除細動器・AEDの周術期スタンバイ管理 ― いざという時に機能させるために

はじめに
手術室における除細動器は、「使わずに済むことが望ましいが、いざ必要になったときに確実に作動しなければならない」という、他の周術期機器とは少し性質の異なる存在です。使用頻度が低いからこそ、日常点検やスタンバイ体制の質が問われます。心室細動(VF)や無脈性心室頻拍(pulseless VT)は、手術操作や麻酔管理、電解質異常、循環血液量減少など様々な要因で周術期にも起こりうる不整脈であり、初動の遅れが予後を大きく左右します。
この記事では、CEの視点から、除細動器・AEDの周術期におけるスタンバイ管理の考え方、日常点検のポイント、緊急時に即応するための体制づくりについて整理します。
ポイント ・除細動器は「使用時に初めて不具合に気づく」ことが最も避けるべき事態 ・パッド・電極の使用期限、バッテリー残量、自己診断機能の確認が日常点検の基本 ・手術室では二相性除細動器の設定・同期モードの理解がCEに求められる ・経皮ペーシングは電気的キャプチャだけでなく機械的キャプチャの確認が不可欠
手術室で除細動器が必要になる場面
除細動器(AEDを含む)が周術期に必要とされる場面は、決して稀ではありません。
- 心室細動・無脈性心室頻拍の発生時:循環虚脱、急性心筋虚血、電解質異常(特に高カリウム血症)、麻酔薬・局所麻酔薬中毒などが誘因となりうる
- 心臓血管外科手術中の意図的な除細動・カルディオバージョン:人工心肺離脱時の心室細動に対する除細動、不整脈治療としての電気的カルディオバージョン
- 開胸手術での直接(体内)除細動:胸腔内で直接心臓にパドルを当てて行う除細動で、体外式とはエネルギー設定が大きく異なる
- ペースメーカ・ICD植込み患者の周術期:デバイス自体は除細動機能を持つが、電磁干渉により正常作動しない可能性がある場面でのバックアップとして
これらの場面すべてに共通するのは「発生を正確に予測できない」ことであり、だからこそ常時使用可能な状態を維持しておく体制が必要になります。

図: 手術室における除細動器の主な使用場面(体外式・体内式・カルディオバージョン)
日常点検のポイント
除細動器の点検は「電源が入るか」だけでは不十分です。以下の項目を体系的に確認する必要があります。
1. 本体・バッテリー
- バッテリー残量表示の確認:フル充電状態を維持し、使用後は速やかに充電に戻す運用を徹底する
- 自己診断(セルフテスト)機能:多くの機種は定期的に自己診断を実施し、異常があればインジケーターで通知する。このインジケーターの見落としが最も多いトラブル要因の一つ
- AC電源接続の確認:常時スタンバイの機器はAC電源に接続されているか、コンセントの抜けがないかを定期確認する
2. パッド・電極
- 使用期限の確認:使い捨てパッドにはゲルの乾燥・劣化を防ぐための使用期限がある。期限切れのパッドはインピーダンスが上昇し、十分なエネルギーが伝わらない可能性がある
- 保管環境:高温多湿を避けた保管が推奨される。ゲルの乾燥は接触不良に直結する
- 小児用パッド・体内式パドルの在庫:対象患者や術式に応じて必要な付属品が揃っているか確認する
3. 充電・放電テスト
- 定期的な充電・放電テスト:施設の点検基準に従い、定期的にエネルギーが正しく充電・放電されるかをテストする
- 記録の保管:点検結果は記録として残し、異常の早期発見・トレンド管理に活用する
4. 二相性除細動器の設定確認
- 現在主流の二相性除細動器は、単相性に比べ低いエネルギーで同等以上の効果が得られるとされる
- 機種ごとに推奨エネルギー設定が異なるため、施設で使用している機種の標準設定をCE・医師・看護師で共有しておく
- 体内式除細動(開胸時)は体外式とはエネルギー設定が大きく異なるため、誤って体外式の高エネルギーを体内式で使用しないよう、パドルの種類・設定の切替を確実に行う

図: 除細動器の日常点検チェックリスト(本体・バッテリー・パッド・充放電テスト)
同期(シンクロナイズド)モードの理解
除細動器には「除細動(非同期)」と「カルディオバージョン(同期)」の2つのモードがあり、この違いを理解しておくことは周術期対応で重要です。
| モード | 対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| 除細動(非同期) | 心室細動、無脈性心室頻拍 | 心電図のタイミングに関わらず、直ちに通電する |
| カルディオバージョン(同期) | 心房細動、心房粗動、脈のある心室頻拍など | R波に同期して通電し、脆弱期(T波付近)への通電を回避する |
同期モードは通電のたびに再設定が必要な機種が多く、前回の通電が同期モードのままだと次の緊急除細動で意図せず同期待ちになってしまうことがあります。使用後は必ずモードを確認し、次の使用に備えてリセットする運用を徹底することが、CEとして押さえておくべき重要なポイントです。
経皮ペーシング(体外式ペーシング)の原理と使い方
多くの除細動器・除細動器付きモニターには体外式(経皮的)ペーシング機能が搭載されており、症候性徐脈や高度房室ブロックなど緊急を要する徐脈性不整脈に対する「橋渡し」的治療として、周術期でも重要な役割を果たします。
原理
- 体表に貼付した大型の電極パッド(除細動用パッドと兼用、または専用パッド)を介して、比較的大きな電流(通常40〜200mA程度)を短いパルス幅で流し、皮膚・皮下組織を介して心筋を直接刺激し、収縮を誘発する
- 経静脈ペーシングのように心腔内に電極を留置するわけではないため非侵襲的かつ迅速に開始できる一方、必要な電流量が大きく骨格筋の収縮を伴うため、患者に強い不快感・疼痛を与える
- あくまで一時的な緊急対応であり、経静脈ペーシングや恒久ペースメーカ植込みなど根本的な治療までの「つなぎ」として位置づけられる
適応となる場面
- 症候性徐脈(意識レベル低下、血圧低下を伴う徐脈)
- 高度房室ブロック、洞不全症候群による著しい徐脈
- 薬剤抵抗性の徐脈性不整脈
- 周術期に突発する高度徐脈・心停止に近い状態への緊急対応
- ペースメーカ本来の機能が電磁干渉などで一時的に失われた場合のバックアップ
使い方の実際
- パッド貼付位置の選択:前面-後面配置(胸骨左縁〜左肩甲骨下部)または前面-心尖部配置。除細動と兼用する場合は、除細動時にも支障のない位置を選ぶ
- モード設定:デマンドモード(自己心拍を感知し必要時のみ刺激)を基本とし、心電図の感知が不安定な場合は固定レートモードも検討する
- レート設定:通常60〜80/分程度に設定する
- 出力(電流)の調整:低い出力から徐々に上げていき、心電図上でペーシングスパイク直後に幅広いQRS様波形(電気的キャプチャ)が出現する最小出力を確認し、それより10〜20%程度高い出力で維持する
- キャプチャの確認:心電図上の電気的キャプチャだけでなく、橈骨動脈・大腿動脈の触知やAライン波形など、機械的キャプチャ(実際に血圧が保たれているか)も必ず確認する
使用時の注意点
- 疼痛・不快感への配慮:意識のある患者では強い痛みを伴うため、鎮静・鎮痛薬の投与を検討する
- 皮膚熱傷リスク:パッドの密着不良や長時間使用で熱傷を起こすことがあるため、皮膚状態を定期的に確認する
- 見せかけの電気的キャプチャに注意:モニター上はペーシングスパイクに続く波形が出ていても、実際の心収縮(機械的キャプチャ)を伴っていないことがあるため、脈拍・血圧の実測が不可欠
- 除細動パッドとの併用時の位置関係:兼用パッドを使用する場合、除細動時に十分なエネルギーが心臓を通過する位置関係になっているか確認する

図: 経皮ペーシングのパッド配置と電気的キャプチャ/機械的キャプチャの確認ポイント
緊急時の即応体制づくり
- 設置場所の統一と周知:手術室ごとに除細動器の定位置を統一し、誰もが迷わず取りに行ける状態にする
- パドル・パッドの即時使用可能性:ケーブルの絡まり、パッケージの未開封状態などを日常点検で確認しておく
- 多職種でのシミュレーション訓練:術中急変を想定したシミュレーションに、CEも積極的に参加し、機器操作の実演・トラブルシューティングを共有する
- 体内式パドルの取り扱い訓練:心臓血管外科では特有の運用となるため、術式に関わるスタッフ間で事前の手順確認を行う
- 代替機の確保:点検中・修理中の機器がある場合の代替機の運用ルールをあらかじめ定めておく
トラブルシューティングの視点
| 症状 | 考えられる原因 | 対応 |
|---|---|---|
| 電源が入らない | バッテリー切れ、AC電源未接続 | バッテリー交換・充電、電源接続確認 |
| 通電してもエネルギーが伝わらない | パッドの劣化・接触不良、期限切れ | パッド交換、貼付状態の確認 |
| 心電図波形が表示されない | パッド・電極ケーブルの接続不良 | 接続確認、パッド交換 |
| 自己診断エラー表示が出ている | 内部バッテリー・回路の異常 | 直ちに保守担当・メーカーへ連絡し、代替機に切り替える |
CEとしての役割
除細動器は「クラッシュカート」の中核をなす機器であり、その信頼性を維持する責任はCEの重要な業務の一つです。実務では、
- 日常点検・定期点検の実施と記録管理
- パッド・電極など消耗品の使用期限管理と在庫確認
- 二相性除細動器の設定・同期モードについての多職種への情報提供
- 緊急時シミュレーションへの参加と、機器トラブル発生時の迅速な対応
といった役割を担います。「使われないことが一番良い機器」だからこそ、日頃の地道な点検と体制づくりが、いざという時の患者の予後を左右することを意識して業務にあたることが求められます。
まとめ
✅ 除細動器は使用頻度が低いからこそ、日常点検の質が問われる機器 ✅ バッテリー残量、自己診断機能、パッドの使用期限を定期的に確認する ✅ 二相性除細動器の推奨エネルギー設定を多職種で共有しておく ✅ 除細動(非同期)とカルディオバージョン(同期)の違いを理解し、使用後は必ずモードをリセットする ✅ シミュレーション訓練への参加と代替機の確保で、緊急時の即応体制を整える ✅ 経皮ペーシングは電気的キャプチャに加え、脈拍・血圧など機械的キャプチャの確認が必須
これで周術期モニタリング・機器管理シリーズの5回分をまとめました。次回以降も、CEが周術期に関わる具体的な場面を一つずつ取り上げていきたいと思います。





