ECMOの送血圧・脱血圧の異常とトラブル対応 ― 原因の切り分けとCEが確認すること

はじめに
ECMOを回していて、脱血圧がじわじわ下がっている、あるいは送血圧が上がっている。そういう変化に気づいたとき、まず考えるべきは「これは人工肺の問題か、それとも人工肺より手前(脱血側)か、後ろ(送血側)か」という切り分けです。
結論から言うと、見るべきポイントは1つです。ΔP(人工肺前後の圧較差)が変わっているかどうか。ΔPが変わらないまま脱血圧・送血圧だけが動いているなら、問題は人工肺本体ではなく、回路の手前か後ろにあります。この記事では、脱血不良(チャタリング)と送血圧上昇、それぞれの原因の切り分け方と、CEが確認することを整理します。
人工肺自体のガス交換不良・ΔP上昇については、別記事「人工肺のガス交換不良」で扱っています。今回はその手前・後ろの話です。
この記事でわかること
- 脱血不良(チャタリング)が起きる機序と、よくある原因
- 送血圧上昇のパターンと、脱血不良との見分け方
- 送血圧上昇の回路側・患者側の原因
- ELSOが定める圧の装置仕様と、臨床での目安の違い
- CEが確認すること・対応の考え方
回路の圧は3点で見る
ECMOの回路には、主に3つの圧のポイントがあります。
| 測定点 | 何を見ているか | 異常の意味 |
|---|---|---|
| 脱血圧(access/drainage pressure) | ポンプ手前、脱血カニューレ側の圧(通常マイナス表記) | 脱血不良(静脈からの還流不足) |
| ΔP(人工肺前後の圧較差) | 人工肺の目詰まり具合 | 人工肺内の血栓・閉塞 |
| 送血圧(return/post-pump pressure) | ポンプから患者に戻る側の圧 | 送血側の閉塞・狭窄 |
回路圧は脱血側・人工肺前後・送血側を組み合わせて確認する。ΔPが変わる場合は人工肺、ΔP不変で脱血圧・送血圧が動く場合は人工肺より手前か後ろの問題を考える。
脱血不良ではΔPは変わりませんが脱血圧が大きく変化し、送血圧上昇では脱血圧・送血圧がともに上がるのにΔPは変わりません。このΔPが「動くか動かないか」が、人工肺の問題かそうでないかを分ける一番の手がかりです。
脱血不良(チャタリング)― 機序
遠心ポンプは前負荷依存性です。ポンプの吸引力に対して静脈からの還流が追いつかないと、脱血カニューレの周囲で血管が虚脱し、カニューレの脱血孔を塞いでしまいます。血管が元の形に戻ると再び脱血できるようになり、これを繰り返すことで回路のチューブが振動します。これが「チャタリング(chatter/chugging/kicking)」と呼ばれる現象です。
チャタリングを放置すると、圧の変動がキャビテーションや溶血につながることがあります。見た目に分かりやすい異常なので、「チューブが揺れている」と気づいた時点で原因を探すのが実際的です。
遠心ポンプは前負荷依存性のため、静脈からの還流が追いつかないと血管の虚脱と再開通を繰り返し、チャタリングが起きる。
脱血不良の原因
| 分類 | 原因の例 |
|---|---|
| 回路側 | 脱血カニューレが細すぎる/屈曲・血栓・閉塞/ポンプの吸引力が血流量に対して過大 |
| 患者側 | 循環血液量減少(出血・脱水)/血管拡張(鎮静が浅い・発熱・敗血症など)/怒責(咳嗽・体動・Valsalva)/気胸や過膨張肺によるPEEP上昇/心タンポナーデ/腹腔内圧上昇 |
患者側の原因が多いのが特徴です。回路だけを疑って終わらせず、出血・脱水・気胸・タンポナーデといった患者側の変化も合わせて確認する必要があります。
脱血不良への対応の考え方
- 回転数を一時的に下げる。チャタリングが止まり、脱血圧が戻り、血流量の変動が収まるか確認する
- 回路(屈曲・圧迫・クランプ忘れ)を確認する
- 直前に体位変換をしていれば、元の体位に戻してみる
- 輸液反応性を評価する。補液のトライアルが第一選択とされることが多いが、輸液過剰はECMO期間の延長や生存率低下と関連するという報告もあり、他の原因を除外してから行うべきという考え方もある
- それでも脱血不良が続く場合は、脱血カニューレの追加を検討する
補液は「とりあえず入れる」ものではなく、他の原因(出血・気胸・タンポナーデなど)を除外したうえでのトライアルという位置づけです。
送血圧の上昇 ― 脱血不良との見分け方
送血圧の上昇では、脱血圧・送血圧の両方が上がるのに、ΔP(人工肺前後の圧較差)は変わりません。血流量は低下または途絶し、急な低酸素血症や血圧低下を伴うこともあります。
脱血不良が「ポンプ手前の問題」だとすれば、送血圧上昇は「ポンプから患者までの間、どこかで抵抗が増えている」状態です。原因の場所は、回路内(チューブ・カニューレ)と血管内の両方があり得ます。
ある施設のアルゴリズムの例(LHSC、2024年2月改訂)。両パターンともΔP不変であり、普遍的な診断基準ではない。実際の対応は各施設のプロトコル・灌流担当者・医師の指示を優先する。
送血圧上昇の原因
回路の外側(チューブ・カニューレの物理的な問題)
- ポンプと送血カニューレの間のチューブの屈曲・圧迫・クランプのかけ忘れ
- 送血カニューレの位置ずれ(体位変換の直後に多い)
- 血管内の血栓による送血の妨げ
回路の内側(血液の問題)
- 回路内血栓症。適切な抗凝固の維持が前提になる
患者側(VV-ECMOの場合)
右房圧を上げる要因が関係します。緊張性気胸・腹腔内圧上昇・心タンポナーデ、咳嗽やValsalva動作など。
患者側(VA-ECMOの場合)
高血圧、大動脈解離が挙げられます。
送血圧上昇への対応の考え方
体位変換の直後に発症していれば、まず元の体位に戻します。次に回路(クランプのかけ忘れ・屈曲)を確認し、POCUSで評価します。原因がすぐに分からない場合は、灌流担当者と医師にすぐ連絡する流れが基本です。
ここで気をつけたいのは、送血圧が高いまま回転数を上げて無理に押し通そうとしないことです。送血側に抵抗がある状態で回転数だけ上げると、脱血側に過大な陰圧がかかり、溶血のリスクが上がります。解除できない場合は人工呼吸への完全移行を検討し、心停止に至れば通常のCPR/ACLSの対応になります。
ELSOの装置仕様と、臨床の目安は別物
ここで混同しやすいのが、ELSOが定める「装置としての圧の上限」と、臨床でよく言われる「正常範囲の目安」です。
ELSOのガイドラインでは、吸引(inlet)圧は回路を完全に閉塞させた状態でマイナス300mmHgを超えないこと、出口(outlet)圧は400mmHgを超えないことが装置の仕様として定められています。マイナス300mmHgを超える陰圧がかかる状態はチャタリングが起きている状態で、溶血の原因になります。正常な血漿遊離ヘモグロビンは10mg/dL未満が目安です。
一方で、臨床の目安として「脱血カニューレ圧は通常マイナス50〜80mmHg、マイナス100mmHgを下回ると脱血障害を疑う」という数値を紹介している文献もあります。これはELSOのマイナス300mmHgとは別次元の、もっと早い段階の目安です。施設や文献によって幅があるため、断定的な基準として覚えるより、「正常範囲から外れてきた」という変化の方向を見るほうが実際的だと思います。
CEが確認すること
- 脱血圧・送血圧・ΔP(人工肺前後)・血流量・回転数の経時変化
- チャタリング(チューブの振動)の有無
- 回路全体の屈曲・圧迫・クランプの状態。特に体位変換の前後
- 患者側の要因(出血・脱水所見、気胸、腹部膨満、咳嗽・体動)
- 血漿遊離ヘモグロビン・尿の色(溶血の評価)
よくある質問
脱血圧と送血圧、どちらが先に動くことが多いですか
一概には言えません。原因によります。ただし脱血不良はチャタリングという目に見える兆候が伴うことが多く、送血圧上昇は体位変換の直後に起きることが多い、という傾向はあります。
チャタリングが起きたら、まず何をしますか
回転数を一時的に下げます。チャタリングが止まり脱血圧が戻るか確認してから、回路の屈曲や患者側の原因を探るのが基本の流れです。
送血圧が上がっているとき、回転数を上げて流量を保とうとしてよいですか
おすすめできません。送血側に抵抗がある状態で回転数を上げると、脱血側に過大な陰圧がかかり、溶血のリスクが上がります。原因を先に探すことが優先です。
ΔP(人工肺前後の圧較差)が変わらないのに脱血圧・送血圧だけが動くのはなぜですか
ΔPは人工肺そのものの状態を反映します。人工肺本体に問題がなければΔPは変わらないため、問題は人工肺より手前(脱血側)か後ろ(送血側)にある、と判断する手がかりになります。
これらの数値は全施設共通の基準ですか
いいえ。ELSOが定めているのは装置としての圧の上限(マイナス300mmHg、400mmHg)で、臨床での目安の数値は文献や施設によって幅があります。実際の対応は、各施設のプロトコル・灌流担当者・医師の指示が優先されます。
まとめ
- ΔP(人工肺前後の圧較差)が変わるかどうかで、人工肺の問題かそうでないかを切り分ける
- 脱血不良(チャタリング)は前負荷不足が本質。回路側だけでなく患者側の原因(出血・気胸・タンポナーデなど)も確認する
- 送血圧上昇は脱血圧・送血圧がともに上がりΔPは不変。体位変換直後の発症が多い
- 送血圧が高いまま回転数を上げて無理に押し通さない
- ELSOの装置仕様(マイナス300mmHg/400mmHg)と、臨床の目安の数値は別物として扱う
参考
- ELSO General Guidelines for Cardiopulmonary Extracorporeal Life Support, Version 1.4, August 2017
- Zakhary B, Vercaemst L, Mason P, Lorusso R, Brodie D. "How I manage drainage insufficiency on extracorporeal membrane oxygenation." Crit Care. 2020;24:151.
- Sidebotham D. "Troubleshooting Adult ECMO." J Extra Corpor Technol. 2011;43:P27-32.
- Berdajs D. "Troubleshooting in extracorporeal life support." Swiss Med Wkly. 2015.





