高酸素とPaO2目標の考え方

はじめに
「VA-ECMOでは、PaO2を何mmHgに保てばよいのか」。現場でよく出る疑問です。
先に結論です。ELSO(体外生命維持機構)の指針には、患者の動脈血PaO2を「〇〜〇mmHg」と決めた目標値はありません。数値で示されているのは、人工肺出口のPO2を約150mmHg(軽い高酸素)に合わせることです。
一方で2025年には、右手のPaO2が150mmHg以上だと急性脳障害が多かった、という観察研究も出ました。この記事では、この2つの「150」を混同しないように整理します。あわせて、PaO2を下げたときに酸素供給(DO2)がどう変わるかを、数値で確認します。
この記事でわかること
- ELSOが示す、VA-ECMOの酸素化の目安
- 「人工肺出口の150」と「右手のPaO2」の違い
- CO2はスイープガス流量、PO2はFiO2で調整する違い
- 2025年の研究(PMID 41100353)が示したことと、その限界
- PaO2を下げてもDO2がほとんど減らない理由(計算例つき)
- DO2/VO2・SvO2で酸素が足りているかを見る考え方
- CEが確認すること
ELSOは何と言っているか
ELSOの成人VA-ECMO暫定ガイドライン(2021年)から、酸素化に関わる記載をまとめます。以下、特に断りがなければ「ELSO」はこの文書を指します。
| 項目 | ELSOの記載(要約) |
|---|---|
| 基本方針 | 行き過ぎた低酸素・高酸素はどちらも避ける |
| 人工肺出口のPO2 | ガス流量とブレンダーで、CO2は正常、PO2は約150mmHgの軽い高酸素に調整する |
| 確認のタイミング | ECMO設定を変えるたびに、人工肺出口側の血液ガスを測る |
| 測定部位 | 右橈骨動脈の血液ガスと右手のSpO2を使う(上半身の低酸素を見つけるため) |
| SvO2 | 流量とHbを調整して66%超を保つ(DO2/VO2が3を超える目安) |
| CO2 | 導入時の急なCO2低下は避ける(脳血管の収縮を防ぐため) |
患者の動脈血PaO2そのものの目標範囲は書かれていません。数値はいずれも目安です。実際の設定は、施設プロトコルと指示医の判断に従ってください。
「150mmHg」はどこの値か ― 人工肺出口と右手の違い
末梢VA-ECMO(大腿動脈から送血)では、測る場所によってPO2が大きく変わります。

図: 末梢VA-ECMOの測定部位。人工肺出口(①)と右手(②)のPO2は同じにならない
- 人工肺出口(①):人工肺を出た直後の血液です。ELSOの「約150mmHg」はこの値です。
- 右手(②):脳や冠動脈に近い、上半身の値です。自己心拍の血液とECMOの血液が混ざった結果を見ています。
- 下半身(③):人工肺を出た血液が、ほぼそのまま届きます。ELSOは、ここで高酸素と低CO2が起きやすいと注意しています。
自己心拍が回復し、自己肺の機能が悪いと、上半身だけ酸素が低くなることがあります。これを差異性低酸素(ノースサウス症候群、ハーレクイン症候群)と呼びます。右手で測るのは、これを早く見つけるためです。
CO2と酸素は別のつまみで調整する
人工肺のガス交換では、CO2はスイープガス流量、人工肺出口のPO2はFiO2(ブレンダーの酸素濃度)で主に調整します。ELSOも「ガス流量とブレンダーを調整して、人工肺出口で正常CO2と軽い高酸素(150mmHg)を目指す」としています。
| 調整するもの | 主に変わるもの | ELSOの記載(要約) |
|---|---|---|
| スイープガス流量 | CO2の除去量(PaCO2) | CO2除去はスイープガス流量で決まり、流量を増やすほど除去が増える。PaCO2を非常に効率よく下げる(VV-ECMO版) |
| FiO2(ブレンダー) | 人工肺出口のPO2 | ガス流量とブレンダーで、人工肺出口を正常CO2・PO2 約150mmHgに合わせる |
| ECMO血流量(とHb) | 全身への酸素供給量(DO2) | 流量とHbを調整してSvO2を66%超に保つ |
ここで大事なのは、FiO2を上げても、全身に届く酸素の量はあまり増えないことです。人工肺を出た血液のHbは、すでにほぼ100%酸素と結びついています。酸素供給量を増やしたいときに効くのは、血流量とHbです(後の計算例を参照)。
CO2管理でELSOが注意していること
- 導入時の急なCO2低下を避ける:脳血管の収縮を防ぐためです。VV-ECMO版も、急なCO2低下は神経障害と関連するとしています。
- ゆっくり調整する:VV-ECMO版では、導入時はスイープ2L/分・血流2L/分から始め、PaCO2とpHがゆっくり変わるようこまめに調整するのが妥当としています。スイープは通常1〜9L/分以上の範囲です。
- 下半身の低CO2に注意する:末梢VA-ECMOでは、人工肺出口の血液が下半身にそのまま届きます。高酸素と低CO2は予後に悪影響があり、避けるべきとされています。
- 設定変更のたびに人工肺出口の血液ガスを測る:ブレンダーとガス流量のどちらを変えたときも対象です。
数値はいずれも目安です。VV-ECMO版の数値は、VA-ECMOにそのまま当てはまるとは限りません。
2025年の研究は何を示したか(PMID 41100353)
Anesthesia & Analgesia誌に、VA-ECMO中の高酸素と急性脳障害の関連を調べた研究が載りました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | 単施設・後ろ向き観察研究(北京安貞医院、2017〜2024年) |
| 対象 | 心原性ショックで末梢VA-ECMOを受けた481例 |
| PaO2の測定部位 | 右橈骨動脈(ELSOの推奨に沿う) |
| 群分け(24時間後のPaO2) | 正常 60〜149 / 軽度 150〜199 / 中等度 200〜299 / 高度 300以上(mmHg) |
| 急性脳障害 | 164例(34.1%) |
正常酸素群と比べた、急性脳障害のオッズ比は次のとおりです。
| 高酸素の程度 | 4時間後 | 24時間後 |
|---|---|---|
| 軽度(150〜199) | 2.33 | 3.44 |
| 中等度(200〜299) | 4.16 | 3.28 |
| 高度(300以上) | 6.10 | 4.78 |
院内死亡については、24時間後の高度高酸素(300以上)だけが独立した関連因子でした(オッズ比2.46)。
読むときの注意点
- 後ろ向きの観察研究なので、示せるのは「関連」までです。高酸素が脳障害の原因だとは証明されていません。
- 重症の患者ほど高酸素になりやすかった、などの偏りが残る可能性があります。著者も、測れていない要因による交絡を限界に挙げています。
- オッズ比は「リスクが〇倍」とは同じではありません。
- 単施設の結果です。他施設や別の管理方法でも同じになるかは分かっていません。
この研究のPaO2は右手の値です。ELSOの「人工肺出口150」とは測定部位が違うので、そのまま比べられません。
なぜ高酸素が問題視されるのか
ELSOは、人工肺出口の血液による高酸素と低CO2が、予後に悪い影響を与えると述べています。その機序として、一般に次のようなことが挙げられています。
- 脳血管の収縮:高酸素や低CO2で脳の血管が細くなり、脳血流が減る可能性
- 活性酸素(ROS):虚血のあとに高濃度の酸素が届くと、活性酸素が増えて組織を傷める可能性(再灌流障害)
どちらも「考えられている機序」です。VA-ECMOの患者でどの程度影響するかは、まだ研究が続いています。
PaO2を下げるとDO2は減るのか
「PaO2を下げると、酸素が足りなくなるのでは」という不安はもっともです。酸素供給量(DO2)の式を分けて考えます。

図: iDO2はCI・結合酸素(Hb)・溶解酸素(PaO2)の3つで決まる
iDO2(体表面積あたりのDO2)は、次の式で計算します。
iDO2 = CI ×(1.34 × Hb × SaO2 + 0.003 × PaO2)× 10
- 結合酸素(1.34 × Hb × SaO2):ヘモグロビンが運ぶ酸素です。DO2の大部分を占めます。
- 溶解酸素(0.003 × PaO2):血漿に溶けた酸素です。PaO2を上げて増えるのはここだけです。
計算例:PaO2を300から150に下げると
Hb 8.0 g/dL、CI 2.4 L/min/m²、SaO2 100%とした仮の条件で計算します。
| PaO2 | 結合酸素 | 溶解酸素 | iDO2 | 溶解酸素の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 100 mmHg | 257 | 7.2 | 約264 | 約3% |
| 150 mmHg | 257 | 10.8 | 約268 | 約4% |
| 300 mmHg | 257 | 21.6 | 約279 | 約8% |
単位:mL/min/m²。数値は計算上の目安です。

図: PaO2を300→150mmHgにしても、iDO2は約279→268(約4%減)
SaO2がほぼ100%に保たれていれば、PaO2を半分にしてもiDO2の減少は約4%です。DO2を増やしたいときに効くのは、流量(CI)とHbです。
ただし、溶解酸素の割合はHbが低いほど大きくなります。高度の貧血では、PaO2の寄与を小さく見積もりすぎないよう注意が必要です。また、SaO2が下がる領域までPaO2を下げると、結合酸素が減ります。
酸素が足りているかはDO2/VO2とSvO2で見る
PaO2の高さよりも、「酸素の供給が消費に見合っているか」を見ることが大切です。

図: ELSOはDO2/VO2 3超を目標とし、SvO2 66%超をその目安としている
| 指標 | 目安(ELSO) |
|---|---|
| DO2/VO2 | 3超を目標(正常は約5、ショックでは約2) |
| SvO2(脱血側) | 66%超を保つ |
VA-ECMOでは、脱血管の血液の酸素飽和度(SvO2)を連続で測れます。SvO2が保たれていれば、全身の酸素需給は保たれていると考えられます。VO2はBSA × 125 mL/min/m²で概算されることが多いですが、あくまで目安です。
DO2/VO2の試算は、ECMO Supportシミュレータで手元の数値を入れて確かめられます。
CEが確認すること
- 設定変更のたびに人工肺出口の血液ガスを測る:ブレンダー(FiO2)やスイープガスを変えたら確認します。PO2とPCO2の両方を見ます。
- 右手の血液ガスとSpO2を見る:差異性低酸素を見逃さないためです。脈圧が小さくSpO2が拾えないときは、血液ガスの回数を増やします。
- 脳と下肢のNIRSを確認する:ELSOは、差異性低酸素や下肢虚血の把握にNIRSを挙げています。下肢のNIRSは50%以上(できれば60%以上)、左右差20%未満が目安です。
- SvO2の推移を追う:66%を下回る傾向があれば、流量・Hb・酸素消費の増加(発熱、シバリングなど)を確認します。
- 導入直後のCO2の下がり過ぎに注意する:スイープガスが多すぎると、急にPaCO2が下がります。
- 変更は指示医と相談する:FiO2やスイープの目標値は、施設プロトコルと指示医の判断に従います。
よくある質問
ELSOはPaO2の目標値を決めていますか?
患者の動脈血PaO2の目標範囲は示していません。示しているのは「人工肺出口を約150mmHgの軽い高酸素に」という目安と、「行き過ぎた低酸素・高酸素を避ける」という方針です。
右手のPaO2と人工肺出口のPO2は同じですか?
同じにはなりません。右手の血液には、自己肺を通った血液が混ざります。末梢VA-ECMOでは、人工肺出口の値が下半身に近い値です。
2025年の研究から「PaO2は150未満にすべき」と言えますか?
言い切れません。単施設の後ろ向き研究で、示されたのは関連です。目標値を変えるかは、前向き研究の結果や施設の方針を踏まえて判断します。
PaO2を下げると酸素不足になりませんか?
SaO2がほぼ100%に保たれていれば、DO2の減少はわずかです。上の計算例では、300から150に下げて約4%の減少でした。酸素が足りているかは、SvO2・乳酸・NIRSなどで確認します。
CO2が高いときは、FiO2を上げればよいですか?
いいえ。CO2の除去量を決めるのはスイープガス流量です。FiO2は主に人工肺出口のPO2を変えます。スイープを上げるときは、PaCO2が急に下がりすぎないよう、血液ガスで確認しながら調整します。
VV-ECMOでも同じですか?
VV-ECMOは考え方が違います。ELSOのVV-ECMO版では、動脈血SaO2は通常80〜90%で、%よりも組織の灌流で評価するとしています。詳しくはVV-ECMO管理編をご覧ください。
まとめ
- ✅ ELSOに、患者の動脈血PaO2の目標範囲はない
- ✅ ELSOの「約150mmHg」は人工肺出口のPO2
- ✅ 右手の血液ガス・SpO2で、上半身の低酸素を見る
- ✅ CO2はスイープガス流量、人工肺出口のPO2はFiO2、酸素供給量は血流量とHbで調整する
- ✅ 導入時の急なCO2低下は避ける
- ✅ 2025年の研究は、右手PaO2 150以上と脳障害の「関連」を示した(因果は未証明)
- ✅ SaO2が保たれていれば、PaO2を下げてもDO2はわずかしか減らない
- ✅ 酸素が足りているかは、DO2/VO2・SvO2(66%超)で見る
参考
- Lorusso R, et al. ELSO Interim Guidelines for Venoarterial Extracorporeal Membrane Oxygenation in Adult Cardiac Patients. ASAIO J. 2021. PDF(ELSO)
- Management of Adult Patients Supported with Venovenous Extracorporeal Membrane Oxygenation (VV ECMO): Guideline from the ELSO. ASAIO J. 2021. PDF(ELSO)
- Yang Y, et al. Early Exposure to Arterial Hyperoxia During Extracorporeal Membrane Oxygenator Support and Acute Brain Injury and Mortality in Patients With Cardiogenic Shock. Anesth Analg. 2025. DOI / PubMed
※本記事の数値はすべて目安です。実際の管理は、施設プロトコルと指示医の判断を優先してください。
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本文で触れた VA-ECMO の酸素化トラブル(North-South/人工肺の劣化/FiO₂ の考え方)を、2画面で「異常はどれか→原因→次の一手」の順に判断する練習ができます。介入モードで FiO₂・回転数・スイープを動かして、送血側 SO₂ や PaCO₂ の反応を確かめられます。



